第255話 俺の背中に隠れてな!

「迫真の演技って言うか、中二病もここまでくると立派なもんだな……なんであれ、これが貫き通した者だけがたどり着ける境地ってやつか……」


 憐れみが半分、憧れが半分。

 割とのんきに呟いた俺の言葉は、しかし――。


主様ぬしさま、奥方殿らを連れて可及的速やかに距離をとるのじゃ」

 そんな《神焉竜しんえんりゅう》のシリアス100%な言葉で返されてしまった。


「……えっと、《神焉竜しんえんりゅう》?」

「今は問答する暇はないのじゃ。どうやらこの小精霊、残念な頭のくせして本当に本物だったようじゃぞ」


「本物、だって――?」


 改めて精霊さん(《精霊神竜》)をよくよく見てみると、その右腕からは薄っすらとオーラのようなものが立ち上っていた。


「あっ、ぐぅ……あぁっ! うぅ……アタシは、アタシはちょっと遊びたかっただけなの……ずっと精霊契約で縛られていたから、一人ぼっちで寂しくて……だからちょっと遊んだら、それで全部ノーサイドで終わるつもりだったの……」


「精霊さん?」

 もしかしなくても、本当に様子がおかしいのか……!?


 いや最初から精霊さんは色々ちょっとアレでナニだったんだけど――これはもうそういうんじゃない、これは――、


「まさか中二病の演技じゃないのかっ!?」

 つまりマジで右腕には『偉大なるゴッド・ドラゴン』が封印されているってこと……!?


「だから、だめ……っ! アンタが出てきたら遊びじゃすまなくなる……からっ! うっ、だめっ……あっ、うあっ、うぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああっっっっっっっっ――――!!!!」


 右腕を左手で抑えつけるようとするものの、しかし抑えきれずに右腕を高々と突き上げて絶叫する精霊さん(《精霊神竜》)。


「……むぅ、いかん。目覚めたのじゃ……!」


 そんな《神焉竜しんえんりゅう》の言葉と前後して。

 精霊さん(《精霊神竜》)を起点として光が爆ぜた――!


 見たこともないような、きらきらとオーロラのように煌めく虹色の光だ。

 そして虹色の光とともに、


「く――っ!?」

 精霊さん(《精霊神竜》)を中心に激しい衝撃波が吹き荒れ、広がってゆく――!


 《神焉竜しんえんりゅう》が身をすくめるようにして防御態勢を取った。

 圧倒的な防御力で基本ノーガードの《神焉竜しんえんりゅう》が、思わず防御してしまうほどの威力ってことだ……!


 そして俺はというと、そんな攻撃を前に逃げずに足を止めていた。

 威力があると言ってもしょせんはただの無差別乱打。

 知覚系S級チート『龍眼』を使える俺なら、これくらいは余裕でかわしきれる。


「でもここにはウヅキとハヅキ、トワ、巫女エルフちゃんがいるんだ。俺だけかわして逃げるなんて、そんなわけにはいかないんだよ……!」


 だがしかし――女の子たちを守りながら、この天の怒りのごとき衝撃波の雨あられを捌ききれるだろうか……!?


「それでも――それでも俺が、やるっきゃないよな!」

 悩むより先に、まずは行動するんだ!


「やる気スイッチ系S級チート『いつやるか? 今でしょ!』――発動!」

 やる気スイッチが俺の心に火をつけると、


「ラブコメ系A級チート『俺の背中に隠れてな!』――発動!」

 背中で語るカッコいい男をアピールするモテモテチートでもって、俺はここぞとばかりに頼れる男をアピールした!


 え? 別に最後のはいらないって?


 あのね、アピールは大事なんだよ!

 ちゃんと伝えなきゃ、伝わらないんだよ!


 そして俺はモテるためなら、ためらうことなくチートを使うおとこなのだ!

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