空白の魔術
榊亨高
プロローグ 儀式
「ここで死んだのか」
古びた木造住宅の床には、魔法陣が描かれ、真っ黒な血痕がこびりついている。かなりの年数が経っているからか、歩く度に床が軋む。
男は、魔法陣に書かれた魔法文字を一つずつ確認している。
「やっぱりな、死の世界から魂を呼び寄せる術式だ」
しゃがんで文字の一つ一つを手でなぞるように触れた。
「これ、魂を呼び寄せてからどうしたんだろう」
魔法陣の肝心な部分が、血痕で汚れていたからか、呼び寄せた後の術式が分からなくなっていた。
「どういうことなんだ、村井先輩はやっぱり死んだのか…」
立ち上がると、男は無言で涙を流した。
「僕が離れてしまったから、……僕のせいだ」
男はショルダーバックの中から白い手鏡を取り出した。
「もう僕には時間が無い。やるしかないんだ」
ショルダーバッグを床に置き、手鏡を頭上に掲げる。
「ミラーチェンジ」
男が呪文のように囁くと、手に持っていた手鏡は消え、突然、目の前に2メートルほどの巨大な鏡が出現した。
男は右手を前に出し、鏡面に触れる。
鏡面は液体のような手触りで、男は波打つ鏡の中へ右手を躊躇せずに差し込んでいき、そのまま身体全体がすっぽりと鏡の中に入り込むまで前進した。
鏡の反対側から、華奢な右手がぬるりと飛び出した。
鏡の中から黒髪ロングヘアの女性が出てきた。男の面影は全く無くなっている。
「なんだ、思ったより全然痛みなんて感じないな」
床に置いていたショルダーバックを持ち上げ肩にかけると、バックの中からスマホを取り出し、インカメラで自分の顔を液晶画面に写した。変化した自分の外見を見てほくそ笑んだ。
「上出来だな。これは上手くいく」
インカメラから、通常のカメラモードに戻して、床一面に描かれた魔法陣を様々な角度から撮影した。
「今度は僕が助ける番なんだ」
スマホをバックの中に入れると、その場から離れていった。
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