激烈! 3魔神将!

 一段高い場所から俺を見降ろしている魔族達へと近づき、それでも距離を取った場所で俺は歩みを止めた。

 奴らが不意打ちなどと言うある意味不名誉な事を嫌うのは知っているが、それでも用心に越した事は無いからな。


「貴様が……勇者であるか」


 対峙した俺に、正面の3人からではなくその後ろに控える4人の内の一人からそう声が掛けられた。

 その貴族然とした話し方には、どこか余裕が感じられる。

 それもそうだろう。

 ここから感じる奴らの強さ……所謂「気勢」って奴は、前の3人よりも後ろの4人からの方が強く感じる。

 間違いなく、あの4人が真打って奴だろうな。


「……ああ。俺が勇者だ」


 そして俺は、至極簡潔に奴の問い掛けに答えた。

 別に、魔族と会話する事に否やは無い。だけどそれが、明確な敵対行動を取っている奴ならその限りじゃあない。

 会話を交わせば情が移る。

 そしてそれは、一瞬の決意……眼前の敵を葬ると言うチャンスを鈍らせる事になる。

 魔族にはあまりそう言った感傷的な所は無い様だが、俺達人族にはどうにもそう言う部分がある。俺はそんな人族の特性が嫌いではないが、今この時には必要のない事だ。


「ふむ……確かに強者であるな。勇者自身の強さも然る事ながら、その身に纏う装備の数々……特級である」


 まるで値踏む様に俺を見るその魔族が、感心したようにそう独り言つ。

 そしてそれに同意する様に、他の3人も同じく頷いた。

 何の反応も示さなかったのは、奴らの前に並ぶ3人の魔族……魔神将だけだった。


「アネモス、ウラノス、ゼーよ。此奴はそち達では手に負えぬ相手よ。ここはあるじの言う通り、退いてはいかがか?」


 ……なんだ……? 何の話をしているんだ?

 俺の耳が歳のせいで……いや、それは兎も角として、俺の耳がおかしくなっているんじゃ無ければ、奴らは俺との戦闘を避けようとしているのか?

 それも奴らの主……つまりは魔王の指示だと!?


「……ナダ様……。それは聞けませぬ。我等は先に散って言った同志たちの為、ここで退く訳にはいかぬのです」


「……仕方の無い事よ……」


 抑えてはいても強い語調でそう答えた3魔神将……アネモスだかウラノスだかゼーだかは分からないがその誰かの返答に、ナダと呼ばれた魔族が半ば諦めた様にそう呟いた。

 それはまさに、俺と3人の魔神将の戦闘が決定した瞬間だった。


 まぁ……この魔王城に来て戦わなかった事も無いんだがな。


「さて……此方は準備が万全であるが、そちらはどうであるか? 疲れているのならば、時間を空けても構わないのであるが?」


 何とも拍子抜けする対応だな……。

 このまま奴らと話していると、どうにも戦闘意欲に影響しそうだ。

 戦わないってんならそれでも構わないんだけど、結局戦わないといけないならばこれ以上気の抜けるやり取りはごめんだ。


「……必要ない」


 だから俺は、またも言葉少なくそう答えたんだ。


 それにしても……どうにもやりにくいな。

 魔族のやり取りも然る事ながら、これから始める戦闘を高みの見物とされる事も気にかかった。

 本当なら、出来れば手の内は晒したくない。

 こちらの能力だけがつまびらかにされて、相手の能力が分からないってんじゃー、これからはハンディキャップマッチを強いられるようなもんだ。


 それでも、この戦闘を回避する事は出来ない。


 それは、何よりも3人の魔神将が戦いたがっているってのもあるけど……。

 それよりも何よりも、俺がこの魔界に……そしてこの魔王城にいる理由に依る。

 俺は何としても立ち塞がる相手をなぎ倒して、魔王に会わなければならないんだ。


「我は風魔神将アネモスなりっ!」


「俺は海魔神将ゼーッ!」


「この俺様は、空魔神将のウラノスだっ!」


 うん、こうやって奴らの名乗りを聞くと、なんだか安定の定期って感じで安心するな。

 ただし、気が休まったのは此処までだった。


 ―――……最後に何とも……厄介だな……。


 奴らが名乗ったのは、風と海と空。

 その特性は何となく分かるものの、どれも俺と相性が良いとは言えない上に、奴らの相性はナチュラルに良い。

 そして何よりも。


「我等は3人で貴様と対する事にしたっ!」


「本当は俺一人でも十分なんだがなぁっ!」


「これも魔王様の命ならば仕方がないと言うものだっ!」


 どうやら今回も、3人掛かりで襲ってくるようだった。

 互いに干渉しにくい属性……それどころか、普通に相乗効果を齎す奴らがタッグを組んで襲って来るんだ。

 これは……激戦苦戦の予感しかしないな……。

 それでも。


「ああ、それでいい。掛かってこい」


 俺はその宣告に異論を挟まなかった。

 何故なら言っても仕方が無いし、俺が反対する理由もないからだ。

 むしろ今頃になって思い出したように数で攻めて来る事に、今更かよ……って感想だった。

 まぁそのお蔭で、俺はここまで進む事が出来たんだけどな。

 俺が間を置かずに、おののいた様子も見せなかった事が奴らの気に障ったんだろうな。

 3魔神将は息を荒く……特にゼーの奴は顔を真っ赤にして高台から飛び降りてきた。


「お前達、油断などは無いのであろうが、無駄に死ぬ事を魔王様は良しとせぬ。分かっているであろうな」


 ナダが3人の魔神将にそう声を掛ける。

 それに対して3人が答えるような事は無かったが、その代わりに更なる闘気の高まりを以て応えとした様だ。


 ―――全く……。どうにもやりにくい事この上ないな……。





 そうして俺と3人の魔神将との戦いは切って落とされたんだ。

 開幕は……至極普通だ。

 奴らのコンビネーションはぎこちないながらも、以前タッグで戦いを挑んで来たヴァッダーとフエゴに比べれば格段に連携が取れていた。

 何よりにも、奴らは歴戦の勇姿であり高レベルの魔族だ。

 クリーク達みたいに未熟な者でないだけ、その攻撃力は厄介なものだった。

 風魔神将アネモスの巨斧が襲い掛かり、その攻撃を躱せばそこを空魔神将ウラノスが二刀流で切り込んでくる。厄介な手数の攻撃に対応している処へ、海魔神将ゼーの大刀が背後から迫りくる。

 更に厄介だったのは、その攻撃パターンは一定では無いと言う事。

 様々な組み合わせで、俺の予測を妨げるように工夫されていたんだ。


 ただし残念ながら、そんなも俺には通用しなかった。


 これは奴らの連携云々ではなく、明らかに違うレベル差によるところが大きい。

 つまり、3人の魔神将が連携しようとも、俺のレベルの方が上手だったと言う事だ。

 勿論、あっさりと奴らを無力化出来るほどに差はないが、いずれは奴らを倒す事が出来るだろう。


 ―――このままだったなら……な……。


「くらえっ! 激烈アクサ竜巻ヴィントホーゼっ!」


 一瞬の間隙を突いて、風魔神将アネモスが特殊技を繰り出して来たっ!


「ぐ……ぐうぅ……」


 俺はそれに耐えようとするが、如何に聖霊の加護を得ている「光の盾」と「聖霊の鎧」であろうとも剣技と魔法、そして正しく自身の特性が加味された「必殺技」には大きな効力となり得ない。

 そして俺は……自分で言うのも何だが細マッチョだ。

 ハッキリ言って、同年代のアラフォー野郎どもが羨むナイスボディの持ち主だ。

 だが、今回はそれが裏目に出る。

 細い……と言う事は……軽いんだ。


「う……うおぉっ!?」


 俺の身体は奴の放った暴風に負け、あっという間に上空へと飛ばされてしまったんだ!

 これも実際は、アネモスだけの力じゃあない。

 協力関係にある空魔神将ウラノスと海魔神将ゼーの効果が影響している。

 空と海は嵐の属性に相性が良く、その効力を数倍に引き上げるんだ。

 恐らく奴らはそんな事なんて知らないんだろうけど、今はそんな事なんて関係ない!

 結果として、俺の力を以てしても防げない程の攻撃を喰らう事になってるんだからな!


「おおっ! 天割アドウェルサグロムっ!」


 そして中空に投げ出されて身を躱せない俺に、空魔神将ウラノスの極大雷魔法が襲い掛かったっ!


「ちいっ!」


 俺は咄嗟に身を捩り、巨大な雷を光の盾で受け止めた。

 盾自体に魔法を軽減する効力は無いが、聖霊の鎧がその役割を果たしてくれる。盾で受け止めたのは、衝撃と熱を軽減するためだった。

 俺自身が「雷属性」に耐性があるから、受けたダメージ自体は大した事は無い。

 だがやはりと言おうか、嵐の特性を持つ海と風の影響で奴の魔法も威力を増大させている。

 俺は雷の威力に押される様に、宙から地へと叩きつけられる速度で落下する羽目になった!

 そしてそこで待っていたのは。

 俺が地面へと叩きつけられる直前に襲い掛かって来た……大津波だった!


逆狼ヴェレ奔波ウェルテックスっ!」


 海魔神将ゼーの作り出した巨大津波が、為す術の無い俺を呑み込んで渦巻くっ!


「ぐおおおっ!」


 魔法的に強化されている海流は、俺の身体を容赦なく巻き付き捩じ上げ締め殺そうとする! 如何な俺でも、この3連攻撃には対処のしようが無かったというのが本音だった。

 それでも、レベル的に上位である俺には奴らの攻撃に耐えるだけの「耐久力」が備わっている。

 この強烈な攻撃であっても、奴らには俺の息の根を止める事は出来なかったんだ。


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