触れた手の

あるまたく

 背に触れた手の冷たさは。


れても良い?」


 一言。

 彼女は、何かと触れたがる人だった。暇な時、寝る時そして話す時。

 暖房により汗ばんだ私は、言葉少なに拒んでしまった。

 詰まらない意地。洗えばよいモノを。

 少しでも良く思われたい思考が、事情を話さない単なる拒絶となってしまった。


さわられたくない。」


 発言とともに背を向けた私には、その時の彼女の顏が見えていない。

 目を見開いた彼女は、伸ばしかけた手を止める。

 逡巡があったのだろう手をうつむきと共に下げ、爪が白くなるほど握られた。


「わかった。ごめんね?」


 なぜ彼女が謝っているのだろう、と考えてしまった。すぐに謝らねばならない場面で。

 肩越しに振り返った私は、彼女と目が合う。


「でも、私ね……ダメ、かな?」


 私には、答えられなかった。彼女は、泣いていたから。失言だったと気づいた時には―――


「ばか。」


 ―――遅かった。

 彼女の手が離れ、去っていく。私は追えなかった。

 細事だと思ったのは、私だけだった。

 無神経な一言が彼女を……遠ざけてしまった。


 玄関扉から覗く夕日が沈んでいく。



 スマホの着信音が鳴り、我に返った。


『ねぇ。』

「俺、」



















「触っても?」


 彼女の手が、迫っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

触れた手の あるまたく @arumataku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ