第176話 ちがいのわかる、ようじょ


「うにゅ、じゃあ、ぬいで」


「……は?」「……え?」

 突然の言葉に、俺とウヅキの声が見事にハモった。


 意味が解らず、2人して首をかしげてしまう。


「あの、ハヅキ? 今から絵を描くんだよな? なんで服を脱ぐ必要が?」

 思わず俺がそう聞いてしまったのも、無理のないことではなかろうか。


「おとこと、おんな、ちがい、きょうみある」

「いや、あの……」


「おとこと、おんな、ちがいを、かく」

「別に服は着ててもいいんじゃないか……?」


「ありのまま、かく」

「えっと……」


「ありのー、ままのー」

「おっけーハヅキ! それはマジでヤバいからやめよう! ディ〇ニーでジャ〇ラックとかダブル役満だから!」


「――むぐっ」

 慌ててハヅキの口をふさいだことで、俺たちは無事に事なきを得た。


「ふぅ、やれやれ危ないところだったぜ……」

 玄関口に請求書を持った奴らの刺客が来てからでは遅いからな。


 彼らの取り立ては苛烈を極めるという。

 例えここが異世界であっても決して安心はできないのだ……!


「あのね、ハヅキ。そういうのはもう少し大人になってからに――」


「う、だめ……?」

 優しく諭すウヅキに、しょんぼりした顔を見せるハヅキ。


「ダメというかですね、お風呂でもないのにセーヤさんの前で裸になるのは、その恥ずかしいですし……」


「だいじょーぶ!」

 ハヅキが今度はえっへんと胸を張って言った。


「せーぶつがくてき、ちがいの、おべんきょう。だから、はずかしく、ない!」

「ええっ!?」


「おねぇ、おべんきょう、とくい」

「うーん、それはちょっと違うような……。あの、セーヤさんからも言ってあげてくれませんか? って、セーヤさん?」


「……そうだよな、これは生物学的見地を獲得するためのお勉強なんだよな。そして大切な情操教育の一環でもあるわけだ」

「……セーヤさん?」


「であるならば! ハヅキの知的な好奇心を正しく導くために、俺たちはここで裸になるべきなのではないか!?」

 俺は超真剣な顔をして言った。


「あのセーヤさん急に何を――、ってもうセーヤさん全裸になってますよ!?」


「当然じゃないか、ウヅキ! これはハヅキの成長のために必要不可欠なことなんだ! だから恥ずかしがっちゃいけないんだよ! さぁ脱いで! 今すぐ脱いで! さぁさぁ! もし脱がないのなら――」


 キラリン――!

 俺(全裸)の左目が妖しく金色に輝き始めた。

 知覚系S級チート『龍眼』が発動したのだ!


 ウヅキの着衣を分析し、ウヅキを裸にくための最適な手段が明示される――!


「あ、あのセーヤさん……?」


「ウヅキ、俺の故郷に孟母三遷もうぼさんせんということわざがある」

「えっと……」


「孟子の母は、我が子の教育環境を整えるために三度も居住地を変えたんだ。つまり教育には周りの環境こそが大切だということに他ならない!」

「あの……」


「ハヅキの環境とはなにか? そう、それは俺たちだ! 俺とウヅキだ! だから俺はハヅキの教育のために鬼になる、孟母のような全裸の教育鬼にな――!」


 俺(全裸)は今、溢れんばかりの使命感に満ち満ちていた!

 そしてそんな俺の熱意がウヅキにも伝わったのだろう。


「わ、分かりました! 脱ぎます! 自分で脱ぎますから! ぞうさん丸出しで迫ってくるのはその、えっちでだめなんです!」


「よしよし、分かってくれたか。さすがはウヅキだな!」

「はぅぅぅ……」


 ウヅキの教育的熱意を見事に引き出した俺(全裸)は、さらに――、


「モデル系S級チート『ミロのヴィーナス』発動!」

 その美しい立ち姿はあまねく全ての人を魅了してやまない、それは黄金比による美の極致――!

 モデルというカテゴリーにおいて、絶対不敗の最強チートを惜しげもなく発動する。


「たかがお絵描き、されどお絵描きだ……!」


 俺(全裸)はハヅキの教育のためならば、常に全力を尽くすのだ!

 俺(全裸)が、俺(全裸)たちがお絵かきだ……!


 その後。

 下着姿ということで自分を納得させたウヅキとともに、しばらく二人でハヅキの絵のモデルをした俺(全裸)たちだったんだけど――、


「まなしー、ちんちん、おおきくしちゃ、めっ。かきなおし」

 途中でハヅキ画伯に怒られてしまった。


「はぅ、セーヤさんのぞうさん……、ぱおーんして、えっちです……」

「いやその、下着姿のウヅキを見たら必然的にね……?」


 ちなみにハヅキの絵の出来栄えはというと、子供がクレヨンで描いたとは思えないほどに上手だった。

 ありかなしかで言えば、まず間違いなく芸術系の才能がある。


 そんなハヅキの才能を正しく伸ばしてあげられて、


「うんうん、俺は鼻が高いよ」

 したり顔でうなずく俺(全裸)だった。

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