わたしは美少女である

   お題「チート・パブロフの犬・金髪碧眼ツインテールの美少女」


 わたしは美少女だ。ただのナルシスト発言に思えるけど、客観的に見てわたしは美少女だ。だからきっと、クラスの皆も恥ずかしくってわたしに話しかけることが出来ないんだ。そうだ。きっとそうに違いない。

 席替えで一番後ろの席になったから、授業中、みんなの後ろ姿がよく見える。

 みんなの後ろ姿はその辺で見かけそうなありふれたものだ。わたしみたいに、金髪のツインテールにしてる子は他にはいないもん。それにわたしは目も碧い。家族の中で碧眼なのはわたしだけ。だから、よく外国人に間違われるけど、日本人離れした美少女と受け取っている。

 わたしは美少女だ。パパもママもわたしを可愛いって言ってるし、いとこのマチも「いいよね紗奈は可愛いくってさ」って僻むように言ったりするし、やっぱりわたしは美少女なんだろう。


 だけど……不意に自分のことがわからなくなる。


 美少女って何? どうしたら美少女になれるの。テレビに出てくるようなアイドルはみんなずっとわたしよりも美少女してると思う。ウチじゃとっても買えないような服を着ているし、声や仕草だってものすごく可愛らしいし、歌も歌うし踊りもする。

 同性のわたしでもそんな風に思うんだから、男子にしたら天使みたいなんだろうな。ぶっちゃけチート級の可愛さって言ってもあながち間違いじゃないと思う。

 だから……ふと、思うんだ。わたしって本当に美少女なのかなって。アニメに出てくるわたしみたいな金髪碧眼ツインテールの子はかなりの割合でヒロインしてる。だけど、だからってわたしも美少女っていうことになるのかな……? クラスで金髪でツインテールでしかも碧い目をしてるのはわたしだけだから、クラス内でも目立つ方ではある。でもらからって美少女になるかというと、わたしは疑問だ。


 美少女と言われて悪い気はしない。普通というか、アタリマエというか。だけどその時同時に心の片隅に「わたしなんかが美少女って呼ばれていいと本気で思ってるの?」って言う自分がいるのだ。

 わたしは美少女だと思う。それはもしかしたら、周りのみんながわたしの事を美少女って言うから、わたし自身、無意識のうちに自分は美少女なんだと脳にすり込まれているのかもしれない。そう考えると、今までアタリマエに思っていたもの崩れ去っていくようで、まるで足下にぽっかり穴が空いたような、突然天井が崩れてくるような……そんな衝撃を覚えるのだ。


 前に学校の授業で『パブロフの犬』という実験を聞いた。犬に餌を与える前に必ずスイッチを押す。これを繰り返すことで、犬はやがてスイッチを押すことで餌が貰えると思うようになる……簡単に言うとこんなような実験だ。

 アニメなどの物語に出てくる金髪碧眼ツインテールの女の子は概してみんな可愛い。美少女って言っても誰も文句は言わないと思う。だからいつの間にか人々の間に『金髪碧眼ツインテール』=『美少女』という図式が構築されてしまっているんじゃないか。

 クラスのみんなはわたしの姿をそんな物語に出てくる美少女の姿に重ねているんだろうか…………?


 だけど……。


 わたしは洗面台の鏡でもう一度よく自分を見る。鏡の中のわたしと目が合う。鏡に映し出される自分の姿はやっぱり綺麗だと思った。空のように碧い瞳に、鮮やかな金色の髪、そして流れるような二つ結びの髪型。


 わたしは美少女だ。

 疑いもなく今までそう思って生きてきた。


 だけど、最近思う。


 わたしって美少女なんだろうか?


 ねぇ――誰か教えてよ。



            おしまい

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る