第53話 瘴気と魔力
しばらく進んで、漂ってくる瘴気もどんどん強くなってきた。
「竜玉に近付いて来てるってことか?」
『キュウ』
俺が零した言葉に子竜が頷くように可愛く鳴く。その頭をするりと撫でて未だ見えぬ闇の先を見据えた。
今気づいたが洞窟の中なのに目が効く程度には明るいのは瘴気に侵された水が妖しく光っているからだった。うわ気付いたらキモチワルイ。
「瘴気で光るとか、気味が悪いな……」
「瘴気自体は光を持たないから、これは多分本来この水が持っている清らかな魔力が瘴気で性質変化を起こしてるんだと思うよ」
ランが流れる水を眺めながら言う。それにワーナーさんが付け足した。
「本当はここの水や洞窟内は竜玉の魔力で明るく照らされて光り輝いているはずですからねェ。竜玉の魔力を捻じ曲げるなんて、とんでもない瘴気の強さですよ」
彼は眉を顰めて首に巻いてあるマフラーを口元を覆うように引き上げる。
「俺、体質的にこういう汚いところ、苦手なんですよねェ」
「そうなんですか?」
「はい。根本的に俺の魔力と正反対なんで、瘴気は」
魔力や霊力は人それぞれで属性が違う。その属性は火、風、地、水、無の五大属性とその上をゆく光、闇の二属性があり、それの違いによって得意な魔術や霊術も違ってくる。ワーナーさんの魔力はきっと、光の属性を持っているのだろう。それなら結界や浄化がよくできるのも頷けるし、瘴気が苦手というのもよく分かる。
反対に黒魔術や闇霊術を得意とするような闇の魔力を持っている人は瘴気が彼らにとっても毒なのには変わりないが、それを利用したり自分の魔術や霊術の強化に使えたりと相性はいい。
あ、ちなみに俺は無だって前に師匠に言われたし自分でも確認した。
そういえば、とワーナーさんがちらりと俺を見た。
「アンタは大丈夫なんですか。いくら俺が浄化しながら進んでるとはいえ、アンタにとってこういう環境は下手すりゃ命取りじゃないんです?」
「命取り?」
そうは言われても、俺は瘴気に対しては命取りどころか耐性を持っている。(だいたい師匠のせい。)確かにこの水をガブ飲みとかしたらマズイかもしれないが、普通に歩いている分には何も困ることはない。
「それだったら俺よりランやベネディクトの方が危ないと思うんですけど……」
「俺が浄化と結界をしているので人間は安全です」
「いやそれ言い出したらアカリも人間だぞ? レニー」
いまいち噛み合わない会話にベネディクトが肩を竦める。ワーナーさんは心底訳が分からない、という顔をして少し考え込んだ後、はっとしたように口元に手をやった。
「そう……ですね。すみません、俺の思い違いでした。忘れてください」
「は、はい……?」
「おう……?」
彼は再び前を向いて浄化を続ける。心なしかその浄化の勢いが強くなった気がした。
「言うべきか言わないべきか……。いやそれとも珍しい系の……? 優しさとは……」
何か小さくぶつぶつと呟いていて、とても気になるが彼が言わないと決めたのならば深く追及するのも気が引けるので黙っておくことにする。変に聞いて気まずい雰囲気になるのも嫌だし。
竜玉へとつながる出口が、見えてきた。
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