うさぎ貨幣を忘れないで!

ちびまるフォイ

うさぎバブルはとつぜんに

「あーー! また荒らされてる!!」


都会でミュージシャンの夢破れてUターン。

農業を始めたはいいが、野生化しているうさぎに畑を荒らされた。


罠を張れば動物愛護の人から

"こんなに愛らしい動物に罠をかけるなんて!"と怒られる。


「これじゃ明日からどう生活していけばいいんだ……」


その日はもうやる気をなくしてふて寝した。

翌日のニュースでは画面いっぱいのうさぎが映っていた。


『緊急ニュースです。本日の未明、どういうわけか

 全世界の貨幣がすべてうさぎになる怪奇現象が報告されています!』


「え……?」


財布を確かめるとお札も小銭も入っていない。

そのかわり、部屋にはどこから紛れたのかうさぎが数羽駆け回っていた。


「俺の金が……うさぎになってる!」


うさぎの品種によって値段が決まるらしく、

家にいるうさぎをコンビニのレジにおいたらすぐに精算された。


「ありがとうございました。お釣りのアンゴラうさぎです」

「で、でけぇ……」


もはや金銭感覚がよくわからない。

石器時代の石でできたお金による物々交換みたいだ。


「あ、待てよ……。たしかうさぎなら俺の畑に……!!」


うさぎを抱えて家に戻ると、

残骸となったキャベツ畑はすでにうさぎ畑になっていた。


「キャーーッチ!!」


かつてVRアメフトで鍛えた自慢の足腰を駆使し、

畑をさんざん荒らしてきたうさぎを次々にキャッチしていく。


キャベツを出荷してお金を稼ぐ必要はもうない。

畑にお金そのものが現れたのだから。


捕まえたうさぎを持っていくと、店員は慌てて断った。


「こ、こんな大うさぎ渡されても困りますよ!

 こっちのお釣りうさぎがとても払えません!」


「え、そ、そうなの?」


「お客さん、このうさぎの価値を知らないんですか!?」


「し、知らなかった……!」


それからというもの、これまでの貧乏生活を払拭するように

いつも小脇にうさぎを抱えては夜な夜な繁華街に遊びにでかけた。


「よーーし、酒をじゃんじゃんもってこい!

 うさちゃん、今日もよろしく頼むよ~~!」


豪遊に豪遊を重ねた結果、俺の畑からもうさぎは消えた。


「さ、さすがに乱獲しすぎたか……」


俺がうさぎをいつも捕まえるもんだからうさぎ側も警戒し

畑や俺に近づかなくなってしまった。


手元にはナキウサギが数羽しか残っていない。


「明日からどうしよう……」


「困ってるみてぇだな」


「あ、あなたは!?」


「オレっちの名前は単毛三平(たんげさんぺい)。ひとよんで明日のじょー。

 お前さん、いいうさぎ持ってるじゃねぇか」


「俺にいったいなんのようですか」


「お前さん、仮想うさぎって知ってるかい?」


おっさんの口から伝えられたのは恐るべきうさぎ育成計画だった。

仮想うさぎを自分で作って、それで生計を立てるなんて考えもしなかった。


「本当にそんなので稼げるんですか?」


「あたぼうよ。オレっちはビットうさぎで生活してるんでぃ。

 どうだい。あんちゃんもひとうさぎ乗ってみないかい?」


「働かずに……うさぎを……!」


胡散臭いおっさんだったが、うさぎの腕は超一流だった。

うさぎの愛で方から生育方法、はては人気のうさぎのコツなどを伝授された。


気がつけば手元にたくさんの仮想うさぎが集まった。


「どうでぃ? 実うさぎより、仮想うさぎのがいいだろう?」


「はい! 仮想うさぎならいちいち持ち運ばなくてもいいし!

 いやホントありがとうございます!!」


「それじゃ次はFXうさぎといこうや」


おっさんのレクチャーあって、うさぎはどんどん増えていく。

こう順風満帆なほどにだんだんと心配してしまうのはバブル世代ならでは。


「なぁおっさん。このまま俺うさぎ続けていいのかな?」


「心配になったのか? まぁ、手元にうさぎはねぇからな。

 そういうと思って、実うさぎにしておいたぜ」


「実うさぎ!?」


おっさんが見せてくれたタブレットにはどこかの農場が映っていた。

そこには大量のうさぎがひしめき合っている。


「仮想うさぎでも、実うさぎでもねぇ。お前さんの実うさぎだ。

 どうでぇ、これで安心しただろう?

 うさぎに困ったら、このうさぎ銀行からうさぎを持ってくりゃいい」


「おっさん……あんた天才だよ!!」


「褒めるのはまだ早ぇ。ここからがポイントよぉ。

 お前さん、この愛らしいうさぎ農場を放っておくきかい?」


「なにか考えがあるのか?」


「うさぎと触れあえるテーマパークとして開放するんでぃ!」

「おっさーーん!!!」


俺とおっさんはむさ苦しい熱い抱擁を行った。

お互いに動物臭かった。


おっさんの作戦はピタリ的中し、うさぎを預けているだけなのに

大量のうさぎと触れ合いたい人や友達を作りたい人がうさぎを持って訪れる。


それが宣伝となって、俺の持つ仮想うさぎやFXうさぎは大人気。


飛ぶ鳥どころか飛ぶうさぎをも落とす勢いだった。



そんな調子でいたはずの、三日月のある日。


「あなたにうさぎ逮捕令状が出ています」


ツインテールの婦警がやってきたのは寝耳に水だった。


「え!? 俺がなにかしたんですか!?」


「インサイダーうさぎです。それにうさぎ取引法にも違反しています」


「待ってください! 俺はおっさんの指示に従っただけで!」

「あなたの知り合いのおっさんもうさぎ逮捕しました」


目の前が雪うさぎ色になった。


「そ、そんな……」


「どんな悪事もけして見逃さないのが、私、月野うさぎ。

 月に変わって~~うさぎ逮捕!!」


気がつけば俺はうさぎ監獄へと収監された。

うさぎ監獄ではすべての犯罪者がうさぎに姿を変えられてしまう。


「ーーというわけで、以上がこの監獄でのルールだ。わかったか」


「ぷー」


うさぎは声帯が発達していないので返事もろくにできない。

不平不満を言うこともできないし、

何よりうさぎになってからやたら周りを気にするようになった。


曲がり角を曲がったらタカに襲われるんじゃないか。

あの天井には大きなヘビが隠れているんじゃないか。


そう思うと、夜も浅くしか眠れず、食事も自分の糞しか喉を通らない。


(うさぎってこんなに大変なのか……!!)


人間の看守の足音が聞こえるたびに部屋のすみっこへ逃げる生活。

体力の限界を感じたとき、ふと頭に浮かんだのは自分のうさぎだった。


前歯で床を削り看守にその意志を伝えると、うさぎから人間に戻してもらった。


「さぁ、要件を言え。うさぎ番号101番」


「はい、あの、俺には大量のうさぎストックがいます。

 仮想うさぎじゃありません。実うさぎが大量にいるんです!」


「それで?」


「保釈うさぎとして納めれば、仮うさぎ釈放してくれますか!?」


「なるほどな、よしいいだろう。見せてみろ」

「こっちです!」


看守長を連れてかつて訪れたうさぎ銀行へと訪れた。

そこには大量のうさぎが元気に走り回って――


「……いないじゃないか」


「ちがうんです! ここに確かに実うさぎがいたんです!」


脳裏におっさんの顔が浮かんでハッとした。


「まさか、あのおっさんが持っていったのか!?

 あの野郎!! 俺を騙してうさぎを持っていったんだ!!」


「いやそれは違う。あのおっさんならお前と同じくうさぎ逮捕された。

 そしてうさぎ監獄に収監されて、死んだ」


「し、死んだ……!? どうして……!?」


すると、うさぎ銀行の近くに住んでいた人がやってきた。


「あーー、もしかして、お前さんがここの人かい?」


「そうですけど……。あ! あなたはここにいたうさぎたちが

 どこにいったのか知りませんか!? 俺のうさぎなんです!」


近所の人は困った顔をしていた。


「あんた知らなかったのかい。うさぎは寂しいと死んじゃうんだよ」



保釈うさぎを渡せなかった俺はふたたびうさぎに戻り、

おっさんと同じくうさぎのまま「寂死(さびし)」した。

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