第369話 真実

「おい、《剣の魔将》グレン。心の底から見損なったぞ。真剣な顔をして謎めいたことを言って時間稼ぎして。これが――《魔神》の復活がお前ら妖魔の目的だったわけか! 世界に厄災を振りまくために――!」


 何かあるかもとは警戒していたけど、それがただの時間稼ぎだったなんて……!

 大事なのは「時間」だったんだ。


 こんな小手先も小手先の、単純極まりない手に引っかかるなんて……!


 しかし、まんまと騙された自分にイラつく俺に――、


「まず勘違いしているようだが、妖魔は人族と事を構える気はさらさらない」


 グレンはそんなことをいいやがるのだ。


「――はぁ?」

 俺はいら立ちをぶつけるようにぞんざいに聞き返す。


「確かに妖魔は総じて荒っぽい種族特性を持ってはいる。しかし現状の住み分けとも言える状態を維持すること、これが我らの一番の願いなのだ」


「いまさらそんなこと言われて、誰が信じられるって言うんだ!」


 ティモテを危険にさらされて、俺の声は感情の昂ぶりとともに荒れに荒れていた。


「冷静になれマナシロ・セーヤ。ただ時を待てばよいのであれば、こうやって危険を冒して人族の領土深くまで出向く必要なぞないであろう。それこそ《魔神》が復活してから、満を持して迎えに行けばよいだけのこと」


「あ……そうか。言われてみれば……」


 なのにわざわざグレンはティモテを殺そうと、危険を承知で東の辺境くんだりまで乗り込んできた?

 国境沿いに兵力を集めるなんて、大規模な陽動作戦まで仕掛けて?


「先代 《魔王》は人族との共存を望まれる優しいお方だった」


「でも先代 《魔王》は人族に戦争をしかけたんだろ。それで最後は勇者に討たれたって聞いたぞ?」


 この辺は予備知識として、俺の知恵袋ことウヅキにちゃんと教えてもらったからな。

 間違っている確率はゼロパーセントだ。


「あれは《魔王》復活に沸いた主戦派が暴走したがゆえの、望まざる結果よ。そして一度戦端が開いてしまえば、いかに《魔王》といえど戦火の拡大は止めようがなかったのだ。先代 《魔王》は人族の勇者に討たれるその日まで、ずっと心を痛めておられた」


「セーヤさんセーヤさん! 確かに先代の《魔王》はほとんど戦場に出てきていないんです。最後の最後まで水晶宮から動かなかったと言われています。でもまさかそんな理由があったなんて――」


 またもや顔を出して解説をしてくれたウヅキ。

 その言葉からも、グレンの言っていることは真実のようだった。


わらわの『真なる龍眼』でも、こやつが嘘を言っているようには見えぬのじゃ」

 そして《神焉竜しんえんりゅう》も同じ意見ときた。


 ――そう、だよな。

 冷静になってみれば、グレンは嘘を言うようなタイプじゃない。


 3度も戦えば嫌でも分かる。

 《剣の魔将》グレンは嘘をついてはいない――。


 ってことは――、


「まさかお前の目的は、本当に《魔王》復活じゃなくて《魔神》復活を阻止することだったのかよ? いや、でもそれならそうで、話してくれたら何か対処の仕様もあったかもしれないのに――」


「仮に話したとして、初めて会った妖魔の言葉を人族の誰が信じる? なによりその少女を殺すことに同意するのか?」


「それは――」


「罪なき少女を殺すとがを受けるは、老いた我が身一つで十分よ」


「そういう、わけだったのか……自分一人で全責任を負う前提で、ティモテを――」


 やっとこさ合点がいったよ。


「これが全ての真実だ。もはや隠すものは何もない。その上で《神滅覇王しんめつはおう》マナシロ・セーヤに、《剣の魔将》グレン・クルボーが願い申す。先代 《魔王》ラリーサバトの理想を守るために、世界の平和を維持するために――そこをどいてはくれぬだろうか?」


「あんたは世界を守るために、一人孤独に戦っていたんだな」


 たった一人で、誰に打ち明けるでもなく。

 その罪も全部、自分一人で引き受けるつもりで――。


「《剣の魔将》グレン。あんたの言い分はよくわかったよ」


 だから――、

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