22 ついに決着の時が訪れたのだ
「あぶない!」
そう呟くと夏目は華麗なコントローラー捌きでゴルティスの放ったエネルギー波を避けた。柱の陰に転がり込んで体勢を立て直すと、ピートとシンディの姿を探した。
「ピート!」
ピートがシンディをかばってエネルギー波をモロに受けていた。
「このままじゃヤバいぞ」
ピートの体力ゲージは四分の一を切っていた。もしピートの体力がゼロになったら、三人で同時に隠しスイッチを入れることができなくなってしまう。
「でも闇雲に撃ってみたところで、正解に辿り着くはずもない。どうする」
何かヒントになることがあるんじゃないだろうか。夏目は柱の陰から祭壇の部屋をくまなく観察した。すると左右に七本ずつある白い柱のちょうど真ん中の一本だけが薄い緑色をしているのに気付いた。
「ん? 左右とも一本ずつ柱の色が違ってる。これか?」
すぐさま他の二人にメッセージを送る。
『左右の緑の柱を同時に撃ってみて』
すると一瞬間があって、ピートが『既読』に、続いてシンディが『既読』になる。
ピートとシンディが走り出したのを見て、夏目は真ん中の祭壇に向かってエースを走らせた。
三つ目のスイッチがどこかがわからない以上、怪しそうな所を撃ってみるしかなさそうだ。夏目は祭壇の台座の中心にある宝玉が怪しいと睨んでいた。
三人が位置に付いたのを確認して、コマンドで『カウント』を選ぶ。すると全員の画面にスリーカウントが表示されるのだ。『3』『2』『1』一斉にショットを撃つ。
チロリーン♪とジングルが鳴って、タイムアイテムが飛び出した。
「違ったか」
これは制限時間を増やすアイテムを出す隠し仕様だったのだ。しかも宝玉は関係なくて、ふたつの柱を同時に撃つことでアイテムが出現したようだ。
ゴルティスの火炎弾が飛んで来る。ジャンプで避けると火炎弾は祭壇に当たってさっきの宝玉が砕け散った。
他に怪しい所はないか。夏目はぐるりとカメラを廻し、部屋の中を観察する。やはりこれだけあるのだから、柱は怪しい。すると柱に彫ってある異形の生き物の像が妙に気になった。しばらくそのまま凝視する。すると、一瞬開いていた口が閉じる像があったのだ。しかも左の列の三番目と六番目のふたつ。閉じていたのはほんの一瞬で、すぐまた開いて青白い炎が見えた。像のモデルにわざわざ口を閉じるモーションを用意しているのだから意味がないわけがない。
『像の口が閉じる瞬間』
そうメッセージを送ると、ピートとシンディから立て続けに『既読』のサインが届く。
ゴルティスの攻撃をかわしながら像に近づいていくのは至難の業だ。ピートはさすが胡桃名さん、ディレクターだけあって、ゴルティスの攻撃を見切っている。すでに像の前で口が閉じるのを待っている。しかし、シンディは苦戦しているようだ。あと一歩の所で、攻撃が当たって吹き飛ばされてしまった。思わず夏目はカバーに入る。柱の前までエースが辿り着いた瞬間、像の口が閉じた。
「えーいっ」
二人で像にショットを決める。
するとチロリーン♪とジングルが鳴ってアイテムが出現した。
それは体力回復アイテムだった。
「ちっ!」
考えてみれば、三人で同時に撃つ必要のある隠しのヒントが二ヶ所だけのわけはないのだ。元々は二人プレイのゲームなのだから、二ヶ所同時にショットすると出現する隠しアイテムというのは順当なアイデアだ。そういう意味では三人でショットする隠しスイッチが特殊なのだから、見た目でわかるはずもないではないか。そもそもそれでわかるようならデバッグチームに発見されてしまうだろう。
「そりゃそうだよな」と夏目はため息をついた。
ピュワッ。
ピートがアイテムを取った音だ。ピートの体力が三分の二まで回復した。
ピートがエースの方を見る。すると頭の上に吹き出しが出た。『サンキュー』
「胡桃名さん」
夏目は胡桃名の役に立ったのがちょっぴり嬉しくて笑顔がこぼれた。まぁ、良しとするか、そう思うのだった。
しかしだとするともう何のヒントもないことになる。そろそろスイッチを入れてクリアしないと誰かが先にダメダメなエンディングを見てしまうではないか。
「胡桃名さん、楓馬さんがやりそうなこと、何かわからないんですかぁ」
やる方なくゲーム機に向かってそう呟いた時、喫茶店の玄関口からライダースーツの男が入ってきて、喫茶店の従業員に話しかけているのに気が付いた。
するとウエイトレスが男の持ってきた封筒を受け取って店内に向かってこう叫んだ。
「お客様の中に夏目様はいらっしゃいますか」
喫茶店で急に自分の名前が呼ばれて、一瞬頭が真っ白になったが、すぐ我に返って夏目は手を挙げながら立ち上がって叫んだ。
「は、はい。夏目です!」
急に立ち上がったその勢いで、ゲーム機がテーブルの上に落ち、反動でコーヒーカップがひっくり返る。
「あぁあぁぁぁ」
あわてる夏目の側に、ウエイトレスとライダースーツの男が近づいてきた。
ライダースーツの男は封筒を差し出しながら言った。
「夏目潤さんですか? 株式会社パレットの鳴谷様からバイク便でお届けものです」
鳴谷さんから? 夏目はピンときた。急いで伝票にサインし、封筒を受け取ると乱暴に封を引きちぎって中の紙を引っ張り出した。
「よっしゃー、ナイス鳴谷さん!」
ひと目見て、夏目はすぐさまテーブルの上のゲーム機を取り上げ、メッセージを打ち始めた。
バイク便の男とウエイトレスが顔を見合わせて驚いている。しかしそんなものには目もくれず夏目はメッセージを送った。
ついに決着の時が訪れたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます