第457話 見くびるなよ『おたま』を――!

「ねぇセーヤくん、なんでここで『おたま』なの……?」

 そう尋ねてくるケンセーに、


「分かんないのかケンセー? 俺のことなんでも分かるって言ってたのにさ?」

 俺はちょっとあおり気味に言葉を返す。


「さすがにこれは分かるわけないでしょ!?」


「ウヅキはさ――」

「……え?」


「ウヅキはさ、これで――『おたま』で《神焉竜しんえんりゅう》に立ち向かったんだ」

「――ぁ」


 ケンセーがハッと何かに思いいたった顔をした。


「やっと分かったみたいだなケンセー。あれ以来、俺の中で『おたまこいつ』は《草薙の剣クサナギ》に次ぐ神剣の一つなんだよ」


 あの時のウヅキは本当に何の変哲もないただの家庭用『おたま』だけで、最強のSS級たる《神焉竜しんえんりゅう》に立ち向かってみせたんだ。


「2年S組のみんなの力を形にしようとした時にさ、ピキーンてさイメージが閃いたんだ。もうその瞬間、これしかないって確信したね」


「それで『おたま』……《2年S組の剣おたまブレード》……!」

「ま、そういうことだ」


 ニヤリと笑って答えながら、俺は《2年S組の剣おたまブレード》をチャキっと構えた。


 自信満々な顔をして『おたま』を剣のように構える俺の姿は、傍から見れば間抜けなことこの上ないだろう。

 ――だがそれがなんだってんだ?


「俺にとって《2年S組の剣おたまブレード》は、チートっ子たちの想いとウヅキの勇気を象徴する、最強の想いの剣、心剣なんだよ――!」


 そもそもここには俺とケンセーしかいないんだからな。

 誰かの目を気にする必要なんて最初からありはしないのだ――!


「行くぞケンセー! 《2年S組の剣おたまブレード》で! みんなの想いを形にしたこのおたまで、俺はお前を倒す――!」


「私だって、私だって『おたま』なんかに! セーヤくんを好きな気持ちは、『おたま』なんかに負けないんだから! チート・ブースト! てりゃぁぁぁぁぁぁ――――っっっっ!!」


 今までのどこか可愛い感じとは全く違った気合の入った掛け声とともに、一気の飛び込みで距離を詰めてくるケンセー。

 そこから繰り出されるのは、超ブーストされたA級チート『20世紀最後の暴君』による苛烈極まりないキックキックキックの超連続攻撃だ――!


 だがしかし――!


「今までと同じようにはいかないぜ! おおおおおおぉぉぉぉぉっっっっ――――!!」


 爆弾低気圧のような猛烈なケンセーの足技を、俺は《2年S組の剣おたまブレード》でもって危なげなくさばいてのけた。


「このっ、このっ! 『おたま』なんかに! 『おたま』なんかに!!」

 ここまで圧倒的な力を見せてきた自慢の足技を簡単に防がれてしまったケンセーが、悔しさを顔いっぱいににじませる。


「言っただろ、見た目は『おたま』だけど《2年S組の剣おたまブレード》はみんなの思いを込めて生まれ落ちた、心なる神剣だってな! その程度の攻撃、最強S級チート『剣聖』と《2年S組の剣おたまブレード》の前には通用しないぜ――! 見くびるなよ『おたま』を――!!」


「ぬぬぬっっ! 『おたま』のくせに、『おたま』のくせにぃっ!! ワンモア・チート・ブースト! てりゃりゃやぁっ!!」


 大きな声を張り上げたケンセーがまたもやパワーをブーストし、その攻撃がさらに激しさを増してゆく。

 だがしかし《2年S組の剣おたまブレード》を得た『剣聖』は、さしずめ水を得た魚だ。


 更なるブーストを行ったケンセーの猛撃すらも――、


「なんだケンセー、そんな程度か?」

 ――最強S級チート『剣聖』の前では児戯に等しい!

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