第37話 デートの感想

 木葉のそばにいる限り、私は生気を失い続ける。ならば私達はどうするべきか。その答えを出すのが、今日私達があった本当の理由だ。これまでのデートなんてのは、本来そのおまけのようなものだった。

 だけど木葉は、これまで全くその話題を出していなかった。デートを楽しみたいという私の願いをずっと聞いてくれていた。だから今度は、私がちゃんと答えを出す番だ。


「ずっと考えてた。これからどうすればいいか」


 答えはすでに出ている。もう会うのはやめよう。さんざん悩んだ末にたどり着いたのは、木葉が出したものと同じだった。

 後はそれを伝えるだけ。だというのに、私の声は震えていた。

 これを伝えたら、私達は本当に終わりになってしまう。そう思うと、恐くてうまく言葉が出てこない。それでも、ここまで来て何も言わないわけにはいかなかった。

 だけど、私が再び口を開くよりも先に、木葉が言った。


「待って。その前に、今日のデートどうだった?」

「えっ?」


 せっかく勇気を出して言おうとした途端そんな事を言われたものだから、つい呆気に取られてしまった。


「せっかくの初デートなんだから、感想くらい聞きたいな」


 まるで私が言いかけた答えなんて忘れてしまったみたいに、無邪気に問いかけてくる。そんな風にされると、せっかく言おうとしていた答えも後回しにせざるを得ない。


 ゆっくりと、今日一日の出来事を思い出す。長い時間をかけてここまで来て、周りからは変な目で見られて、、木葉からイタズラを仕掛けられて、それらを思い出した上で、今の思いを一言で表す。


「残念だった」


 その瞬間木葉の顔が曇ったけど、事実なんだから仕方がない。


「それって、例えばどんな所がダメだった?」

「いつも通りの私達って感じで、あんまりデートっぽくなかった。来たことを少し後悔してる」

「そんなに……」


 曇っていた顔が今度は真っ青になる。よほどショックだったのだろう、とうとうこんな事まで言い出した。


「なら、もう一度だけチャンス貰っちゃダメかな?そしたら今度こそ、ちゃんとデートっぽくするから」


 必死になって声を上げる木葉。会うのは今日で最後にするかもしれない。そもそもそんな前提があった事を覚えているのだろうか?


「もう会わない方がいいんじゃなかったの?このデートだって、これが最後かもしれないってことで始めたんじゃない」


 そう言うとハッとしたように押し黙る。本当に忘れていたのだろうか?


「それは……そうだ。だけど、せっかくのデートの感想がそれってのは、嫌だな」


 あるいは、最期にするのも私の答えを聞くのも延期にすることを考えているのかもしれない。あれだけもう会わない方がいいと何度も言っていたやつとは思えない。

 だけど、私の返事はこれだ。


「無理よ」


 そう、無理だ。たとえもう一度デートしたところで、この残念な気持ちが変わるとは思えなかった。


 だから、そう冷たく言い放った。冷たく言い放った、はずだった。

 なのに。なのに―――


「志保?」


 心配そうに声をかける木葉の顔が歪んでいた。目に映る全てが、流れ出る涙で滲んでいた。


「無理よ。だって、またデートしたって…どれだけ楽しくたって…絶対、未練になるもの」


 涙だけでなく、本音までもが零れ落ちてしまった。それを聞かれるのが嫌で、泣いているのを見られるのが嫌で、サッと顔を伏せる。

 それでも、まるで口だけが私の意思を無視したみたいに勝手に動いていく。


「ホント、残念だった。これで合うのは最後にしようと思って……だから、最期は笑って終わろうと思ったのに……」


 口にすると、余計に悲しみが募った。最後という言葉が頭をよぎるたび、涙が零れた。

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