第三十話 ふたたびのゴロツキ

 盗っ人はアリアの荷物のなにを狙ったのだろう。

 金銭はもともとそんなになかったらしい。

 

 旅の途中でもし困ることがあれば、教会を頼りなさいと旅立つ前にシスターたちに助言されて安心して出発したという。

 

 もしあの男が犯人ならば、白魔道士の聖女アリアの荷物に魔法使いが興味をしめすものってなんだ?


「カトリーヌさん」

「なあに?」

 カカアカラ街の門から出て街道沿いを行くと右に海が見え左手にはモンキー山脈がそびえている。

「女神さまはなぜあなたを呼んでいるのでしょうか」

「なんでかな?」

 カトリーヌは女神イシスに二度だけ会ったことがある。

 一度めは聖獣ジスを託されて。

 二度めは魔王からの瀕死の重傷を負わされた時。

 

 ジスをあずかった時に女神は言った。

(女神イシスは私を漆黒の勇者と認めると言われた)

 

 そののち聖剣エクスカリバーを勇者の宮殿で抜いた。

 魔王の不意打ちにあいカトリーヌは肩に傷を負い谷底に落ちた。

 聖獣ジスも魔王の邪悪な剣で背中をひと突きにされて。

 カトリーヌとジスは自分が死んだかと思った。

 その時が女神イシスと会った二度めだ。

 まばゆいあたたかい光に包まれて気づいたら、ドワーフたちの住まいにいた。

 女神はドワーフたちにカトリーヌとジスの看病を頼んだ。

 怪我はほとんど女神の力で治っていたが、魔王の邪悪な剣の毒が思いのほか全身をまわってろれつが回らない。

 三日三晩毒に苦しみもがいた。

 

 カトリーヌは魔王の毒の感覚を思い出しながらザワッと鳥肌が立つのを感じたのだ。


 一時間ばかり歩いたときジスが鋭く叫んだ。

『カトリーヌ! 敵だ。囲まれている』

「アリアっ! 敵が来た。私の後ろに隠れて」

 カトリーヌは小声でアリアに注意を促す。

「はっはい」

 山あいの茂みからと海側の坂から男たちが現れた。

 10人ほどか。

「聖女アリアちゃんよお。大人しく一緒に来てもらおうか?」

 現れたのは今朝ほどのゴロツキじゃないか?

 アリアをさらおうとした二人組が仲間を連れて来たのだ。

「おかしらがアンタを待ってんだよ」

「こっちの女も連れてきましょうやあアニキ。なかなか上物ですぜ」

 さっき自分たちを倒したのがカトリーヌだったとは気づいてないらしい。

「高く外国に売れるかもなあ。売れる前に俺たちで先にお楽しみといくかあ」

 下品な笑いを浮かべた気色の悪い男たちに、カトリーヌは嫌悪と怒りが増していた。

「誰をどうするって?」

 カトリーヌはアリアをかばいながら男たちと間合いをとる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る