異世界転生 12日目(後編)

第238話 知恵なき者は、去れ――

「次はこれよ!」


 そう言って精霊さんに連れてこられたのは、


「なにこれ、狛犬……? あ、いや、犬じゃないから、狛像?」

 向かい合う2体の大きな悪魔の彫像がある、精霊神殿の正門(かな? だと思う)だった。


「しかもめっちゃ精巧だし……今にも動きそうでめっちゃ怖いんだけど。いやマジでクオリティ高すぎだろこの像」


「あ、わかる~? いやー分かる人には分かるんだよね~。なんせ10年かけて丹精込めて作った自信作だからね~! にじみ出るオーラが違うって言うか? 重厚感、的な? ふふん、好きなだけ崇めひれ伏しなさい!」


「スゴいのはスゴい。だがしかし、その言い方がめっちゃムカツク……」

「まぁまぁセーヤさん」

 若干ちょっとイラッとした俺を、ウヅキがそっとなだめてくれた。


 俺の手を両手で優しく包み込んでくれる姿は、まるでママのようである。

 うん、僕、ウヅキママのこと、だーい好き!


「なにさらっとイチャついてんのよ? ま、いいけど……でね、《精霊神竜》は知性のないぱっぱらぱーは嫌いなのよね。だから勝負ってのは知恵比べ! 今からアンタたちの知性を計ってあげるわ!」


 その言葉が終わると同時に、

 ピカーン!!

 向かって右側にある彫像の目が緑色に光ったかと思うと、彫像が動き出したのだ!


「ふむ、ガーゴイルか」

 《神焉竜しんえんりゅう》があっさりと看破する。


「ガーゴイル……! なんとなく知っているぞ! あれだ、なんか像が動くやつだ!」

「さすがです、セーヤさん!」


 もちろん博識なウヅキのことだ。

 俺なんかよりもっと詳しく知っていたんだろうけれど、


「にこにこー」


 えへへな笑顔だけで無粋なことはなにも言わず、いいとこ見せてカッコつけたい男の子を立てて気分良くさせてくれる、本当によくできた女の子なのだった。


 そして、

「知恵なき者は、去れ――」


 審判の時を告げる厳かな声が、ガーゴイルから発せられた――その直後。

 いや直後というか、言い終わる前にはもう――、


 ドッッグォォォォォォォンンンンッッッッッ!!!!

 派手な音とともに、彫像が粉みじんに吹っ飛んでいた。


「ちょ、え? はいぃぃッッ!!??」

 精霊さんがおったまげていた。


 ぶっちゃけ俺もびっくらこいたわ!

「おいこら、《神焉竜しんえんりゅう》、お前いきなり何してんの!?」


「ふん、自分から呼びつけておいて、なにが『知恵なき者は去れ』じゃ。殺すぞ」

「いや殺すもなにも、口より先に跡形もなくぶっ壊しちゃったよね!?」


「最強たる《神焉竜しんえんりゅう》が殺すと言った時、それはすでに殺した後なのじゃよ」

 涼しい顔で言ってのける《神焉竜しんえんりゅう》に、


「『京都人は死ねどすとは言いまへん。死んではりますわって、殺した後にいいますねん』ネタみたいなこと言ってんじゃねーよ!?」


 俺は全力でツッコんだ、ツッコまざるを得なかった。

 ほんとなにしてくれてんのこいつ!?

 

「きょーと? 主様ぬしさまの言葉は時どき難しいのじゃ……」


「う、まぁそれはいいじゃないか……っていうか今のなんだ、新手のドラゴン・ブレスか?」


「ドラゴン・ブレスは溜めが必要なのじゃ。前回、主様ぬしさまにはそこをつかれたじゃろ? そこで威力を抑えた代わりに速射できるようにした新ドラゴン・ブレスを開発したのじゃ」


「くっ、ただでさえ鬼強いってのに、負けたことで戦闘力が格段に向上しちゃっている……!」


わらわが再び最強の座に返り咲く日も、そう遠くはないのじゃ……どうしたのじゃ主様ぬしさま、そんなに震えて。今のはウィットに富んだちょっとした冗談なのじゃ?」


「いや、お前が言うと冗談に聞こえないから。ガーゴイルを0フレームで爆砕した直後に言われたら、それもう命狙ってます発言にしか聞こえなくてガクブルだから……」


 そんなやりとりをしている俺たちの脇で、


「うあぁぁぁぁぁんんんっっ! 10年かけて丹精込めて作ったガーゴイルがぁぁぁぁ……! 問題を出しもしないうちに壊されるなんて……ぶわっ!」

 ああもう、精霊さんってば泣きだしちゃったよ……。


「強く生きるんだぞ……」

 敵ではあるものの、その心中を察して俺はそっと応援してあげたのだった。

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