第239話 画伯ふたたび

 10年物のガーゴイルを粉砕されて失意のどん底に陥りながらも、

「じゃあ次の勝負はこれよっ!」


 しかし割とあっさり立ち直った精霊さんが次に用意した勝負とは――、


「この石板に書かれている暗号を解読してみなさい!」

 超難解な暗号解読だった。


 超難解っていうか、


「なんだこれ、なんか石版数個にまたがって数式と図がずらーって書いてあるけど……? これが暗号? これが? 分かる分からん以前に、とっかかりの可能性すら感じないんだけど? ……っていうかこんなもん解けるわけないだろ常識的に考えて。なんだよこれ」


「ふふん、そうでしょう、そうでしょうとも! 負けを認める? 認めちゃう!? ぶっちゃけアンタたちじゃ一生かかっても――」


「うにゅ、できた」

 にまにまといやらしい笑みを浮かべて煽ってくる精霊さんの言葉を遮って、ハヅキがシュタっと手を挙げた。


「――できないかもねって、はぁ!? そんな簡単にできるわけないでしょうが」


 ハヅキの挙手を、精霊さんは小ばかにして取りあおうとはしないけれど、


「一応見てやってくれないかな?」

 ハヅキが正解に到達したという確信のような期待を、俺はもう既に得ていたのだった。


 なぜなら、そこにいたのはただの幼女ではない――そこにいたのは一人の天才画伯だったのだから。

 超一流の芸術家の眼差しをした幼女が、そこにはいたのだから――!


「できてる。こたえあわせ、して」


「まったく……アタシは子供の遊びに付き合ってる暇はないんだけど……いいわよ、ちょっと待ってなさい、一応見てあげるから……えーと、なになに……ええっ!? はいぃっっ!? うっそーーん!!??」


「どうなんだ?」


「はい、合っています……正解です、文句なしの100点です……」

 精霊さんがボソっとつぶやいた。


「おお! すごいぞハヅキ! お前はもしかしなくても本物の天才だな!」

「うにゅ、らくしょー」


 ちょっと満足げなハヅキを、俺は優しくなでなでしてあげた。


「うにゅ、きもちいい……」

「よーし、もっとなでてやるからなー」


 褒めて伸ばす、麻奈志漏まなしろ誠也流の幼女教育方針である。

 そんな風にしてほっこりと絆を深めていた俺とハヅキに、しかし精霊さんが割って入った。


「いやいや、ちょっと待ってよ!? ありえないでしょ!? これフェルマーの最終定理の解法の一部を図案化した暗号よ!? なんでこんな簡単に解かれちゃうの!?」


「うにゅ、みたかんじ?」

「見た感じとかそんなんで解けるわけないでしょ!?」


「だえん、みえた」

「っ! 楕円……!! そうね、確かにそれがキーワードだわ……でもこれを幼女に即答されるとか、さすがにちょっと信じられないんだけど……」


 頭を抱えてうんうんうなる精霊さんだった。


「で、知恵比べってのはこれで終わりなのか?」


「く……っ、どうやら少しはやるみたいね……! でもでも今のは小手調べ、ただのジャブなんだから! 次からが本番、そうは易々とはいかないんだからねっ!」


「ほんと立ち直りが早いね……」

 この立ち直りの早さときたら、口が軽いだけでなく嫌なことはサクッと忘れて決して反省しないタイプと見たよ……。


「アンタたちってば確かに知性や直感力はあるみたいだけど、でも次はそういうのとは全く違った特殊な才能を要求する勝負だから、覚悟してなさい!」


 再び立ち直った精霊さんが出した次なる課題とは――、


「次のお題は『動物掛け言葉』よ!」

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