第343話 ラブコメ系S級チート『急に飛び出してきた子猫』
教会での作業(&
昨日と同じように出店で軽く昼ご飯を食べた俺とティモテは、アウド街(建設中)の外をぶらぶらと歩いていた。
それにはもちろん目的があって――、
「東の辺境には初めて来ましたが、のどかで風光明媚ないいところですね。風が気持ちいいです」
ティモテがこの辺り人々の暮らしぶりや生活状況を見てみたいと言い出したからだ。
もともとアウドは小さな村だったのですぐに見終えて、今はおしゃべりしながら街の外を見て回っていたのだった。
「前辺境伯――モレノって言ったかな? そいつが結構なムチャをやってたみたいなんだけど、そいつがかけてた色んな細かい税金が撤廃されて、これから経済もどんどん発展していくって話だよ」
「それはとても楽しみですね。多くの人々が幸せになるのは良いことです」
ちなみにこの辺の話は全部、サーシャから聞いた話の受け売りだった。
そもそも俺はモレノがどんな税金をかけていたか、それすらよく知らなかったりする。
だがしかし!
俺は女の子の前でイイカッコしたかったのだ。
経済とかに詳しいインテリで知識人な大人クール
したかったんだよ!!
「マナシロ・セーヤ大公の腕の見せ所ですね。何かありましたら、気兼ねなくお声がけください。その時はマリア=セレシア教会も全力でお手伝いいたしますので」
「ありがとう。ティモテも何かあったら遠慮くなく言ってね」
「ありがたいお言葉、痛み入ります」
ふぅ。
やれやれ。
なんだかちょっと偉い人としての仕事をした感あるね。
実は俺って人の上に立つ才能、みたいなのがあったのかな? かな?
いやー、ティモテみたいな一生懸命で可愛い女の子にいいカッコして、褒められて尊敬される。
一事が万事こんな感じなら、大公になるってのもあながち悪くないなぁ……。
今なんてほら、色々見て回ってるけど、ぶっちゃけデートしてるみたいだもん。
――と、
「きゃ――っ」
ティモテがかわいらしい声をあげた。
というのも、なぜかティモテの足元に仔猫が飛び出してきたからだ。
春になって生まれたばかりなのだろう。
急に足元に飛び出してきた小さな子猫を、ティモテは踏んでしまわないように足をつく場所を変えようとして、無理な動きでバランスを崩してすってんころりんしてしまったのだ。
そして、
「おっと――」
すぐ隣を歩いていた俺は、そんな倒れそうになったティモテの身体を優しく抱きとめてあげたのだった。
……なんかもうイチイチ確認するまでもないんだけれど、一応確認しておくと、ラブコメ系S級チート『急に飛び出してきた子猫』が発動していた。
「……だよね」
そんな飛び出し子猫はというと、一瞬びっくりしたような顔をして俺たちを見上げてから、すぐにその場からいなくなってしまった。
残されたのは抱き合ったままの俺とティモテ。
俺の手はティモテの腰――というかお尻をグワシッとつかんで引き寄せていて、ティモテはティモテで俺の身体に手を回してしがみついていた。
つまり真昼間っから、道端で情熱的に抱き合ってしまっていた。
しかもティモテのピッチピチのタイトなミニスカートは上まで捲れてしまっていて、丸出しのパンツごと俺はその可愛いお尻を掴んでしまっていたのである。
「す、すみません。また助けていただいて。急に子猫が飛び出してきたんです」
「いやいやいいんだよ、うん。ティモテは悪くない。悪いのは全部俺だから……」
「??」
「いやほんと、むしろ俺の方こそ何度も抱きしめちゃってごめんね」
「あ、いえ。その、嫌なわけではありませんので……そのマナシロさんは特別といいますか……」
顔を真っ赤にしてごにょごにょしちゃうティモテ。
ラブコメ系A級チート『聖職者のイケナイ感情』が発動していた。
まじめな聖職者の恋心を掻き立てるという、かなり背徳的でフェチズムの入ったチートだった。
「お、おう……」
何このこそばゆい雰囲気。
チートのせいかティモテはくっついたままで離れようとしない、どころか俺の胸に甘えるように顔をうずめてきて。
小鳥のさえずり声をBGMにしばらく抱き合ってから、俺たちはどちらともなくそっと離れた。
いやこれは、子猫がね、出てきたからなんだよ。
それでその、流れでちょっと変な空気になってしまったんだよ。
うんつまり、子猫が悪い(俺は悪くない)。
「じゃあその、そろそろ帰ろっか」
「そ、そうですね」
うんうん、アウド街(建設中)中も外も、もう十分に見れたもんな!
視察終了!
やましいことなんて、何もなかった!
そのまま連れ立って、街へ戻ろうとした時だった。
知覚系S級チート『龍眼』が鬼の――《剣の魔将》グレンの――気配を察知したのは――。
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