第44話 辺境伯エフレン・モレノ・ナバーロサリオ
「いやっ、離してください!」
「ほほほ、なにをそんなに嫌がる必要がある。こんな貧乏くさい
村へと戻った俺の目に留まったのは、
「お金じゃないんです。あの、わたし、好きな人がいて――」
「安心せい、我はそんなこと構いはせん。ほれこっちへこい、その乳、その身体、村娘にしておくのはもったいないというもの。この辺境伯が
おっさんは、片手でウヅキの手首をつかみながら、もう片方の手をいやらしくわきわきさせてウヅキににじり寄っていく。
「あの、だめなんです。わたし、困るんです――」
「我は東の辺境を治める辺境伯ぞ、村娘風情が逆らうというのか?」
「そ、それは、あの、その……」
その言葉を出された途端、ウヅキの抵抗が弱まる。
「よしよし、いい子じゃ、素直になったの。帰ったらすぐにでも抱いてやるから楽しみにしておれ。特別に我の子を孕むことを許そうぞ」
「ひっ、お許しください辺境伯様、それだけはどうかお許しください」
頭を下げて
「うむうむ、恥ずかしがる姿も実に初々しくてめんこいのぉ。こんな田舎くんだりまで視察にいくなど、かったるいと思うておったが。よもやこんな拾い物があるとは。ほれ、はようこっちへこんか――げふっ!」
「おいこらエロオヤジ、てめぇウヅキになにしてやがる――!」
それはもう半端なくイラッとしたので、問答無用で蹴り飛ばしてやった。
「セーヤさん!」
すぐに涙目のウヅキが抱き着いてきた。
「ぐすっ、セーヤさん! わたし怖かったんです……」
「大丈夫、もう安心だから」
言って両手でしっかと抱きしめてやる。
ラブコメ系S級チート『ただしイケメンに限る』がビンビン発動していた。
「セーヤさん、セーヤさん……」
応えるようにウヅキが抱きしめ返してきて――むぎゅっとおっぱいが当たって幸せな気分にさせてくれる。
「って、いつも言ってるなこれ……でも事実だしな……」
しばらくの間、
「落ち着いたか?」
「はい……セーヤさんの腕の中、あったかいです……」
「うん、なら良かった。泣いてる姿も悪くないけど、やっぱり俺は笑ってるウヅキの方がその何倍も好きかな」
「はわっ、好きって、えっと、その……わ、わたしも……えへへ」
二人でいい感じに盛り上がってると、ふと、顏についた泥を必死に払いながらぷるぷる拳を振るわせるおっさんが目に入った。
「我を、我を
とかなんとか言っているが、悪いが俺は異世界転生してまだ3日目なんだ。
「知らないな、どこの誰だ?」
言いながら、ウヅキをそっと背中の後ろに隠すように前に出た。
「くっ、領主の名前も知らんとは、これだから学のない平民は……っ!」
ああ、こいつがくだんの金にがめつい領主なのか。
さっきの権力に物言わせる言動といい、やたらと着飾った服装といい、いかにも小悪党って感じだな。
「あのさ、領主ってのは偉いんだろ。偉いならもっと領民に愛されるように振る舞ってみせろよ。俺は権力で人の心を踏みにじるのが、大嫌いなんだよ」
「なっ、貴様、平民風情が我に意見するというのか……! たかが、たかが平民のくせに無礼な……!」
「無礼? 無礼なのは嫌がる女の子を無理やり連れていこうとしたてめぇの方だろうが」
「な――っ」
俺の中の怒りゲージがモリモリと上昇していく。
「偉かったら何してもいいのかよ? 聞きたくもない上司の
「いやあの、お前いったい何を言って……」
「おっと悪い、こっちの話だ」
つまりだ。
「辺境伯だか
「へ、平民の分際で我を侮辱するつもりか……!」
「あぁっ?」
目にもとまらぬ速さで抜刀した
「ひ――っ!」
その間、護衛たちは一歩も動けない。
最強戦闘系S級チート『剣聖』によって繰り出された神速の居合抜きだ、並の護衛ではその剣筋を視認することすらできなかっただろう。
「わ、我に剣を向けるなどと――」
「2度言わせるな。言ったはずだ、ウヅキに手を出すなら容赦はしない、と」
すごみながら軽く剣気をぶつけてやると、
「ふひ――っ」
それだけで辺境伯は情けなく後ずさりした。
「恐れながら閣下、ここは引き上げるのがよろしいかと」
と、すっと壮年の騎士が一人、辺境伯の隣に立った。
鍛え抜かれた肉体が長身に映えるナイスミドルだ。
「親衛隊長、貴様まで我に指図するか……!」
「とんでもございません。ですが本日のご公務は地方農村部の視察にございます。閣下におかれましては、もうその目的は十二分に果たされておられるかと」
「ちっ――くそっ! おい貴様――」
「さっきから貴様だの平民だの……俺の名前は
「マナシロ・セーヤ……覚えたぞその名前! この辺境伯エフレン・モレノ・ナバーロサリオ様をコケにしたこと、ゆめゆめ忘れるでないぞ……! ふ、ふひぃっひっ――」
威勢だけはいいものの、さっきよりも強烈な剣気をぶつけられてすくみ上った辺境伯は――配下の親衛隊に半ば連れて行かれるようにして、逃げるように立ち去ったのだった。
きんきらきんに輝く黄金仕立ての悪趣味な馬車が、本気でどうしようもなかった。
こうして、今回の騒動はひとまず一件落着と
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