第33話 いざ上陸
船を降りて、島に上陸する。
島は結界で守られているため瘴気もなく、少し遅れて上陸したハルイチさんの顔色も良さそうだ。よかった。
「あっ、マフラーのお兄ちゃーん!」
「ねぇねぇ暑くないのー?」
「それさっきも答えたでしょうが」
「私聞いてないもーん!」
早くも島の子供たちが駆けてきて、ワーナーさんを囲む。彼らの視点に合わせてしゃがみ込んでるあたりなんだかんだ言って子供は嫌いではないのだろう。顔もなんだか穏やかだ。
きゃいきゃいと騒ぐ彼らに俺も頬が緩む。
「いいお兄ちゃんじゃないですか、羨ましい」
ちょっと茶化してみるとリアル兄に言われたくないです、と返されてちょっと遠い目になる。
……メイはもうこの子たちみたいにくっついて来てくれないんだよ……。
何かを察してくれたワーナーさんは何事もなかったかのようにあっちの砂浜綺麗でしたよ、と少し離れたところを指さした。
ちなみに、ベネディクトはこの島の責任者と話をするらしい大佐に付いて行った。メイは他の浄化担当の人たちと談笑している。
特に用事もない俺はハルイチさんをベネディクトに押し付けてきたランと顔を見合わせ、その砂浜に行ってみることにした。
結界の中の砂浜は白く、空も蒼い。そして空気も澄んでいる。森の木々も青々と茂り、本来の賑やかなリゾート島の姿が垣間見えた。
全部終わったら遊びに来てみたい。……財布と要相談だけど。
しかし、島の内部が無事でも島の周りがあんな状態ならリゾートどころではないだろう。観光業で成り立っているこの島にとっては相当な痛手の筈だ。それに、問題はお金だけではない。
食べ物だ。
だが、それに関しては少し疑問があった。
「島民は食べ物に困っているようには見えないな……」
見る限り健康そうで、現に今だって護衛隊の作業を手伝っている島民もいるくらいだ。
瘴気によって生活を壊されたショックや焦りは少し見えるが、それでも身体の方は元気そうで、子供たちだって駆け回っている。
「島の傍の海を結界で囲って、そこからある程度の魚が捕れるようにしたんだって」
「へぇ、そうだったのが」
「結界が張れる島の人が言ってた。凄く大変だったって」
その言葉に疑問が解消され、すっきりした。
結界は、簡単に言えば保護魔術の進化版だ。強さにピンキリはあるがただ結界を張って数日間ぐらいなら維持出来る魔術師はけっこういる。
「精神的なショックとかはあるけど、身体は健康そのもの。でも魚の量にも限りがあるし、早くこの瘴気を払うのに越したことはないよ」
そういうランにそうだな、と返す。
「ま、俺は調査班が竜玉に辿り着くまでの護衛だしな、その役目を全うするだけだ。冒険者達だってかなりの腕っぷしだ。……そんなに部外者入れてもいいのかよって思ってそれとなく隊員の人に言ってみたら人員不足だって言われたな」
どうやら護衛隊は万年人手不足らしい。
結婚などによる寿退隊、軍の方への抜擢、加齢による体力の衰え。
減る要素は尽きないのに入隊が許されるほどの実力を持った人間が少ないという。
エリート部隊も大変だ。
「……いつかの就職先として考えてみたらいいんじゃない? お給料良さそうだし」
「是非とも旅を終えたら我が隊にって言われた」
「もうお誘いがかかってたか」
必死だねぇ、とランが苦笑いをした。
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