第7話 1-6 ダラスDFWへ到着

 成田からマイアミまでは満席だったが、ジェットエアに比べると座席間隔が広いうえ、大柄なアメリカ人を想定しているためか座席の幅も広く感じられる。広志の初めての飛行機窓側の席は、成田を飛び立ってしばらくは海が見えていたが、雲上に上がってからは退屈な景色が続く。


 約11時間半の旅であったが広志にとっては全てが新鮮であっという間に過ぎていく。食事のメニュー、機内販売の免税品リストや通販品。最新のアメリカ映画が上映されていたのと日本語や英語の歌が聴けるうえゲームまで付いている。


 成田を出発して2時間後くらいに、広志の体感時間としては早い夕食が提供される。 広志は一口ばかりの蕎麦がついているのを見て、

「アメリカ人でもそばを食べるんだぁ」


 なんて明後日の思考で写真に撮る。日本発の便には日本の配膳会社の料理が使われることを知ったのは、帰国して、他の旅行写真と一緒にその写真をクラスメイトに見せた時だったが、口べたが幸いして恥をかかずにすむことになる。


 広志達と同列の3人掛けの通路側に座っていた20代の中国人らしい男の人が頻繁に座席を立って機内をウロウロするのが少し気になる。思い切って元春に

「あのひとなんか怪しくない?」と聞いてみた。元春は、


「エコノミー症候群対策だよ。広志も2時間に一度は少し歩くか立つかして血のめぐりを良くした方がいい。お父さんは、ひとり旅で慣れているし、簡単に目を離せない書類とかも持ち歩くから、座ったままでも血のめぐりは大丈夫なようにしているけど。」と少し呆れたような顔をして言う。そしてニヤリと笑うと、

「それに本当の不審者は目立たないように行動するから」


 馬鹿にされたと感じ、自分の顔が赤くなるのが判った広志だが、

『君たちは若いから、何も知らないのは恥じゃない。知らないことをそのままにしておくことの方が恥ですよ。だからどんどん質問しなさい。相手は先生でなくても大丈夫』と言っていたVR担当の三浦先生の言葉を思い出す。


『旅行経験が豊富な親父から学べることは学ぶ。』

 そう思うと、少しだけ気持ちが落ち着く。

 ただし、元春への感情は旅行前と同じくらいにまで降下した。


 残念ながら広志はまだ知らない。世の中の大半の父親という生き物がぐうたらでだらしなく、自分の父がどれほど優秀であったかということを。



 成田を12月28日14時に出発して、雪の積もるダラスに到着したのは予定より30分近く早い現地時間の12月28日11時10分だった。ジェット気流に乗れる成田からダラスまでの所要時間は11時間35分、逆にダラスから成田方向では所要時間が13時間50分となり、往き帰りで2時間15分もの差が出る。


 パイロットは、よほど遅れない限り高価な航空燃料は消費しないよう指示されている。今回は、気流にうまく乗り、予定より30分近く早く到着したということだ。

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