第468話 トゥルーエンド

「はぁっ!? いやあのケンセー? なんで急にそうなった?」


 今、一緒に死んでって言ったよな?

 なんだよそれ!?


「だってそうでしょ? セーヤくんと離ればなれになるくらいなら、いっそのことセーヤくんと心中すればいいだけだよね。当然の結論でしょ? おかしなセーヤくん」

 驚きをあらわにした俺に、超然とした口調で語りかけてくるケンセー。


「いやそれはどうだろうね? いきなり心中はさすがに飛躍しすぎじゃないかな? ここは早まらずに一旦、立ち止まって考え直すべきじゃないかな? ね?」


 これはあかんと、速攻で説得にかかった俺を尻目に、


「全開放、13万5000倍ブースト。【全チートフル装備】、発動」


 ケンセーは淡々と準備を進めていく――俺と心中する準備を。

 心中か、うん心中ね……激しい困難に直面した愛しあう男女が、互いの愛の深さを証明するべく共に命を絶つ――的なヤツだ。


 まぁなんだ……いきなり心中はないだろ、常識的に考えて!

 

「ちょ、おい、ケンセー! おいってば! 早まるのはよそう! まずは話を聞いてくれないか?」


「話ならもういっぱいしたでしょ? でもダメだった、私は納得できなかった……だから最後のお願いをするの。悪いのは全部私だから。ほんと、勝手ばっか言ってごめんねセーヤくん」


 だめだ、今のケンセーはけんもほろろで取り付くしまもない――。


「だ、だけどだケンセー。10000倍ブーストの負荷による反動でダメージを受けた今の状態で。そんな弱った身体で全チートをブーストなんかしたら、お前ただじゃすまなくなるぞ?」


 少し方向性を変えてみた俺の説得も、


「うん、知ってるよ? だってもう既に私の存在は膨大なエネルギーに飲み込まれつつあるもん」

 さらっと恐ろしいことを言ったケンセーは、さっぱり聞く耳を持ってはくれず。


「分かってるって言うならなんでケンセー、お前はそんなに平然としていられるんだよ!」

 自分の存在が消えるって言うのに――!


「だってもう私は自分の存在なんて、そんなものに未練も執着もなーんにもないんだもん。今度こそ本当に私は消える――大好きなセーヤくんと一緒にね。二人で一つの終わりを迎えるの。素敵でしょそれって」


「何が素敵なんだよ、全然ハッピーエンドじゃないだろうが――!」


「ハッピーエンドじゃないかもだけど、うん、きっとこれはトゥルーエンドなんだよ。そう、ハッピーエンドのさらに最後に用意された本当のエピローグ。ふっ、ふふっ、とってもステKiきききき――」


 そこまで言ったところで突然、ケンセーの身体がガクガクと震え出した。


「えへへへHEHE? そもそもセーヤくんが言ったんだよ、あぐ――、チートは13万5000もあるのに10000倍ブーストしかしないなんて覚悟がないって。なんにもわかってないって、セーヤくんが言ったんだよ?」


「ケンセー、今のお前はちょっと、いやかなりヤバいぞ――」


「あっ、ひっ、そうだよね、私には覚悟がなかったよね。全然なかったよね、ヤバいくらいに足りてなかった。あぅ、ぁぐっ、そんな甘い考えで、セーヤくんが手に入るわけ、なかったよね……?」


「ケンセー、お前――」

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