第62話 当たってるけど言えない(物理)
はい、皆さんこんにちは。アカリです。俺は今現在
「うわあああっ!!」
落下中です。
いやぁ、竜の懐に飛び込んだんだからそりゃ足場、あるはずもなかったよな、うん。我ながら馬鹿過ぎるわー。あははー。
せめて受け身だけでもとろうとしたが一気に多量の霊力を使った反動か身体に力が入らない。少し休めば入るだろうが真っ逆さまに落下中の今、休んでる間なんてない。詰んだ。
もう駄目だわこれ。父さん、母さん。先立つ不孝をお許しください。メイ、魔術、頑張れよ……。
信仰してる神様とかはいないが目を閉じてそんなことを祈っていると、不意に下から強い風が吹き上げて俺の身体を浮かし、落下速度が一瞬遅くなったような気がした。
「っ!」
驚いて目を開けると同時にドサリと何かを下敷きにして着地する。衝撃はあれど痛みはほぼ無い。どうやらそれのおかげで俺は助かったらしい。
「……生きてる」
「いつつ……。大丈夫か?」
「っ、ベネディクト!」
ぽつりと確かめるように声を零す。すると背後から聞こえた声に助けてくれたのはベネディクトであったと分かった。
彼は俺をしっかりと抱えて俺の下にいる。彼が頭を打っていないか心配になったがその頭の下にある結界が彼の頭を守ったらしい。
ワーナーさんだなこれは。流石仕事が出来る男。
「ありがとう、すぐどくな」
「ああ」
力が入らないせいで立ち上がることが出来ない為、ゴロゴロと転がるようにして彼の上から降りる。
彼は俺がどいた後すぐに立ち上がって、転がっている俺に手を差し伸べてくれた。ありがたくそれを取るとぐいと引っ張られて足が立つ。まだ少しふらつくがやってきたワーナーさんが支えてくれた。
「ありがとうございます」
「いいえ」
竜を見ると未だ藻掻いてはいるが疲れたのか少しその動きが弱くなっているように見えた。
それ今のうちだとばかりに調査班が竜玉担当と天井付近の雲担当に分かれて調査を始めている。他の隊員や冒険者たちはそれを妨害しようとする竜の長のブレスやら水球やらを撃ち落としたりしていた。
「ヴェーチェルが風を吹かせてくれて助かった。でないと間に合いそうになかったからさ」
彼の言葉にやっぱりと言うと頷きが返される。
「二回も助けてもらったのか……」
後でちゃんとお礼しないと。菓子折りはどんなのがいいだろうか、と頭のメモに書き込んでいるとアカリ! という声と共に後ろから何かに抱きつかれた。なんか当たってる。
「うっ、わ」
「アカリ! 今の凄かったな! よくやった!!」
「スズメさんっ」
スズメさんが俺を抱きしめてワシャワシャと髪をぐしゃぐしゃにしている。そしてやっぱりなんか当たってる。柔らかい。
いやもう何なのか大体分かってはいるけどそれを言おうにも彼女の腕力が強くてそれどころじゃない。てか柔らかいから余計に苦しい。ピンポイントで締められている気分だ。
これが世の一般的な男であれば嬉しい展開だろうが苦しいのは嫌だ。
「スズメさんくるし……っ」
ペシペシとその腕を叩くとああ悪い! とやっと解放してもらえた。当たっていたものが離れていく。
足元はもうふらついていない。
「お前が竜の長を串刺しにしてくれたおかげで調査も進みそうだってよ。お手柄だな!」
「スズメさんが突っ込んでくれたから俺もやろうって思えたんだ」
「っ、お前嬉しいコト言ってくれるじゃねぇかコノヤロウ!」
「のわっ」
再びワシャワシャと頭を掻き撫ぜる彼女をやり過ごしていると、調査班の人たちがざわついているのに気がつく。
「何か分かったのかもしれない」
そう言って走って行ったベネディクトを追った。
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