自給自足はいいぞ

「そうだ、これだけは聞いておこうか」


「?」


 作業を始めようとした時に、オオカミが思い出したように問いかける。


「キリン、君が書きたいのはギロギロの二次創作だろう?それは・・・」




「自給自足のために書くのかい?」




 ジキュージソク。その言葉にキリンは戸惑う。ニジソーサクとやらは何となくわかる、誰かの作品のキャラクターなどで漫画を描いたりすることだろう。


「えと・・・」


 返答に困り、口元に手を当てて視点を左右に動かすキリンに、オオカミは言葉を足す。


「ここでの自給自足っていうのは、自分がみたいけど原作にはないギロギロの物語を自分で創って満足するって意味さ」


「なるほど!ありがとうございます!」


 オオカミの的確な答えにキリンは目を輝かせながら返事をする。単純なあたm・・・真っ直ぐな性格をしているキリンは、何故心が見透かされたのかというのには目もくれない。


「で、どうなんだい?自給自足なのか、そうじゃないのか」


「うーん、私は自給自足ですかね?その、ヤギが犯人のお話がみたいから書くんですし」


「そっか・・・じゃあ、書いてごらん?」


「わかりました!!」


 お目目キラキラモードのまま、意気揚々と鉛筆を握るキリン。白い紙を目の前にして、とあることに気がつく。


「どうしたんだい?」


「先生、さっき一緒にやってみようって・・・」


「うん。私はここで見守ってるから、やってごらん?」


「いやいや!?そんなこと言われてもできませんよ!」


 オオカミの丸投げなスタンスにキリンが不満そうな声を上げる。


「ほら、『とにかくやってみよう』って話したばっかりじゃないか」


「うぅ、わかりました・・・」


 そう言ってキリンは鉛筆を握り直した。が、モヤモヤと何か引っかかっている。探偵のカンのようなものだろうか。引っ掛けたままにしておくのも気持ち悪いので、素直にオオカミに質問を投げかける。


「さっきの自給自足の質問、意味あったんですか?」


「うん、ちゃんと意味はあるよ?」


 オオカミはいつの間に持ってきたのか、ギロギロの単行本をペラペラめくりながら答える。


「キリン?君は、自給自足以外に創作をする理由で何が思い浮かぶ?」


「うーん、人気のある作品を作りたいとか?それか、『私のアイデア見て欲しい!』とか・・・」


「そうだね、大方そんなものじゃないかな」


「それがなにか関係あるんですか?」


「私は、それによって作品も作り方も変わってくると思うんだ」


 問いに答えたオオカミ。その答えにキリンは頭に「?」マークを浮かべている。余計にこじらせてしまったらしい。


「例えば、『人気になりたい』なら。作品もこだわったものになるし、みんなが面白いと思う物を作るようになる。正確には、みんなが好きそうなものを選んで作るようになる」


 さっきまでのにこやかな顔から一転、オオカミが真剣な眼差しで語る。


「もっとも、それを二次創作でするのは間違いかもしれないけどね」


「なんでですか?」


 キリンの素朴な疑問に、フッと息を吐いて目を閉じるオオカミ。数秒置いてその目を開き、目線をキリンより少し上の虚空に置いて話し始める。


「私が思うに、だよ?二次創作っていうのは、何かの作品をお借りして作らせていただくんだ。その理由が、『自分が人気になりたいから』なんて、とても失礼だと思わないかい?」


「むぅ、確かに!自分を上げるために作品を利用するなんて許せません!」


 ダンッ、と机を両手で叩きながら立ち上がるキリン。それにびっくりしながらも、オオカミは真剣な表情を崩す。ニッコリ、という感じだ。


「まぁ、その辺はどう取るかは人次第だろうから一概にどうとは言えないけどね」


 首を左右にしてから、オオカミが続ける。


「それ対して、自給自足とか『アイデアを見て欲しい』ってのは私は好みだね。他人の目に縛れることなく、自分の好きなように作品を作る。そういうものこそ、真に面白い二次創作になるんじゃないかな」


「ふむふむ」


「あっ、でも二次創作である以上、好き勝手作っていい訳ではないよ。原作への敬意は払わなくてはね」


 原作者の私が言うのもおかしな話だけど、とオオカミが笑う。次はキリンが真剣な顔になっていた。


「それに、自給自足は面白いよ?自分が観たいシーンは観れる、それを他のフレンズに共有できる。何より作ってて楽しい」


「・・・オオカミ先生はやったことあるんですか?」


「あるさ、図書館にあった漫画の二次創作をね。ただ、途中の巻が抜けてたから自分でその間を埋めたんだ」


 懐かしそうに語るオオカミを前に、キリンは感心や尊敬の混ざったような表情をする。


「ほらほら、手が止まってるよ?」


「ふえぁ!?は、はい!」


 急いで手を動かすキリンをニコニコとオオカミは見守った。

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