第3話 諜報員DEET その3


 その日から、土人達も交えての会話教室が始まった。


 講師は8歳の少女であるサーラ様と、年増のエメリーヌだ。



 身振り手振りも加えた自己紹介からスタートし、数日が過ぎた頃には一通りの会話をマスターする事には成功した。

 森羅の看板を背負っているのだ。この程度の些事に長々とかかずらってはいられない。


 しかし、サーラ様には早々に膝を屈してしまった。あの御方ほど強い力では無いにせよ時折、力を纏うのだ。これには条件反射的に平伏してしまう。土人達も同様であったが。


 あの御方はサーラ様には女と言うより娘の様に接しているので、現状では我等の障害にはならないと判定する。敵対とか無理だし。



 問題はあの年増だ。


 既にあの御方と肉体関係にあり、愛妾希望だと言う。サーラ様とも仲が良く、我等の地位を脅かす存在だ。どうにか排除できないものか⋯⋯。


「ディートさん。サーラから聞きましたが、裸で寝所に忍び込んだそうですね?」


「なっ⋯⋯何故それを⋯⋯」


「ダメですよ? 忍び込むなら私の寝所じゃないと。今夜は私の順番ですのでこちらにいらして下さいな」


「⋯⋯は?」


「ではご機嫌よう」



 ⋯⋯どう言う意味だ?

 寝所に良いとか悪いとかがあるのか?


 納得がいかないがエメリーヌももういない。



 その夜。

 私は黒装束に身を包み、闇に紛れ込む。


「ゆくのか?」


「はい。あの年増からの挑戦と受け取りました。森羅房中術の神髄を見せてやりましょうぞ」


「頼んだぞ」


「はっ。お任せください」


 里の忍部隊森羅との連絡に向かう若様とはここからは別行動だ。


 エメリーヌの言葉の意味⋯⋯確かめさせてもらう。


 影と影の間を疾走し、エメリーヌの別宅へと滑り込む。

 宅内は予想外の静けさだ。一体何が行われているのだ?


 遮音のために出入口に立て掛けられた板をずらし、漏れてきた薄い光にごくりと喉を鳴らしてしまうも慎重に中を覗く。



 あれは⋯⋯!


 寝所で睦み合う男女なのだろう。

 激しい息遣いと時折うめき声が漏れる。


 一糸まとわぬ光の男の上に覆いかぶさる対称的に黒く見える女。まるで陰陽合一だ。


 動きはない。

 女が上に乗り一方的にあちらこちらと光の上半身に口づけをしているだけにも見える。



 しかし、私には分かる。


 あの臀部と腹部の筋肉の動き⋯⋯あれは骨盤底筋群の操作だ⋯⋯。

 骨盤底筋群を三段で動かし精を搾り取る森羅房中術秘奥義のVストリームアタック⋯⋯なぜあの女が⋯⋯?


 秘奥義だぞ? 私は迷い人は処女を貴ぶというから⋯⋯そんな技覚えてないのに!



 呼吸も荒く魅入っていると光が萎んでゆく。


 おお⋯⋯陰が陽を調伏しおったー。あの力の奔流を調伏しおったー!



 何という技術力ッ⋯⋯。

 エメリーヌ侮りがたしッ⋯⋯。



 精も根も尽き果て、ぐったりと眠ってしまった殿。


 そこに私が付け入る隙間などなく、何のために呼ばれたのかも分からないが、とりあえずあの年増の事はエメリーヌ師と呼ばせて頂く事にした。


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