第3話 モテモテチート、別に興味あるわけじゃないんだけどね?
「モテモテ、ですか……?」
「いや別に俺がそんなの欲しいわけじゃないんだよ? ないんだけどね? 一応そう言うのもあるのかなって、ちょっとまぁ、学術的な観点から? 知っておきたいっていうのかな?」
「うーん……そうですね、それでしたらラブコメ級A級チート『イケボ』、『壁ドン』とかどうでしょうか」
「そ、それはどんな感じの……」
「『イケボ』は文字通りイケてるボイス。女の子を身体の芯からキュンキュンさせちゃう素敵な美声になります」
「悪くないな……『壁ドン』は?」
「女の子を壁に追い込んでドンとすると、胸を激しくときめかせるチートですね」
「それはまた、えらく状況が限定的すぎるチートだな……もっと広範囲にモテモテなのはないのかな?」
「えらくモテモテにこだわりますね。モテたいんですか? まぁ調査資料によるとこの年まで童貞ですもんね」
「し、ししし、失敬だな、君は。本当のことであっても名誉棄損は成立するんだぞ? いいかい、なべてこの世は情報戦だ。選択をするなら、まずは元となる情報を精査するのは当然のことであって、俺は決してそんな、モテモテになりたいから聞いている訳ではなくてだな。異世界転生という人生の岐路に当たって――」
「あーはいはい、じゃあそれでいいです」
「くうぅっ、新人のくせになんという上から目線……! 悔しい……!」
でも本音を見透かされちゃってるので言い返せない……!
しかし、俺ははたと思い直した。
異世界転生という夢にまでみたロマン展開の前では、言い返せない事なんぞ大事の前の小事ではないか?
「そうだ……
それにさっき言った情報戦うんぬんは、別段間違ったことでもない。
戦争は宣戦布告のはるか前から始まっているんだ。
ハルノートを突きつけられた時には時すでに遅し。
今はちゃちなプライドなんざかなぐり捨てて、まずは情報収集に徹するんだ……!
せっかく異世界転生をするのなら、俺は史上最高究極至高のパーフェクトでグゥレイトな異世界転生を果たしてみせる――!
俺は、俺は腹を決めたぞ……!
「例えばハーレムマスターになるチートはないの?」
「これまたえらくド直球で来ましたね、開き直りですか?」
「くっ……!」
負けるな俺!
「そもそもハーレムは結果であってチートという手段ではありませんよ」
「あっうん、そうだね……」
俺の決意は一刀両断で真正面から論破されてしまった。
決意表明してからわずか30秒後のことである……しょぼん。
「うーん、じゃあそうですね……それでしたらラブコメ系S級チート『ただしイケメンに限る』がお勧めですよ」
「お勧めか……って、いやいや、別に俺が欲しいわけじゃないんだからね?」
「はいはいそうですね……これはですね、なにかやらかしても、たいていのことなら笑って済ませてもらえるチートです」
「悪くないな、うん、悪くない」
悪くはないが、
「ちょっと受け身すぎる気がしなくもないかな……もっとこう、積極的にガンガン行く系はないの?」
「うーん……私も女の子なので、個人的にはあまり勧めたくはないのですが、ラブコメ系S級チート『ラッキースケベ』なんかはどうでしょうか」
「ま、まぁ、興味ないんだけど、一応聞いておこうかな?」
「その前置き、まだいるんですか?」
アリッサが「じとー……」って目で俺を見てくる。
「……こほん。まぁそれはそれとして。で、そのチートの効果は?」
「これはですね、女の子ともつれ合って転倒したら、なぜかスカートの中に顔を突っ込んでしまったり。なぜか急に風が吹いて、目の前で女の子のスカートが
「ほぅ……」
「ビキニ水着の紐がなぜかほどけてしまったり。意図せず偶然にも女の子と『えっちぃとらぶる』に巻き込まれる。そんな感じのチートなんですけど」
「ほぅほぅ……!」
「私も女の子なので、あまりこういうのは良くないと思う……って聞いてます?」
「いいね、うん実にいい、ラブコメ主人公って感じがすごくいいよ。最有力候補だよ……いやいや、もちろん俺が欲しいんじゃなくてね? ちゃんと聞いてるし、うん」
もはやツッコムのもあほらしくなったのか、アリッサはそれ以上、特に追及はしてこなかった。
「では手短にということでしたので、説明はこれくらいにしておいて。説明したものも含めて、全部で13万5千のチートがあります。それらは戦闘系、ラブコメ系、スポコン系、ミステリ系といったジャンルに分類されていて、このデンタブ――電子目録タブレットを使えば、様々な方法で検索することが可能です」
言って、アリッサはカラオケに置いてあるようなごついタブレットを取り出した。
「この中から好きなチートを一つ選んでください。チートを付与したら、そのチートに向いた異世界が自動的に選ばれて転生完了となります」
「……ん?」
今の言い回しが、少し気になった。
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