第151話 ……ほぅ、言ったな?

 というわけで。

 まずは帝都に向かうことになった俺とサーシャ、そして《シュプリームウルフ》改めシロガネ。


「乗れ。お前たちが歩くよりその方がよほど早い」

 ってなことを言われた俺とサーシャは、シロガネの上に2人乗りタンデム騎乗ライドしていた。


 街道からやや離れた道なき草原を、シロガネが悠々と走ってゆく。

 街道を通らないのは4メートルを超える巨狼はその存在だけで事案となって通報されてしまうからだ。


「おー、速い速い」

「はいですの。それに全然揺れませんわ。さすが伝説の《シュプリームウルフ》ですわね!」

「フン、これしきのこと造作もない」


 なんて言ってはいるけど、まんざらでもないみたいだな。

 嬉しそうに耳がパタンパタンと動いているぞ?


 ま、時速60キロは出ているのにほとんど揺れを感じさせないのは、凄いとしか言いようがないけどさ。


「それにしても風の抵抗を全く感じないのが不思議だな」

「《群体分身ミラージュ・ファング》の応用なのだ。分身を出す代わりに周囲に小さな力場を発生させることで、空気の流れを制御しているんだ。空力くうりきというやつだ」


「うん、ごめん、俺って文系でさ。よくわかんないんだけど、でも凄いってことは分かったよ」

「フン、やれやれ、こんな簡単なことすら理解が及ばんとはな」


 この……いちいちムカつく言い方しやがってからに……。


「申し訳ありません。実はわたくしもよくわからなかったのですが、わたくしたちのために色々とやってくれているのでしょう? シロガネは、本当に優しい子ですの」

「それほどでも、ない……ぞ……」


 あれあれ?

 おやおや?


 なんだか俺に対する態度と、サーシャに対するそれが決定的に違うんですけど?

 これはもしかしなくてもあれかな?


「おいこらてめぇ、俺に言いたいことがあるならはっきり言えや!」

 間違いない、こいつは俺にケンカを売っているぞ……!


「フン、自意識過剰なヤツだな。お前とムダ話をする暇など、我にはネコのひたいほどもないわ」

「……ほぅ、言ったな?」


「フン……」

 いいだろう、目に物見せてくれるわ……!


「……『は、神の御座みざ簒奪おかすもの――』」

 俺は紡ぎ始めた。

 神をも滅する覇王の凱歌がいかを、常勝不敗の黄金の祝詞のりとを――!


「ちょ、ちょちょ、ちょっと! セーヤ様!?」

「止めないでくれ、サーシャ! 今なら、今なら俺は《神滅覇王しんめつはおう》を降臨ろすことができる……!」

 そんな強い確信が、俺の中に……ある!


「ええっ!? こんなことで《神滅覇王しんめつはおう》を降臨ろしちゃえるんですの!? それはそれで凄いですけど!? ……でも、少しけちゃいますわ。こんなにも素直に本音で語り合えるなんて、セーヤ様とシロガネはすっかり仲良しさんなんですの!」


「どこが!」「どこがだよ!?」

 見事にハモった俺とシロガネだった。


 とまぁ、そんなこんなで。

 バチバチと特売でたたき売られたケンカを片っ端から買いまくっていると、


「――あ、なんか見えてきた。街――いや、これはもう大都市だ――!」

「はいですの。これがシュヴァインシュタイガー帝国の都、『世界の中心』帝都ウォザースプーンですわ」


 俺たちはついに帝都にたどり着いたのだった。


「おおっ! 世界の中心! でも、あれ? ここには城壁はないんだな?」

 辺境の城塞都市ディリンデンは、その名の通り街全体が堅牢な城壁に囲われていた。


 それと比べると、帝都はいきなり建物があってほぼどこからでも入れるみたいなのだ。

 ぶっちゃけ日本にもありそうな普通の都市に見えたんだけど――、


「ふふっ、ちゃんとありますわ」

 サーシャがいたずらっぽく笑った。


「そうなのか? でもそれらしきものは見えないんだけど」

「帝都はとっても広いのですわ。この辺りは一番外側の外市街そとしがいと呼ばれる区域ですの。帝都の中心には2つの堀と2つの塀に囲まれた中央区という区域があって、かつてはその中が『帝都』だったのですわ」


「ほぅほぅ」

「ですが数百年という長い平和の間に膨張し続けた都市人口は、壁の中の中央区だけではまかないきれなくなり、壁の外にドーナツ状に外市街そとしがいがどんどんと広がっていったんですの」

「そういうことか、納得だ」


「だからなんでお前が知らないんだ」

「……いろいろあるんだよ。いいだろ別に」


「フン、まぁいいけど。そうだ、ここいらで姿を変えるぞ。この姿は目立ちすぎるからな」


 言ってシロガネは俺たちを一旦下ろすと――、


変化へんげ――!」

 全長4メートルを超える巨大な狼から、小さな少女の姿へとその姿を変えたのだった。


「あら、こんなこともできるのですね。すごいですの」

 サーシャが驚きに目を丸くしている。


「フフン、これも《群体分身ミラージュ・ファング》の応用なのだ」

 めっちゃ便利スキルだな、おい。


「しかし、中学生くらいの背丈だけど、かなりスタイルがいいんだな……健康美を突きつめながらも、出るところはしっかりと出た将来が楽しみなボディ……強気一辺倒でおませなツンツン後輩って感じで、めっちゃいいじゃんか……」


「セーヤ様?」

「……こほん」


 おっと、思わず心の声が口をついて出てしまったよ。

 それくらい人化じんかしたシロガネは可愛かったってことで。


「その服も《群体分身ミラージュ・ファング》の応用で出しているんだよな? ほんと便利だな……」


 そしてその服はというとなぜかセーラー服だった。


 オーソドックスな赤いタイ。

 お尻が見えそうなくらいのミニスカート。

 そこからのぞく魅惑の太もものまぶしさときたら――ごくり。


「セーヤ様?」

「……ごほん」

ひと族は服を着て生活しているからな。これは我と同じ年頃の娘たちが通う、学校というところの服なのだ」


「確かに違和感はありませんわね。これなら何の問題もなく市井に溶けこめますわ」

「うんうん、よく似合ってるぞ。まったくもってよく似合ってる……ごくり」


「セーヤ様?」

「いやいや本当に何でもないんだよ?」


「さっきからずっと変質的な視線を感じるのだ」

「ソンナコトハ、ナイヨ? ナイナイ」

「なんでカタコトなんだ。怪しいぞ!」


「うぉっほん! ……それより、これからどうしようか?」

 俺は何事もなかったかのように、脈絡なくさらっと話を変えた。


 大丈夫。

 俺には大概のことなら何でもいい方に解釈してもらえる、最強のラブコメ系S級チート『ただしイケメンに限る』がついているんだ。

 だから少々強引でも何の問題もなし!


「そうですわね、まずは――」

 そう、サーシャが言いかけたところで、


「お嬢さま! それにマナシロ様も! よくぞご無事で……!!」

 聞きなれた声とともに、見知った顔が駆け寄ってきた――。

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