第370話 ティモテの命を! 数字の大小で語ってんじゃねぇよ!
「……どかねぇよ」
「なん……だと……?」
「どかないって、そう言ったんだ」
俺は迷うことなく言ってのけた。
「たった一人の娘の命で、数十万の罪なき命が助かると考えれば安いものだろう」
「人の命を……ティモテの命を! 数字の大小で語ってんじゃねぇよ!」
「割り切れと、そう簡単には言わぬ。だが目先の小にとらわれて、大局は見失ってはより多くの悲劇を生むことになる。もはや時は多く残されておらぬ。《魔神》覚醒の期日は次の新月――つまり今日の夜。刻一刻と刻限は迫っているのだ。今ならまだギリギリで間に合う。世界を救うために、なにげない日常を守るために。そこをどくのだマナシロ・セーヤ」
満身創痍の身体で俺を見上げながら、しかし強い口調で『正論』を言ってくるグレンに、
「ああもう! だからどかないって、そう言ってんだろ? 何度も言わせんなよ?」
俺も負けず劣らずの強い口調でもって、否定の言葉を返していく。
俺が絶対的な味方だって、だから安心しろって――ティモテにこれでもかってくらいに見せつけてやらないといけないからな。
「浅慮はやめるのだマナシロ・セーヤ。《魔神》はSSS級、顕現すれば誰にも止められぬ。それとも何か倒すための策でもあるというのか?」
「あのな、いきなりこんな突拍子もない話を聞かされて、策なんてあるはずがねぇだろ?」
SS級をも超えるSSS級を想定して、しかもその対策まで用意しているとか。
俺をいったいどこの鬼畜なトラヴィス筆頭格メイドさんだと勘違いしてんだ?
俺はいたって普通の、全チートフル装備して《
「策もなしに
「おいおい、なに俺が負けるって決めつけてんだ? でもそうだな、策って言うんなら、とりあえず《魔神》はボコる。それでティモテが元に戻れば御の字だ。戻らないなら――その時はまたその時にでも考えるさ」
自信満々ドヤ顔の俺を、
「SSS級である《魔神》に、よもや真っ向勝負で挑もうというのか! 若さとは無謀の裏返しだったと、そう気付いた時には世界が滅びておるのだぞ!」
『正論』でもって説き伏せようとするグレン。
最大多数の最大幸福っていうんだっけ?
グレンの言ってることはきっと『正しい』のだろう。
でもな――、
「てめぇ俺に負けたくせにうるせぇな。さっきからぐだぐだとなに様のつもりだ?」
「なに――」
「俺が甘い? 若い? いいや違うな。逆だよ、あんたの方が老いたんだグレン!」
「な――っ」
「そうさ、あんたは老いた。やる前から無理だと断じて可能性を切り捨て、抗うことを試そうともしない。知った風な上から目線で全部見通した顔をして、『正論』とか『道理』ってやつを偉そうに語って聞かせやがる――」
俺は理不尽な『正論』ってやつが大嫌いだ。
頑張ってるやつが笑われたり、一生懸命なヤツが見下されるような『道理』が大嫌いだ。
「――目の前の大事をものを『正論』で切り捨て、『道理』を説くだけで未来を切り開く気概もなくなったアンタに、俺は俺の判断を委ねたりはしやしない!」
だってそんな世界より、頑張ったら報われる世界のほうが絶対に素敵じゃないか――。
なっ。
そうだろう、ティモテ?
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