第234話 精霊さん

「つまり話をまとめるとだ。その《精霊神竜》ってやつを、どうにかすればいいんだな。どこにいるんだ、そいつはよ? この俺がぎったんぎったんの、めっためたにしてやるからよぉ……っ!」


 俺は湧き上がる破壊衝動を隠そうともせず、目を血走らせながら巫女エルフちゃんに問いかけた。


「えーと、《精霊神竜せーれーしんりゅー》は精霊せーれー殿にいるよー」


「精霊殿か……よし、すぐにそこに案内してくれ! ……っとその前に1つだけ。あのさ、すごく根本的な話を今更するんだけどさ?」


「なんですかー?」

「精霊ってなに? 特殊なパワー的存在かなにか?」


 名前自体はよく聞くしお話にも出てくるけれど、実はなんとなくでしか知らないんだよな。

 作品によっても差異があったりするしで、正直なところどんなものかよくわからないのだった。

 なので聞いてみたのだ。


精霊せーれーはね、アストラル界の住人だよー。むかしはこの世界にもいたんだけど、大気ちゅー精霊力せーれーぱわーがなくなっちゃって、今はアストラル界にしかいないんだー」


「アストラル界?」

 ……ってなんやねん?


「アストラル界は、クレアたちの住む物質世界とは鏡合わせの精神せーしん世界なんだー」


 へー、そなんだー。


「なるほど、よくわからんということが、よく分かった」


「うーんと、じゃあね、精霊せーれーの世界があって、精霊せーれーはそこで暮らしてるんだー」

「一気に小学生レベルに簡単な説明になったな……実に分かりやすい。あとごめんな、気を使わせちゃって」


「いえいえー。クレアは、はおーさまの巫女エルフですからー」

 にっこりわらってお決まりのフレーズで返してくる巫女エルフちゃん。


 さすが巫女エルフちゃん、柔らかいほわほわ笑顔に隠されてるけど、説明を俺にもわかるレベルに一気に引き下げたりと、その実すごくできる子なんだよな……。

 そしてそんな巫女エルフちゃんのほんわかさのおかげで、楽園を失ったことで猛りに猛っていた俺の心もちょっとだけ冷静になれたのだった。


 とまぁそんな感じで、この異世界の精霊についてお勉強が済んだところで――、


「ところでなんだけど、その精霊ってさ――」

 言って、俺は空中にふわふわ浮いてる20センチほどの妖精みたいなのを指差した。


「こいつじゃないのか?」

 俺の指の先、みんなの注目が集まったその『精霊』は――、


「はにゃっ!? 見つかった!? ってことで退散――っ!」

 一瞬で身をひるがえして脱兎のごとく飛んで逃げようとしたものの、


「どこへ行くのじゃ?」

「むぎゅ――っ」

 無造作に手を伸ばした《神焉竜しんえんりゅう》によって首根っこを掴まれて、


「ううっ、そんな……隠蔽用のS級精霊式があっさり見破られるなんて……」

 憐れ御用となったのだった。


「ふむ、おおかた《精霊神竜》とやらの使いっぱしりで様子を見に来たのじゃろうが、主様ぬしさまわらわ、2つの『龍眼』の力を侮っておったようじゃの」


 掴んだ精霊を目の前に持ってきてしげしげと眺める《神焉竜しんえんりゅう》。


「くっ、この、離しなさいよ! そもそもエネルギー体である精霊を、こんな簡単に素手で掴むとかおかしくない!?」

 とかなんとかギャーギャーわめいているんだけれど、悪いな、《神焉竜こいつ》ときたらマジのガチに別格なんだよ……。


 S級チートで《神焉竜しんえんりゅう》に挑んで凹られた返り討ち仲間として、少し同情を禁じ得ない俺だった。

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