第382話 この気持ちがあれば、《魔神》にだって負けやしない――!

「おいグレン、あんた一体全体どういうつもりだ?」

 いきなり首を突っ込んできたグレンに、俺は戸惑いを隠せないでいた。


「それはもちろん、《魔神》を倒すために力を貸せないかと思っての」


「力を貸す? 人の俺に、妖魔の頭領のあんたが? ついさっきまで殺し合っていた敵同士だっていうのにか?」


「言ったであろう。我が目的は《魔神》の復活を阻止し、現在の人族と妖魔の住み分けを維持することであると」


「ああ、言ってたな。だから《魔神》の魂が転生したティモテの命を狙ったんだ」


「そうだ。それはつまり《魔神》が復活した今となっては、もはや我らに争う理由はないということだ」


「え、ああ、そうなるのか――」


「であれば、もし《魔神》を倒せる可能性があるというのなら、どんな協力も惜しまぬよ」


 その言葉に、おそらく嘘はないだろう。


「それは、まぁ、素直にありがたいんだけどさ……あんたは嘘を言うタイプじゃないし。でも、あんたさっき俺に斬られて死にかけだっただろ? あまり無茶するのは――」


 やめておけよ――と言いかけて、


「傷がふさがってる……?」


 ザックリと斬られたはずのグレンの右胸の傷が、今はもうほとんど閉じていることに、俺は気づかされた。


「なに、老いたとはいえ最強の妖魔・鬼族にして、SS級の末席に名を連ねる身。これくらいの傷、少々休めばどうということはない……痛いことは痛いのだがな」


 あっさりと、もう問題はないと言ってのけるグレン。


「さすがはSS級ってか。ほんとSS級はチートぞろいでやだなぁもう……」


 それに対して、思わず本音がにじみ出てしまった俺のボヤキに、


「最強の《神滅覇王しんめつはおう》に反則級チートと呼ばれ称されるとは……ふっ、これはよい冥土の土産になりそうだ」


 なんて言って、グレンはまんざらでもない様子で笑いやがるのだ。

 それが当たり前のようにカッコイイのが、若干ムカついた。


「おいグレン。念のために言っておくが、調子に乗って俺の女の子たちに近づいたら、《魔神》よりも先に速攻で俺がお前を冥土に送り込んでやるからな? 警告はしたぞ?」


「噂に違わぬ女狂い……いや、それもまた英雄の定めか。まあよい、それよりも巫女エルフちゃん殿よ」


 グレンが巫女エルフちゃんに向き直った。


「いや巫女エルフちゃん殿って……」


 ちゃん殿って、明らかにその呼称はおかしいでしょ?


 しかもだよ?

 めっちゃカッコよく老けたグレンが、超シリアスな顔をして「巫女エルフちゃん殿」とか言うんだぜ?


 降って湧いたコントに、笑わず堪えた自分を自分で褒めてあげたい。


「それで巫女エルフちゃん殿よ。我が力、融合させることは可能であろうか?」


 グレンの問いかけに、


「フィフティ・フィフティと言ったところでしょうか。ですが、やってみせましょう。巫女エルフの名に懸けて――!」


「み、巫女エルフちゃんがいつものほんわかほわーんとは正反対の、超真剣な声と表情をしている……っ!?」


 IT会社の社長のインタビュー写真によくある例のろくろを回すポーズも、キレを増してさらにスタイリッシュになっている……!


「こ、こんなキリッとした巫女エルフちゃんは初めて見たぞ!」


 ちなみにウヅキはエアろくろを回す巫女エルフちゃんの斜め後ろで、何をするでもなくニコニコと満面の笑みで俺のことを見守ってくれていた。


 運動音痴のウヅキは直接的な戦闘能力が皆無に近く、こういう時はあまり出番がない。

 でも決してウヅキは無力なんかじゃなかった。


 思い出されるのはしゃもじとおたまで《神焉竜しんえんりゅう》に立ち向かった時の姿だ。


 俺の心の中には、あの時のウヅキの姿がずっと焼き付いているのだから。


 俺に抗う勇気をくれて、俺に戦う理由をくれた、ウヅキのあの笑顔に見守られているだけで、なんでもできそうな強い気持ちと力が、無限に湧いてくるのだから――!


「ああそうだ! この気持ちがあれば、《魔神》にだって負けやしない――!」

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