レンタルラブレター

お題:「十六天衆」「歪んだ愛」「レンタル」


 かつて、世界は十六の神によって統治されていた。

 水を生み出す神アリエス。火を司る神ファイ。風を操る神エアランテ。大地を管理する神グラニエル。音を司る神ミクシム。光の神ピカット。闇の神リエットーレ。……その他、九人の神々によって世界は成り立っていた。

 人々は神々をいつしかこう、呼ぶようになる。


 世界の偉大な神々ーー十六天衆、と。



 だああああああああああああああああああ!!!!!!!!!


 こんなんじゃダメだ! 少年はノートのページを強引にはぎ取って、びりびりに引き裂く。ちょっぴり汚い部屋に紙片がぱらぱらと舞う。

 再び椅子に座り直すと、またじーっとノートの白いページを見つめる。彼は鈴木くん。県立高校に通うふつーの高校生である……と本人は思っている。しかし、彼はふつーではない。というのも、鈴木くんは今、歪んだ愛のただ中にいるのである。


 ある日の学校からの帰り道。鈴木くんが家路をぼんやり歩いていると、突然、強い風が吹いた。ベタだけれども、本当のコトだから仕方ない。ベタとは日常である。

 ともかく、彼の前から突風が吹き付けた。

 目にゴミが入らないように鈴木くんは目をつぶろうとしたその刹那、彼は見た。

 鈴木くんの前を、5メートルほど開けて一人の女の子が歩いていた。制服が違うから、きっと他校の生徒なのだろう。だが、今はそんなことはどうでもいい。

 突風に煽られて女の子のスカートがめくれ上がる。

 その瞬間、鈴木くんは見た。


 もはや、半ズボンといって差し支えないようなかぼちゃパンツを。


 この一瞬で鈴木くんは彼女に心を奪われた。

 ラブコメマンガやらで見かけるパンツではない。今や、めったに見かけることのない古風なぶかっとしたかぼちゃパンツである。

 それを見た瞬間から、鈴木くんは彼女……というよりはかぼちゃパンツの虜になってしまったのだ。

 歪んだ愛かもしれない。それでも、彼にはまさに雷に打たれたような恋だったのである。


 そして現在ーー鈴木くんは彼女に当てたラブレターの文面に苦悶していた。他校の生徒だし、名前もわからない。仮にカボ子と呼ぶことにしよう。カボ子の連絡先も知らない以上、思いを伝えるには、帰り道で彼女に恋文を渡す以外には方法がない。少なくとも鈴木くんはそう思っていた。彼はこれで案外、不器用な男なのだ。

 ラブレターの文面を書き出したところ、彼自身も知らない自分の未知の悪癖を知ることになる。

 彼は何か文章を書き出すと、生来の背伸びしがちな性格がこれでもかという程強調されることによって、非常に難解で意味のわからない文章書いてしまう。すなわち、鈴木くんが文章を書くと、いつの間にかに極めて中二病的な設定の羅列になっているのだ。

 鈴木くんは自らも知らぬ感情の英知に畏れさえした。

 しかし、中二病的設定はことラブレターにおいて非常に似つかわしくない。これではかぼ子を振り向かせる可能性は、万に一つもゼロである。

 自分で書いていても意味がわからない。なんだよ十六天衆って。

 しかし、普通の文面が頭に思い浮かばないことも事実。

 そこで彼は救済策をネットの海に求めることにした。

 そしてすぐに、とある一つのサイトへとたどり着く。


 ーーレンタルラブレター。


 これは誰かの書いたラブレターの文面をレンタルできるというサービスらしく、鈴木くんは迷わずこのサービスを利用することにした。



 やがて時は訪れた。下校途中のかぼ子を見つけたのだ。

 機を逃すまいと鈴木くんは全力疾走。勢いままにかぼ子に声をかける。


「あの! これ、読んでください!」


 柄にもなく頬を紅潮させ、ラブレターを渡す鈴木くん。まさにベタベタな展開である。

 突然の出来事に驚きつつも、かぼ子は鈴木くんから手紙を受け取りその場で読み始めた。

 そして一読して、彼女はつぶやいた。


「これ、もしかしてレンタルラブレター?」


「え……!?」


「いやいやとぼけないでよ。これサイトにあったレンタルラブレターでしょ。この文面、書いたのあたしだもの。ずっと前にきまぐれで書いたものを使う人がいるなんて驚いたわ」


「嘘……嘘だ……!」


 鈴木くんはもはや茫然自失していた。懇親の思いで捜し当てたレンタルラブレターは、なんとかぼ子が作成したものだったのである。


「さすがに自分の書いたラブレターじゃ、ときめかないよ。ごめんね」


 フラレタ……フラレタ……フラレタ……。


 鈴木くんの頭の中は「フ」、「ラ」、「レ」、「タ」の四文字で一杯になっていた。かぼ子の言葉は彼にとってまさに痛恨の一撃だったのだ。

 彼の中でかぼちゃパンツは破けて、消えた。後に残ったのは虚しい気持ちだけだった。


「だから……」


 ふと、かぼ子がつぶやく。


「今度はきちんと自分で書いたものを読ませてよ」


「それって……」


 かぼ子はいじらしく頬を指でかいて言う。


「その……楽しみにしてるからさ」


 会心の一撃だった。

 恋はまだ、終わっていなかった!

 十六天衆は鈴木くんを見放していなかったのだ。

 鈴木くんは拳を握りしめ、笑顔で言う。


「わかりました! 今度はレンタルではなく、自分の言葉で伝えます!」


 二人の行く末がどうなったかは二人のみぞ知るところである。




 ここでわたしが言いたいことはただ一つ。

 電波な話になってごめんなさい。

 

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