第107話 デートのナイア

「おお! 道いっぱいにお店と屋台が溢れてる! もしかして、今日はなんかイベントでもやってるのか?」


 門のあるメインストリートから一本西側にあるこれまた大通り。

 そこは左右に商店が軒を並べ、中央には屋台や出店が所狭しと列をなし、大勢の人の活気で溢れかえっていた。

 それこそ縁日とか食の祭典とかやってそうな賑わいである。


「ディリンデンではいたって普通の朝市だよ。東の辺境には小規模の衛星都市もないから、必然的に全ての人や物がこのディリンデンへと集まってくるんだ。街道沿いの立地だから商人も多く立ち寄るし、帝国騎士団が常駐してるから治安もいい」


「ほうほう」


「『民のために』を掲げるトラヴィス商会が仕切ってるおかげで、強欲な商人もいないし安価で手頃な屋台も多く出るから、ここの住人は食事を外で済ますのが一般的なのさ」


「トラヴィスか……、よく聞く名前だな」

 確か妖魔の群れに襲われたのもトラヴィス商会だったし、金髪ちびっ子お嬢さま・サーシャの名前もトラヴィスだった。


「あははっ、そりゃそうさ。トラヴィスは東の辺境最大にして唯一の巨大商会グループだからね。ちなみにここに出てるお店の、約8割はトラヴィス商会の傘下だよ」


「8割!? それはまた凄い数字だな……」

 

「ちなみに言うと、この通りの名称は『トラヴィス・ストリート』さ。突き当り、奥の方に大きな建物があるだろう?」

「あー、あの一つだけ馬鹿でかい、ホテルみたいな建物か?」


「あれがトラヴィス家の屋敷も兼ねた本店さ」

「マジか……」


 無駄に金をかけた豪邸ではないが、センスの良さが随所に見られるお洒落な洋館である。

「あの金髪ちびっ子お嬢さまって実はすげー有名人だったんだな……」


 そりゃ名前を知らないと言われて憤慨するのも納得だ。

「また会う機会があれば、ちゃんと謝っておくか……」


 と、


 ぐーーー

 辺りに漂う美味しそうな匂いに誘われて、俺のお腹が盛大に鳴ってしまった。


 2時間くらい前に朝ごはんを食べたばかりなんだけど、10キロ歩いた&決闘した身体は、早くも新しいカロリーの摂取を求めはじめたのだった。


「せっかくだし、なにか食べようか?」

 ナイアが提案してくるものの、


「ああ、いいよ。その、あんまりお金がないから……」

 甲斐性なく即答する情けない俺だった。


 確かに手持ちの1200円があれば十分に食べておつりがくるだろう。

 見える範囲でも100円ラーメンの屋台が出てるし。

 っていうかどうやって利益出してんだよそれ?


 だがしかしだ。

 このお金はプレゼントのために大切に使わなければならないのだった。

 やせ我慢系A級チート『武士は食わねど高楊枝』発動だ!


 一応、お昼ご飯(にはまだ早いけど)にと貰ったウヅキの塩おにぎりもあるしな。

 おとこ麻奈志漏まなしろ誠也、誇り高き日本男児としてメシの誘惑ごときに負けてはいけない!


「別に、これくらいアタイがおごってあげるよ?」

「なん……、だと……?」

 お、おおお、おとこ、まなしろせいやは、にっぽんだんじ……。


「アタイもちょっと小腹がすいたし、うん、何が食べよう」

 そう言ってニカっと気前よく笑うナイアだけど、


「いやでもやっぱ奢ってもらうのは悪いかな……」

 おとこ麻奈志漏まなしろ誠也、最後のギリギリ徳俵とくだわらにて踏みとどまりました!


 だってさ、デートで女の子に奢ってもらう男って、すごくカッコわるくない?

 プライドの低さには定評のある俺とは言え、さすがにそれはダサすぎるのではないだろうか?


「まったく、遠慮なんてアタイとセーヤの仲じゃないかい。それに言っただろう? アタイはこう見えて『貴族さま』なんだよ? お金のことは心配せずに、どんと大船に乗ったつもりで奢られちゃいな」


「そういやそんな話をしてたっけな……」

 こうやって話していると全然そんな素振りすら見せないから、ついつい忘れてしまうけど。

 でもまぁ、


「そ、そう……? そういうことなら、ご厚意にあずかろうかな……?」

 ただ飯という魅惑の提案の前に、プライドゼロで完全ヒモな俺なのだった……。

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