新しい迷子は大歓迎!

 次の朝も、いつもどおりの毎日がはじまった。


 一日中遊びまわり、はしゃぎ、ばか騒ぎして、釣りに出かけ、人魚たちにあいさつし、インディアンの集落で踊り、森や洞窟を探検する。


 毎日がばかみたいに無責任で、ばかみたいにおかしくて、ばかみたいに楽しい。それらを率先して楽しむのがピーターで、おれたちは目をきらきらさせてやつのアイディアに乗っかっていく。


 だが、そうやって日々がすぎていくと、いやでも気がつく。


 ピーターは決して年を取らないのに、おれたちはちがう。ネバーランドにいても、やはり時間はすぎていく。子どもたちはすこしずつ成長し、背が伸び、大人に近づく。そうして一人ひとり、順ぐりに仲間が姿を消す。


 あいつはやばい。そろそろ成長しすぎだ。そうささやかれはじめたら終わりだ。当の本人は毎晩のように枕をぬらし、ちょっとした物音にもびくつくようになる。そんなやつがある朝いなくなっていても、だれもなにも言わない。


 それから数日経つと、ピーターが現実世界から子どもを連れてくる。なにもなかった顔をして。そうすると、おれたちは全力でそいつを受け入れる。ピーターの機嫌をそこねないように。ピーターに気に入ってもらうために。少しでも、自分に「その日」が訪れるのを先延ばしにしてもらうために。


 だが、本当はわかっているんだ。


 おれたちはいずれ必ず大人になってしまう。それはおれたちがピーターに拉致されてきた人間だからだ。ピーターは成長しない。それはやつが人間じゃないからだ。


 おれは四季を数えていた。ネバーランドにも一応季節のめぐりはある。それに、迷子たちの入れ替わりでわかるんだ。数年経ったのか、それとも数十年経ったのかが。


 おれとケビンはすっかり入れ替わった迷子たちの、最年長になっていた。


 もちろん、本物の最年長はピーターだ。


 だが、見た目では完全に、おれたちはピーターを追い越していた。ピーターがおれを誘いに来た晩は、たしかにやつのほうが二、三歳は年上だと思ったのに。


 ピーターがいなくなる時間帯をおれは狙っていた。やつは女に目がない。ティンクがすぐに焼きもちをやくが、しょっちゅう人魚の入り江やインディアンの集落まで行って、娘をナンパするんだ。


 まったく、本当にあいつが子どもの心を持っているのか、おれは未だに疑わしいと思っているよ。成長できないだけで、心はただのわがままな大人なんじゃないか?


 ともかくおれとケビンは、ピーターとティンクがいなくなるなり、迷子たちを集めて宣言した。おれたちは現実世界に戻る、ってな。


「本気で言ってるの?」


 迷子たちがおびえたように言った。きょろきょろして、今にもティンクかピーターが盗み聞きしているんじゃないかと不安になっている。


 ピーター・パンのやってきたことがこれだ。子どもをさらい、遊び相手の道具として使って、相手を心底怖がらせ、つまらない大人になったらお払い箱。


 もちろん、現実世界に戻れる確証があったわけじゃない。


 戻るためにはどうしても必要な物があるからだ。


「妖精の粉がいる」


 ケビンが言った。おれもうなずき、みんなを見渡した。


「みんなでピーターを誘うんだよ。現実世界に遊びに行こうって。あいつをおだてる作戦に乗ってくれ。でも、絶対に『帰りたいから』とか、『親に会いたいから』なんて言葉を使うなよ。単純に、面白そうだからそうしたいんだと頼むんだ。でなきゃ、『規則違反』だと認定されちまうからな。いいか? ここにいたらいずれあいつに殺されるんだ。どんなに大人になりたくないと願っていても、おれたちは人間だから成長しちまうんだよ。あいつをだまして、人間の世界に帰ろう。それしかない」

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