第456話 おたまブレード

「なぁケンセー、お前だってもう分かってるだろ? それが真っ当な考えじゃあないってことくらい」

 頭のよく回るケンセーのことだ、そんなことくらい当然気づいているはずだ。


「それでも……それでもっ! 私はチート学園を続けるの! セーヤくんが欲しいの! セーヤくんの隣にいたいの! 毎朝セーヤくんを起こしてあげて、毎日セーヤくんにお弁当を作ってあげて、セーヤくんに膝枕して耳掃除をしてあげて! それで! それで! 私はセーヤくんの一番になりたいの――っっ!!」


 まるでかんしゃくを起こしたみたいに、顔を真っ赤にして地団太じだんだを踏みながら、俺を好きだと叫びながらまくしたてるケンセー。


「ほんと、そこまで俺のことを好きになってくれてありがとなケンセー。ケンセーみたいな可愛い子に好いてもらえて、それはもう言葉にできないくらいに俺は嬉しいんだ」


 俺の右手に集まってきていた熱の塊のようなエネルギーが、一つの形を取り始める。


「でも何度も言うが、ここでケリをつけさせてもらうぞ。みんなが託してくれたこの力で――!」


 みんなと過ごしたチート学園での思い出。

 あんなことやこんなこと――無数の思い出を込めて作られたその剣は、S級チートの力を束ねて作り上げた最強の武器であり――、


「チートマスター・麻奈志漏まなしろ誠也がこいねがう――! 出でよ――! 想いが織り成すしんなる神剣よ! チート剣 《2年S組の剣おたまブレード》発動!」


 そして輝く光とともに、エアーソフト剣を上書きするようにして顕現したそれは――!

 それは――、一本の『おたま』だった。


「…………えっと? はい?」

 なんかもうどうしようもなくて、ただただ困惑するだけのケンセーとは対照的に、


「ふふん、どうだ」

 みんなの想いを最高の形にしてみせた俺は、どこへ出しても恥ずかしくない程のどや顔だった。


「ねぇあの、セーヤくん……? その、こんな時になんなんだけどさ? えっとその……私の目にはセーヤくんが『おたま』を持っているように見えるんだけど……ほら、お味噌汁とかすくったりするやつ」


 ケンセーが目をぱちくりさせながらおそるおそる問うてきた。


「ああ、これは《2年S組の剣おたまブレード》、『おたま』で間違いないぞ?」

 そんなケンセーに自信満々に答える俺。


「あ、うん、やっぱ『おたま』なんだ……そっか……?」

 しかしケンセーは「《2年S組の剣おたまブレード》……?」って感じで腑に落ちない顔をしたまま言葉に詰まっていた。


 そんな微妙なやり取りをしながら、俺は唯一の気がかりだった『剣聖』と『おたま』の関係について確認をとっていた。


「……よし、『剣聖』は問題なく発動してるな」


 《2年S組の剣おたまブレード》を剣だと『剣聖』が判定してくれるかは半分賭けだったんだけど、よかった、ちゃんと剣と認識してくれたようだ。


 ――いや違うな。

 『剣聖』と一体化しつつある今ならわかる、『剣聖』は『おたま』のことを認めているんだ。


 最強の王竜と対峙してみせた英雄の竜斬剣ドラゴンスレイヤーとして、『おたま』を『剣聖』が扱うにふさわしい武器として認めているのだ――!!

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