第33話 ちゃんと伝えて
息を整えながら、チラリと私の顔色を窺うのが分かった。もしかしたら今の答えで良かったのか不安になっているのかもしれない
もしそうなのだとしたら、木葉が不安になるのも仕方のない事だ。だって私は何も答えない。木葉の二度目の告白に対して、ただの一言も言葉を返さない。
それもまた仕方のない事だ。だって、言葉が出てこないのだから。
自分で要求したくせに、いざ言われたら、いくら考えても何と言って返したら良いのか分からなかった。
「志保?」
再びかけられた木葉の声には不安が混じっていた。対する私はまだ何にも言葉が浮かんでこない。
だから、だから代わりに……
思いっきり木葉に飛びつくことにした。
「うわっ!」
この行動は予想外だったのだろう。受け止めきれずに、二人して地面へと転がる。それでも私はその手を離さなかった。
「木葉……木葉……」
やっと出てきたのは彼の名前。何の意味もなく、抱きつきながらただ何度もその名前を呼び続けた。
「ちょっ……志保……」
木葉は驚きながら私の伸ばした手を受け入れる。だけどその後すぐに思い出したように言った。
「そうだ、離れて!近づきすぎるとまた生気を失う!」
そうして慌てて私の手を離すと、地面を転がりながら距離を置いた。
ああそうだった、興奮のあまりすっかり忘れていた。
私も流石にそれ以上近づくことはやめ、二人並んで寝転がるような状態になる。
改めて木葉を見ると、なんだか景色が滲んでいた。木葉の姿がぼやけて見えるのは前からだけど、今度のはそれとは違って目に映るものすべてだ。
少し間をおいて、自分が涙を流している事に気付く。もちろん、嬉し泣きだ。
「ねえ、結局今のって何か意味があったの?」
隣で寝転がっている木葉が、顔だけこっちを見て言った。まったく、この期に及んでまだそんな事を言っているのかこいつは。
「木葉の気持ちが聞けた」
「なにそれ?」
はぁ。思わずため息をつく。仕方ないから、一からこの朴念仁に教えてやることにするか。
「だって不安だったんだもん。木葉は私と会えなくなっても平気なのかって。すぐに諦めきれる程度の物なのかって」
「はぁっ?志保、そんな風に思ってたの。そんなのわざわざ聞かなくても分かるだろ」
木葉はとても心外そうだった。確かに、木葉だって決して平気なわけじゃないことくらいいちいち聞かなくても分かる。それでもだ。
「ちゃんと言ってほしかったの。言わなくても分かるっていうのと、言わなくてもいいってのは違うわよ」
いくら分かっているからといって、ハッキリ言葉にするのとしないのでは全然違う。
「だって、好きだって言われたすぐ後にもう会わない方がいいって言うんだもん。不安にもなるわよ」
そう言って少しむくれる。どうすればいいか提示されるよりも、まずは一緒になって嫌だと叫んでほしかった。木葉も私と同じように悩んでいるんだと、もっと伝えてほしかった。
例えみっともなくても、散々ごねて、不満を言って、思っていること全部吐き出して、そうして初めて、これからどうするのかをちゃんと考えたかった。
全てを伝えると、木葉はしばらくの間額に手を当て、何か考えているようだった。それから、また私へと向き直る。
「……ごめん。俺、志保なら全部言わなくても、きっと分かってくれるだろうって思ってた。志保に甘えてた」
「ホントよ。そのあげく一人で勝手に決めて、こっちはいい迷惑よ」
悪態をつきながら、だけど私の心は穏やかだった。
「でも色々あったけど、今はこうして本音が聞けたんだし、まあいいか」
そう言って小さく笑った。
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