グロリアの再教育 XXIV.カーネル先生の教育と巻き込まれるクリス( ??ω?? )

 「違いますざます。もっとよく私を見るざます。

 泣いてもダメざます!笑顔はこうざます。

 鏡を見るざます。自分の顔をよく観察するざます。

 醜いと言っていればどんなに優れた顔も醜くなるざます。

 そもそも人はあなたが思っている以上にあなたに興味がないざます。

 よって、あなたが『醜い』と卑下されている顔はそこまで周りに知られていないざます。

 だいたいにおいて顔はただのパーツざます。

 確かにあなたの言う通りセシル嬢は優れた容姿を持っているざます。

 ですがあんな規格外と比べていては世の中の令嬢全てが醜い分類に入るざます。

 ほら、さっさと泣き止むざます。

 泣いている顔はもっと醜いざます。その点、笑顔はとても美しいざます。

 顔に自信がないのなら心で勝負ざます。

 体調が悪い?それがどうしたざます?

 倒れていないのなら問題ないざます。

 仮に倒れたとしても近くに私がいるのだからお医者様ぐらい直ぐに呼んであげるざます。

 大丈夫ざます。教育が厳しすぎて死んだ人間は世界に1人もいないざます。

 え?もし、死んだら?そうざますね。

 最初の例になるだけざますね。

 大丈夫ざます。こう見えても家庭教師歴は長いざます。

 私の生徒で死んだ人間は1人もいないざます。

 私も今まで生きてきた中で人間を1人も殺したことがないざます。

 私に前科がないのでグロリア嬢は安心して私の教育を受けるざます。

 さぁ、もう一度ざます。笑顔を作るざます。

 笑顔は友好的な人間関係を作る上で最も重要ざます。

 え?友達がいない?いないのなら作ればいいざます。

 だいたい、広い会場でぽつねんと突っ立て居るだけの人間に友人ができるわけないざます。

 グロリア嬢のことは伯爵様からよく伺っているざます。

 夜会もお茶会も出ないのであれば友達なんぞできるわけがないざます。

 雨じゃないのだから、待っていたって空から勝手に振っては来ないざます」


 ・・・・・ざます?


 ラインネット伯爵家にグロリアの様子を見に来たクリスは彼女の部屋の前で足を止めてしまった。

 グロリアの声が小さいからなのか、家庭教師の声が大きいだけなのか。

 兎に角先生の声だけが部屋から漏れ、まるで先生が1人芝居でもうっているような状態になっている。


 「しかし、ノンブレスでよく話す先生だな。

 いつ息継ぎしているんだろうか?」


 おまけに要所要所でかなり無茶苦茶なことを言っている。


 「まぁ、確かにセシル嬢の顏は規格外だな」

 セシルの言った通りなかなかに厳しい先生でクリスは少し安心した。

 少々、いや、大分おかしな言葉が後ろの方についているけどそこはスルーしておこう。

 →これは伯爵家の人間及び使用人が初めて先生と会った時に思った感情だった。

 勿論、そのことをクリスは知らない。


 クリスは一度深呼吸してからドアのノックした。

 すると、以前はなかった「はい」というグロリア嬢の返事があった。

 まぁ、何度か家庭教師に怒られての返事なので少々遅れた返事ではあったが返事がなかった頃に比べては進歩しているのだろう。

 きっと、そうだ。そうだと思いたい。


 「失礼するよ、グロリア嬢。ご機嫌はいかが?」

 「・・・・・ええ、まぁ」

 「笑顔ざます」

 耳元で家庭教師に注意を受け、一瞬顔を強張らせたグロリア嬢は引きつった笑みをクリスに見せた。


 「初めまして、カーネル先生。

 あなたのことは伯爵から聞いています。

 僕はグロリア嬢の婚約者、マクハーヴェン子爵の嫡男、クリスと言います」

 「私はこの度、グロリア嬢の家庭教師を仰せつかったカーネル・マグダリアと申しますざます。

 グロリア嬢のことはお任せざます。立派な淑女にしてみせるざます」

 「よろしくお願いします。もし可能なら見ていっても?」

 「・・・・え、それは」

 「勿論ざます」

 嫌だと顔や態度に出しているグロリア嬢を遮るようにカーネルは前に出て喜々として返事をした。

 「次の授業はダンスになるざます。

 相手役を務めて下さると嬉しいざます」


 クリスは夜会でグロリア嬢と踊ったことを思い返してみた。


 ・・・・・あ、選択間違った。


 でも、今更遠慮するとは言えないし、グロリア嬢にも失礼にあたる。

 それに本当に結婚したら絶対に避けられないことなので今逃げたところで意味がないのだ。


 「・・・・・僕でよろしければ」

 「まぁ、良かったざます。さすがはクリス様ざます。

 相手役を務めて下さるなど、寛大なお心をお持ちざます」


 いや、持ってないよ。

 っていうか、絶対に僕が断れないって分かった上で言ったよね。

 この先生、結構いい性格しているよね。


 僕はんなとなく幼馴染のロイを思い出した。

 この先生はロイど同類だ。


 「あ、あの、私は」

 「グロリア嬢、クリス様と踊るざます」

 「でも」

 「でもじゃないざます。

 それにこういうのは本番に近い状態でした方がいいざます。

 今度からはダンスの練習はクリス様が相手役を務めて下さるざます」


 「・・・・・えっ?」


 僕は思わず首を傾げてしまった。


 ・・・・・そんなこと言ってねぇよっ!

 何言ってんの、この教師。


 「そうざますよね、クリス様」

 「・・・・・えっと」

 「婚約者様ざますものね」

 「・・・・・・仕事があるので時間が合えば」

 「良かったざますね、グロリア嬢」




 そして、嵌められて始まったダンスの練習


 「グロリア嬢、ダンスの際は殿方の顔を見過ぎてはダメざます。

 下を見ないざます。

 多少足を踏んだからなんざます。

 そんなの周りは気づかないざます。

 なかった振りをするざます。そうすれば気づかれないざます」



 ・・・・・この先生、本当に良い性格をしている。


 「泣かないざます。多少の失敗がなんざます。

 殿方に寄りかからないざます。ダンスは姿勢の美しさも評価対象になるざます。

 ダンスの腕は社交を上手くする為の手段でもあるざます。

 あなたは本番でもそうやって泣くざますか?

 一体幾つの子供ざます?

 笑顔ざます。全ての授業は連動しているざます。

 さっきの授業を生かすざます。

 どこの世界にぶすくれて踊る令嬢がいるざます。

 殿方も笑いもしない令嬢と踊りたいとは思わないざます。

 何ざます?文句があるならはっきり言うざます。

 ああ、足は止めないざます。

 曲が続いている以上は踊り続けるざます。

 曲が続いているのにダンスを止めてしまうと何かと注目を集める上に、その場から去るとなると殿方に恥をかかせることになるざます。

 なので文句がある場合は踊りながら言うざます。

 ああ、それと文句ざますが『私は姉のように美人ではないのでそもそも踊りたがる殿方が居ないざます』なら受け付けないざます。

 そういった文句は私の言ったことを全て#perfect__パーフェクト__#にできたら受け付けるざます。

 そもそも最低限度のことすらできていないのに現状に文句を言うなど論外ざます。

 ほら、またぶすくれているざます。

 笑顔と何度言ったら分かるざますか?書き取りでもさせればできるざますか?

 そいえばこの前の宿題、終わらせていなかったざますね?

 あれはどういうことざますか?ほら、足を止めないざます」


 本当に、凄いノンブレスだな。

 それにグロリア嬢が黙ってところを見ると言いたかった文句を先生は見事的中させたのだろう。

 ただね、先生グロリア嬢は『ざます』は使わないよ。

 それと先生、外国の言葉、発音がいいね。


 「体調が優れなくてできませんでした?」


 グロリア嬢は僕と踊りながら文句を言った。

 眼には涙が浮かんでいた。


 「ベッドの上でも勉強はできるざます。

 少し体調が優れないぐらいなんざます。

 優れた夫人は喩え熱があろうと社交というものをするざます。

 そもそもあなたは社交に対して誤った認識があるざます。

 社交とは女のお遊びではないざます。仕事ざます。

 夫の為に良い情報を得る為の場所ざます。そろそろ認識を改めて頂きたいざます。

 1人でできないのなら私がつきっきりで宿題を見るざます。

 因みに前の宿題をしていないのはあなたのミスなので免状はなしざます。

 今日のと上乗せして出すざます。できるまで食事は抜きざます。

 勿論、寝ることも許さないざます」


 「酷い」


 とうとう、グロリア嬢は完全に足を止めてしまった。

 僕の手を無理やり放してグロリア嬢は先生を睨みつける。


 「何が酷いざます?足を止めないざます。殿方の手を放さないざます。

 曲が流れている以上は踊り続けるざます」

 「もうできない」

 「子供にでもできることざます。

 あなたはそのデカイ図体をして一体幾つの子供ざますか?」

 「私は普通の子と違うのよ」

 「ええ、あなたは普通の子と違うざますね。

 それがどしたざます?違うこととできないことは何も関係ないざます」

 「関係あるわよ。私は体が弱いの」

 「なら弱いなりに、最低限度のことぐらいしてみるざます」

 「それができないから困っているんじゃない」

 「困っているから私が呼ばれたざます。

 私はできないことをできるようにする為にいるざます。

 さぁ、ダンスはまだ終わっていないざます。

 さっさとクリス様の手を取って踊るざます」

 「もうできない、疲れたわ」


 そう言ってグロリア嬢は#全力疾走__・__#で部屋から出て行った。


 「何が疲れたざますかっ!

 それだけ走れれば十分ざます!」


 そう言って先生はグロリア嬢の後を追って行った。

 部屋には僕1人残された。



 「・・・・・僕、帰っていい?」

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