第三話 聖なる獣

「ここは良いところだよなあ。カトリーヌ」

「そうよね。景色もいいし、穏やかで。島の皆さんは気のいい人たちばかりで、とっても親切だわ。それにやっと農園も軌道に乗ってきたし」


 はっと見ると、犬が立っている。

 短足で小さい犬が器用に後ろ足で。

 それに少女としゃべっているのは、犬!


 ガタンッ。

 男は窓からそうっと覗き見てて腰を抜かしそうになる。


「どなた?」


 開き戸を開けてカトリーヌ(エリザベート)が外を見渡すと、高そうな上質のフード付きの外套がいとうを被った男が窓枠の下にいた。


 こんなに暑いオワイ島にめちゃくちゃ怪しい。


「すまーん」


 男は慌てて転びながら走って逃げた。


「俺が追うか」


 やれやれといった表情で犬のジスがブルルッと、体を震わす。

 

 一瞬で身の丈がカトリーヌの二倍はありそうな大きな獣になった。

 体中の毛がふさふさで大きいモコモコの尻尾が2本ある。

 光り輝く銀の毛を持つ狼の姿に变化へんげした。


 変わったのは姿だけではなく嗅覚や五感ももっと鋭くなる。


「すぐには行かなくていいわ。ジス大丈夫。あの人の正体は分かってるもの」

「んっ?」


「これが、その証拠」


 男が逃げる時に落としていったものを、窓からぴょんっと外に出てカトリーヌは右手にぎゅっと掴んだ。


 カトリーヌはニコッと可愛らしく笑った。


「あの者を口止めせねばなるまい」

「そうね。ジスが普通の犬じゃないって知っちゃったものね」


「オレが勇者に仕えし聖獣だということは、あまり多くの人間が知るべきではないからな」

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