第82話 月に咲く花

「えへへ、セーヤさんと夜のお散歩です」


 月明かりと街灯の織りなす異国情緒溢れる夜の街を、ウヅキが踊るように歩いていく。

 短いスカートがふわふわと舞い、おとぎ話のような雰囲気もあって、その姿はまるで妖精ティンカーベルのように可憐だった。


 あの後。

 被害復旧の指揮をとるため本部へと向かったナイアと別れてから、俺とウヅキは戦場となった広場から少し離れた大通りへとやってきていた。


「すぐに馬車を用意するから、3人ともそれで村まで帰るといいさ」


 そう去り際にナイアが言い残した好意を断る理由は、1ミリも存在しなかった。

 ウヅキだけでなくグンマさんもいるし、正直なところを言えば俺もかなり疲れていたからだ。


 そして馬車が到着するまでの少しの間を利用して、俺とウヅキは夜の街を散歩することにしたのだった。



 等間隔に並んだあかり石の街灯が、柔らかく石畳を照らす様は、

「確かにこれは綺麗なもんだ」


 蛍光灯やLEDの光と異なり、あかり石は穏やかな色合いの光をしている。

 そっと見守るような優しい月明かりと相まって、ステップを踏むウヅキの姿は幻想的なほどに美しかった。


「一緒に夜の街を見に行くって約束したもんな」

「えへへ、はい、約束しちゃってました」

 ウヅキが振り返ってにっこりとほほ笑む。


 異世界転生初日のことだ。

 初めて見たあかり石を珍しがる俺に、一緒に夜の街がライトアップされるのを見に行きませんかと、ウヅキが提案してきたのは。


「ほんの数日前のことなのに、なんだかえらく前のことのように思えてくるな……」


 異世界転生してからこっち、それだけ密度が濃かったということだろう。

 でもそれはとても素晴らしいことだったと、今、俺は心の底から思っている。

 

「まあ《神焉竜しんえんりゅう》と戦う、みたいなことは2度と勘弁願いたいけどな」

 蘇生系S級チート『ドッペルゲンガー』によって生き返れたから良かったものの、殺された直後はどうしようもない絶望感と恐怖で心がいっぱいで――、


「うん、俺ってば結構がんばってたよなぁ」

「はい! セーヤさんはすっごくがんばってました!」


 いつものように明るい声で俺のことを全肯定してくれるウヅキ。


「にしても夜デート……うん、すごくいいじゃないか。夜ってだけでこう、得も言われぬムードがあるよな」

「セーヤさんも、いつにもまして素敵です」


「そ、そう? ありがと。ウヅキもまるで月の女神さまみたいだよ」

「はぅ……ありがとうございます。えへへ、セーヤさんに褒められちゃいました」


 うん、いいな、実にいいな。

 女の子ときゃっきゃうふふ楽しくデートをする。

 これこそまさに、俺の求めていた理想の異世界転生だった。


 それにしても、だ。

 異世界転生してからまだたった4日だぞ?


 なのにウヅキ、ハヅキ、そしてナイアからもモテモテになるとは。

 《神焉竜しんえんりゅう》と戦って殺された悲劇もあったけれど、終わりよければなんとやら。


 やっぱり全チートフル装備の異世界転生は最高だぜ!


「それにしても、むふふ……これはめくるめく大人の階段を上る日も、そう遠くはないな……! ご飯を食べて、夜景とかを見ていいムードのまま――」


 でも、あれ?

 ……ふと、思った。


 ウヅキは俺とつり合いの取れるいい女になってから、みたいなことを言っていた。

 ハヅキは年齢を考えればさすがにアウトだ。最低2年は待たないとだめだろう。

 ナイアは聖性が落ちてしまうため、引退するまではえっちなことができない。


「……あれ? 良く考えたら完全な生殺しじゃね……? 大人の階段の入り口に、でっかく立ち入り禁止の札がかかってね?」

 あれ……? おや……?


「セーヤさん、馬車が来たみたいですよ。名残惜しいですけど……って、どうしたんですか、すごく深刻な顔をしてますけど? まさかどこかお怪我を!? た、大変です! すぐに手当てを――」


 俺を心配してあわあわしだすウヅキ。

 まったく、心配性なやつだな……。


「ごめんごめん、違うんだ。ちょっと世の無常について思うところがあってね……」

「はわっ、そうだったんですね! なんだか哲学的です。大人の男って感じで、さすがです、セーヤさん!」


「そ、そう? うん、ありがとな、ウヅキ。ウヅキに応援してもらえるとさ、俺は本当に何でもできちゃいそうな気がするんだ」


「セーヤさんにそう言ってもらえると嬉しいです! これからももっと、もーっと応援しちゃいますね――!」


 月下の街でにっこりと満面の笑顔で喜びを表すウヅキは、まるで月の光を受けて咲いた一輪の花のようだった――。


「じゃ、そろそろ行こうか。待たせるのも悪いし」

「はい――」


 どうやら俺のモテモテハーレム異世界転生は、まだまだ当分、先の話のようである。

 でもま、今はまだ、それでもいいじゃないか。


 だって俺の異世界転生は、始まったばかりなのだから――。




「無敵転生 ――全チート、フル装備。」 この異世界で、ハーレムマスターに俺はなる!


第一部「《神滅覇王しんめつはおう》――の者、神をも滅する覇の道をきて――」 完。



 15万字を超える長編を読んでいただきまして、誠にありがとうございました。

 この第82話「月に咲く花」にて第一部が完結となります。


 作品コンセプトは、

「S級チート以下、全チートフル装備で無双転生したら、SS級が跋扈する異世界で涙目!」

 です。


 もし気に入っていただけましたら、★を入れてもらえるととても嬉しく、また励みになります!

 ランキングも上がるので!Σ≡  ∈( っ・(ェ)・)っ


 この後は幕間を数話挟んだのち、第二部へと続きます。


 続きに興味がある方は、是非このまま読み進めていただけると、もっともっと嬉しく思います。


 第一部を最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!

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