首についての考察

羽無シ飛行

第1話

 人間の首って締めやすい。

 そもそもそういう風に作ったんだよと神様が言ったらあっさり信じてしまえる。


 締めるために作られたとしか思えない…、そんな形をしているじゃないか。


 まず、細い。そもそも首というものは心臓につながる頚動脈が通い、肺につながる気管、胃につながる食道が存在する。さらに言えば脳の指令を伝える神経もそこを通っているのだ。

 重要な機能をもつ器官が多くあるというのに、その細さは無防備すぎるほどだ。


 これを締めるのにさほど大きな道具はいらないだろう。子供の手でも操れるロープ一つで十分に締め上げることができる。


 無防備といえば、その配置もそうである。

 上の頭と下の体との中間点にある細い部分……。

 そこに一度縄を引っ掛けたら上にも下にも抜けやしない。

 だって首より太い部分で上下を塞がれているのだから。

 そんな大事な急所は太く、強く覆っておくべきだろうに。何故かあまりにもそこは軟弱な作りでできている。


 さらに、それを守る支柱であるはずの頚椎。首の大黒柱の役目を担うそいつが、ちょっとの衝撃で外れてしまうぐらい脆い、ときた。


 ここまできたら笑うしかない。

 この際だハッキリ言おう。


 間違いなく、人間の首ってやつは締めるためにある。


 そのためにこういう形をしているのだと。

 こんな、もともと用意されていた事を疑わせるほど、おあつらえ向きに作られたものがそうでないはずがない。


 だから僕たちは人の首を絞めるわけだ。

 締めていいわけだ。そのためにあるのだから。

 誰かを殺すとき、刺したり叩いたりしたら犯罪だが、首を絞めることは赦されるべきだろう。

 当たり前だ、『そう作られている』のだ。そのよつに扱うことが最も正常で、良心的な判断といえる。


 違うように使う方がおかしい。創造したほうの気持ちも考えてみろ、思ったように使われず果てには用途どうりに使えは罪に問われるだなんて!


 非道なことじゃないか、善良な精神と相手を思いやる気持ちを一握りでも持っていたなら、こんな残酷なことはできないはずだ。


 だから、僕は首を絞める。

 今日も明日も、明後日も、ずっとずっと。

 まるで日課のように。


 ああ、今日も僕はこれ以上ないほど正常な日々を送っている。









 さてさて、この話はそんな『首』を絞める物語だ。

 美しくなるために、化学薬品を顔に塗りたくる浅ましい女らのように。

 己の価値を上げるために、自ら畜生の身分に身を落とす社畜らのように。

 いつしか全てに絶望し、垂れ下がった輪っかの中に己の首を沈める……大馬鹿者のように。


 自分で自分の首を絞める間抜けな道化師ピエロの話だ。

 どうぞ大口を開けて、両手を叩いて、腹を抱えて大嗤いしておくれ。

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