第342話 勘違いしないでよねっ!
「でもま、適材適所だよね……」
ティモテはティモテの、俺は俺の仕事に全力を尽くそう。
……えっ?
ただ見ているだけじゃないかって?
いやいや、今の俺はティモテの護衛をしているんだよ。
SS級のグレンがティモテを狙っている可能性が高いとなると、対抗するには俺が適任ってわけなのだ。
SS級の《
――なんてことを考えていた時だった。
「やっぱり狙われているのは私なんでしょうか」
ティモテが小さな声で、ぽつりとつぶやいたのは。
ティモテは下を向いて作業の手を止めないままだったので、その表情はうかがいしれない。
でも硬い声色から、意を決して聞いてきたであろうことは想像にかたくなかった。
「うーん、どうだろう。その可能性はゼロじゃないってところかな」
だから俺も、答えられる範囲でできうる限り誠実に答えようと、そう思ったのだった。
ナイアはティモテが狙われているかもしれないってことを知らせるのをためらっていた。
だからこれは独断専行、俺の勝手な判断だ。
でもさ。
女の子が不安がってたら、それを取り除いてあげるのは、これは男の子の役目だろ?
「何かあってからじゃ遅いからさ。それで俺がこうして近くについているってわけ。あくまで予防的措置だと思ってもらえれば」
「そう……ですか……」
「だからそんなに気に病む必要なんてないし、深刻に考える必要もないよ。それに俺がいる。《
俺はラブコメ系S級チート『ただしイケメンに限る』をガッツリと使って、ティモテの女の子の心に強烈に訴えかけた。
その甲斐あって、
「マナシロさんは優しくて頼りになりますね」
顔をあげたティモテがちょっと安心したように微笑んだ。
うーむ……これさ?
この『ただしイケメンに限る』で雰囲気だけで強引に押し切るってさ?
今までも散々使っておいてなんなんだけど、よく考えると割と最低なことをしているよね……。
聖母マリアの再来とまで言われるティモテの穢れなき美しい心を前にして、過去の行いを思わず省みてしまう俺だった。
「そういやさ。ティモテはなんでそう思ったんだ? 自分が狙われてるかもって」
「それは……その、《剣の魔将》グレンが去り際に、私を見ていたような気がしたんです。それで――」
そっか、ティモテ本人も視られたって感じていたのか。
戦闘中で、知覚系S級チート『龍眼』が全力稼働していたおかげで感覚が底上げされていた俺が、ちらっとそうかな? って思っただけだったのに。
「ティモテは意外と感性が鋭いんだな」
それともティモテに何か、思い当たる節でもあったりしたんだろうか?
「え、あ、その――」
「まあでもそっか……ってことは、これはもうほぼほぼアタリで間違いないかな」
グレンの狙いはティモテだってことで、危険性を上方修正しないといけないな――。
「あ、あの、実は――」
「ん?」
今後の方針について考えを巡らせていた俺に、ティモテが何かしら言おうとして――、
「いえ、やっぱりなんでもありません」
――やめてしまった。
「どんな些細なことでもいいよ。気になることがあったら言ってみて。なにせまだ情報不足なんだ。情報は多いに越したことはないからさ」
けれどティモテはそれ以上は、決して話そうとはしなかった。
ティモテの態度が気にはなったんだけれど、なにせ俺たちはほんの昨日に会ったばかりの間柄だ。
根掘り葉掘り突っ込んで聞くような関係性はまだ構築できてはいない。
大切な話をするような信頼関係が作れていない。
べ、別に女の子に込みいった質問を続けて、ウザい男だなって思われるのが怖いヘタレ草食系男子じゃないんだからねっ!
勘違いしないでよねっ!
そういうわけで、ティモテの様子が少し気にはなったものの、
「ま、とりあえずはこのままでいっか」
俺は後回しにして話を流してしまった。
流してしてしまったのだった――。
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