第477話 突然の決着

 急に無抵抗になったケンセーの、その完全無防備な小さな身体を――フルブーストされて振りぬかれた渾身の《2年S組の剣おたまブレード》が激しく打ち叩いた。


「はぇ――――?」

 上がった間抜けな声は、クリティカルヒットを入れた側である俺の発したもので――。


「え、いや、ケンセー……?」


 俺がそんな言葉を発した時には、もう既に強烈な一撃を受けたケンセーが文字通り吹っ飛んでいくところだった。


 ケンセーの小さくて華奢きゃしゃな身体は10メートルを超えて宙を飛んだ後、落下して勢いそのままに地面を転がっていく。


「ちょ、おいケンセー!? なんで今、力を抜いたんだっ!」


 唐突に訪れた予想外の結末に、俺は慌てて地面に転がったままのケンセーの元へと駆け寄った。


 しかし――俺が近づいてもケンセーは倒れたままでピクリともしないのだ。

 膝をついて《2年S組の剣おたまブレード》を脇に置いた俺は、その身体をいたわるようにそっと抱き起こした。


 おたまを手放したことで、剣を持つという使用条件を失った最強S級チート『剣聖』の存在感が俺の中で急速に薄まっていく。

 それが完全に消えてしまう直前に――、


 フォン――


 『剣聖』がわずかな気配のブレを見せた。

 ……まったくよ。


「ああわかってるさ! 名前を勝手に使われたりでちょっとやりあってたけど、なんだかんだでおまえもケンセーのことが心配なんだよな。安心しろ、ケンセーをこのままになんてしやしないから――!」


 まったく、どいつもこいつも心配性のお人よしなんだから――。


「おいケンセー大丈夫か! 返事をしてくれケンセー! おい、おい! ケンセー!」

 俺は腕の中でいまだぐったりしたままのケンセーに、必死に声をかける。


「ケンセー、ケンセー! 傷は浅いぞしっかりしろ! なぁケンセーってば!」

 抱きかかえた手で時おり軽く肩を叩きながら、目をつむったままのケンセーに俺は何度も何度も声をかけ続けた。


 すると声をかけ続けること1分ほどで、


「ぅ……ん――――っ」

 ケンセーのまぶたが弱弱しく開かれた。


「よかった、意識が戻ったか」

「ぁ、セーヤくんだ……」


「ああ俺だぞ」

 言って、俺は安心させるようにニコッと笑ってみせる。


 ケンセーが意識を取り戻したことに、俺はひとまずホッとしていた。

 いきなり理由も分からないまま抵抗を止めたケンセーを、そのまま勢いあまって殺しちゃったとか――せっかく心の底から分かりあえたところだったのに、さすがにそれはないってなもんだろう。


「セーヤくんにぎゅってされてる……えへっ、もっとして?」

「ああ、こんなことくらいいくらでもしてやるぞ」


「ありがと、セーヤくん……大好き……」

 俺は少しの間、子猫のように甘えてくるケンセーを優しく抱きかかえてから、


「――それでその、痛いとこはないのか?」

 意を決してそう切り出した。


「痛い……? そーだね、痛いって言ったら身体中が痛いかな。【全チートフル装備】の負荷が今一気にきてるのと、最後にすっごくいいのもらっちゃったからね」


「それだよ! ケンセー、おまえなんで急に力を抜いたんだよ?」


 あの段階ではケンセーには、戦う余力がまだまだ十分にあったはずだ。

 スポコン漫画のライバル対決かよってくらいに、お互い気持ちいいほどに全力をぶつけ合っていて。

 だっていうのに、


「なんで突然、こんな試合放棄みたいな真似をしたんだよ――」

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