第2話 諜報員DEET その2
篝火がパチパチと時折爆ぜる音だけが響く、寝静まった真夜中。
月明かりの中を音もなく、滑る様に動く影が2つ、村で1番大きな建物に取り付く。
「鎧は不要か?」
「本来ならば金属軽鎧装備なのですが、夜間強襲ですので隠密性重視の兵装で臨みます」
「任せたぞ。武運を祈っている」
「はっ」
若様とは別れ、単独で潜入する。
随所にブービートラップが仕掛けられているが、素人臭さの抜けない罠にかかるほど間抜けではない。数分でターゲットの部屋まで侵入した。
⋯⋯マナは感知できない。
熟睡している様だ。
音を立てない様に兵装をパージする。
私は、自分の身体には多少なりとも自信があった。手の平サイズではあるが形も良いはずだ。見目も里で1番とは言わないがトップ3には入るだろう。
たから、きっと大丈夫だ。
若様から教えて頂いた迷い人言語のマジックワードを暗唱する。
『くっ⋯⋯殺せ』
途端にベッドから光が生まれた。
まだ近寄れてもいない⋯⋯。
何とか近付くも、遂に光が爆発してしまう。凄まじい力の奔流を、否が応でも感じてしまった。
ひああああぁ! ナニコレもうダメェ! 無理ィィィ! 平伏したいぃぃ!
あられもない格好なのに尻餅をついてしまうが、何とかマジックワードを捻り出す。
『くっ⋯⋯殺せ!』
何故か今までで1番納得感があった。
更にもう一つ、小さめの光が生まれた。何かの言葉を発していたが、もう頭も視界も真っ白で意味が解らない。
呆然としていると光が手招きしている。
最早、思考能力が無くなっていた私はヨロヨロと招かれるままに近付き、光の奔流に抱かれ、光に包まれた。
目を開けても閉じても圧倒的光だ。光しかない。
⋯⋯こ、こりぇが大宇宙ぅぅ! 宇宙の脈動を感じるぅぅ⋯⋯。
こうして私の意識は得体の知れない多幸感と共に大宇宙へと消え、プランA夜這いミッションは失敗した。
翌朝、建物を出ると若様が地に伏していた。
「若様っ!」
「⋯⋯ディートか。上手く事が運んだ様だな」
「そ、それが⋯⋯申し訳ありません。同衾は出来ましたが本懐は遂げておりません」
「なんと⋯⋯お前ほどの者でもしくじるとは⋯⋯」
「⋯⋯同衾するだけでも、力の奔流に意識が保ちませぬ。修練が必要かと」
「⋯⋯あの御力では致し方ないか。少しでも慣れ親しむ様、尽力せよ」
「ははっ」
私の戦いはまだ始まったばかりだ。
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