第405話 俺とケンセー

「今日の球技大会も楽しかったなぁ」


 5月半ば。

 球技大会のフットサルにて、俺たち2年Sクラスが優勝をなしとげたその帰り道。


 俺はケンセーと肩を並べて今日という日を楽しく振り返っていた。


「フットサルはネイマールチャレンジちゃんがバロンドール級に鬼つよだからねー。決勝とか張り切りすぎて一人で10点も取っちゃうし。ぶっちゃけ反則だよ」


「それもあるけどさ? ほら俺の活躍だって結構なもんだっただろ?」


 女の子ばかりの中で、恥ずかしげもなく男の身体能力を生かして活躍した俺だった。

 だったんだけど――、


「……活躍? セーヤくんは試合中は相手チームの女の子に、試合がないときは手あたりしだいに周りの女の子に声かけてたよね。楽しかったんだ? よかったね?」


「……」

 そして指摘された事実が真実すぎて、なにも言い返せない俺だった。

 道端の石ころでも見ているかのようなケンセーの冷たい目が心苦しいです……。


 でもさ?

 俺がちょっと話しかけたらね?

 女の子たちがみんな嬉しそうにきゃっきゃうふふしてくれるんだよ?

 身体を寄せてきたり手を握ってくれたりもあってさ?


 そんなの楽しくてついついおしゃべりに熱中しちゃうじゃん……?


「まぁそれはいいや、だってセーヤくんだし」

 ううっ、ひどい言われようだ……いや言い返せないんだけど……。


「それでセーヤくん?」

「ん? 急に真面目な顔してどうしたんだよ?」


 唐突に神妙な顔をして居住まいをただしたケンセー。


「最近『あれっ?』って思ったり、なんか変だなーって思ったりすることってないかな?」

「お前はまたそういうふんわりとしたことを聞いてくる……」


 なんか最近ケンセーからこうやってちょこちょこ謎の質問をされるんだよな。

 なんなんだろう?


 あ、あれかな?

 自分が特別な存在で、最近何者かに狙われてるような気がする……とか考えちゃうお年頃ってやつかな?


 まったく、しゃーないやつだなぁ。

 こういう多感なお年頃の時は自分が特別に思えるもんだし、ここは温かい目で見守ってあげるとしよう。


「うーんそうだなぁ……あ、しいて言えば」

「しいて言えば?」


「人生が楽しすぎて『あれ、こんなに幸せでいいのかな』って思うことがある。いやーモテるって最高だな!」


 なんというかまぁ、俺は調子に乗っていた。

 でもこんな状況だったらみんなだって調子に乗るでしょ?


「……だ、だめだこいつ」

「ん? なにか言ったか?」

「うーうん、セーヤくんはほんといつも人生楽しそうでいいなって思っただけ」


「なんだそりゃ?」

「こっちのはなしー。ほら早く行こっ。スーパーで晩御飯の材料買って帰らないといけないし」


「オッケー、荷物持ちは任せろ。今日の俺はすこぶる気分がいいからな。ちょっとくらい重くても平気だぞ」

「さすがセーヤくん、やっぱ男の子は頼りになるねー」

「ははっ、それほどでもないさ。なんでも持ってやろう」


 なんだかんだで、ケンセーも超が付くほどの美少女なのだ。

 そんなケンセーにちょっとイイカッコしたい俺だった。


「じゃあお米10キロ買って帰るからよろしくね」

「……おいこらちょっと待てや」

「それとサラダ油とおしょう油も買わないとだし。うんうん、セーヤくんがやる気を出してくれてよかったよ。幸せいっぱいのセーヤくんは、なんでも持ってくれるんだよねー?」


「調子に乗りました、ごめんなさい。せめて……せめてお米だけにしてくれませんか……?」

 俺は涙目で懇願こんがんした。


「もーしょーがないなぁ。うん、今日は球技大会で体力使ったもんね、お米だけでよしとしましょう」

「お心遣い痛み入ります……」


 こうして俺たちはスーパーで晩御飯の食材を買うと、帰路についたのだった――。

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