決着 XXVII.隣国の王子
学校が浮足立っていた。
今日から隣国の王子が留学ということで学校に通うことになる。
名前はイサック・キュルスナー殿下
「どんな方なのかしら」
「楽しみね」
浮足立っていると言ったが主に女子生徒だ。
婚約が決まっている者、そうでない者、みんなが期待している。
あわよくば隣国の王子に見初められて次期王妃にと。
それは、半分は冗談で。でも半分は本気で考えているのだ。
明日はイサック殿下を歓迎する夜会を催すことになっているので女子生徒は明日、どんなドレスを着ていくかを頬を染めながら話し合っている。
私はその様子を遠目からみながら、お盛んだことで。なんて他人事のように考えていた。
「ねぇ、セシル」
私の前の席に座ったオルフェンが周りの気配に注意しながら小声で話しかけて来た。
「何?」
「君って、イサック殿下と知り合い?」
はい?
「そんなわないでしょう」
「だよね」
「何でそんなことを聞くの?」
「イサック殿下のお世話係を任されたんだけどさ、君のことをかなり聞かれたんだよ」
「私は他国とも貿易をしたりしているからその関係じゃないの?」
「う~ん、そんな感じじゃあなかったよ」
「でも、兎に角私はイサック殿下とは知り合いではないわよ」
「そうか。まぁ、会えば分かるよね。
君も当然明日の夜会には参加するんだろ」
「ええ」
「グロリア嬢は?」
「まだそこまで教育が仕上がってはいないわ」
「なかなか個性的な先生なんだってね」
「・・・・・ええ、まぁ、大分」
◇◇◇
そして迎えた夜会
最初は王の挨拶から始まり、次にイサック殿下の紹介に移った。
昨日の学校ではイサック殿下は職員に挨拶して終わっただけなので私は顔を見ていない。
壁に寄り添って私は紹介を受けるイサック殿下を見て驚いた。
それは知っている顔だったのだ。
でも私が会っている彼は王子ではなかった。
立ち居振る舞いや言葉遣いから王子らしい気品も感じなかった。
普通は幾らか滲み出て、殿下と分からなくても貴族だと分かるはずだが彼の場合一般人に紛れすぎていて分からなかった。
見た目は良いのだが・・・・。
だが今、紹介を受けているイサックは紛れもなく王子の気品がありあの時会ったのとは別人のようだった。
「役者ねぇ~」
王子の紹介が終わると後は通常通りの夜会だ。
さて、少し面倒なことごある。
それは婚約破棄をしてから私に近づく虫が増えたことだ。
しかもただの虫だけでもウザいのに婚約破棄になって令嬢は貰い手が見つかりにくいのでそこに付け込もうとする変態オヤジが多いのだ。
「いやぁ、セシル嬢。お久しぶりですなぁ」
デブンと腹部を弛ませた大柄な男がやって来た。
年の頃は40代といったところか。
「お久しぶりです」
脳内入っている貴族名簿をサラッと流してみた。
ゲッ。公爵じゃん。面倒くさい。
「夜会は楽しんでいるかな?」
さも自分が開いたかのような口振りで話しかけてくるこの男と私は実は今日が初対面だ。
えっ?さっき「久しぶり」とか言われてなかった?って思った人もいるだろうけど。
私と公爵は初対面です。
「ええ、とても」
「おや、グラスが空っぽではないですか」
そう言って公爵はさも気を利かせたふりをしてかなり強めのお酒を私に差し出してくる。
ニヤニヤと嫌味な笑みを浮かべて。
「申し訳ありませんが、わたしはあまりお酒が強くないので。
折角のご厚意ですがご遠慮させて頂きます」
「おや?もしかしてもう酔われていらっしゃるのですか?
それは大変だ。直ぐに別室を用意させましょう。
大丈夫。私が看病して差し上げますよ」
どこも大丈夫じゃねぇよ!
「ご安心下さい。酔ってはいないので」
「そうですか?
ですが、あなたも婚約破棄された身。
何かとお寂しいのでは?
良かったら私がお相手致しますぞ」
ふざけんな。このエロオヤジ!
「些か無礼が過ぎるのでは?
確かに婚約破棄された身ですがあなたのような者にお相手を務めて貰わなければいけない程、私は相手に不自由はしておりません」
私が公爵を上から下まで見て鼻で笑ってやると公爵は顔を真っ赤にして体をプルプル震わせている。
「なっ!」
「大声は出さない方がよろしいかと。
隣国の王子を歓迎する夜会です。
王族主催の夜会を壊してもいいと仰るならどうぞお好きに。
それでは失礼」
巻き込まれる前に私は公爵から離れた。
すると直ぐに第2波が来た。
「セシル嬢、大丈夫ですか?
あの公爵は女好きで有名ですからね。
セシル嬢のような美しい方を狙っているんです。
どうかお気をつけ下さい。
もし何でしたら私が守って差し上げますよ」
そう私に言って来たのはどこぞのバカ侯爵の息子だ。
さっきよ公爵もそうだが彼らはろくに働きもせずに毎日を遊んで暮らすという優雅な生活を送っている為に家計は火の車。
階級が上だから一応丁寧な対応を心がけるが我が家の敵にはなりえないので最終手段として公爵にしたような対応を取っても何も問題はない。
「お気遣いありがとうございます。
ですが、あなたに守ってもらう必要はどこにもないので失礼します」
そうやって次々に交わしていると笑顔を作るのが限界なぐらいストレスが溜まって来た頃になって絶対に関わりたくないなと思った相手をオルフェンが連れて来た。
「やぁ、セシル。ご機嫌よう」
「ご機嫌よう、殿下」
「久しぶりだな、セシル」と、笑ってイサック殿下が私に話しかけて来た。
「・・・・初めてまして、イサック殿下」
「初めましてはヒドイぞ。何度も会っているのに」
「私がお会いしたのは商人であるイサックで、あなたでは有りませんので」
「奥ゆかしいことだな」
「何だ。やっぱり知り合いだったんだ。
というか、商人って。
イサックは一体何をしているんだい?」
「まぁまぁ、良いじゃないか。
これからよろしくな、セシル。
できれば末永くよろしくお願いしたいものだ」
「・・・・お戯れを。
#留学の間__・__#よろしくお願いします」
「相変わらずつれない」
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