合縁

俺の家族は転勤族だ。

俺が小学校低学年の頃から現在に至るまで、父親は述べ5回もの転勤を繰り返している。当然家族でいる俺も5回もの転校を繰り返し、現在高校2年生。全国様々な支社を回った挙句ようやく本社に腰を落ち着かせた父親曰く、らしい。

つまりは、転勤族卒業というわけだ。

2年に1度くらいのペースで転校を繰り返してきた俺からしてみれば、もうこれから引越しをすることはないと言われても実感なんて湧くはずもなく、そもそも学生生活も佳境に入っている。

当事者、けれども他人事。

しかし、家族は喜んでいるらしいのでこれは喜ばしいことなのだろうと思った。

ならば、俺も一緒になって喜んで然るべきだということで。

前置きが長くなってしまったが、つまりはこういうことだ。

俺の家族は転勤族









9月。

2年に1度のペースで引越しを続けてきた俺達みなと家もようやく一つの地で生きていくことが決まり、思い切って建てた立派な一軒家から新しい学校へと向かう。今日は6回目の転入初日というわけだ。

時に、〝6〟という数字は不吉だとか悪魔の数字だとか聞くが、俺にとっちゃなんてことはない。むしろ、記念すべき〝6〟なのだ。全国各地にいる涙で別れた友達ともたちに思わず報告したくなるくらいには、めでたいことなのだ。

いやぁ、めでたい。

目新しい土地。

目新しい匂い。

目新しい制服を着て歩く生徒達。

目新しい制服を着て歩く俺。

そして。

目新しい学校。

↑を見上げ、内心拳を握り決意する俺。以下スペック。

お世辞にも格好良いとは言えないツラ

お世辞にも高いとは言えない身長タッパ

お世辞にも良いとは言えない体型スタイル

身長165cmのブサデブ。

名を、湊 文明みなとふみあき

つまるところ、それが俺だった。最初の方の語りを読んでこんな男が現れるとは夢にも思わなかっただろう。どうだ、参ったか。はっはっは……ハァ。

いやなに、自分で言うのもアレだが悲しくなってくる。

名前負けしてるし。

だいたいなんだよ湊 文明って。格好良過ぎだろ!ふとしとかにしろ馬鹿!嘘嘘!ふとしヤダ!僕文明!お母さんいつも産んでくれてありがとう!(大野智感)

ゲフン。

そりゃ、この見た目で良いこともあったよ。転校先で警戒されないから、すぐみんなの輪に入れるとか。

つまるところ、デブとは癒し系なのだ。

うるせぇ。

なにが癒し系だ。

この見た目で悪いことの方が圧倒的に多いわ。ぶっ飛ばすぞ。なぁ。

……モテてぇよ。

……顔格好良くなって背伸びて痩せてモテまくりてぇよ。

でも無理だ。

転校する先々で色〜んな美味いもん食ってきたからな。俺は食の素晴らしさを知ったデブモンスターだ。もう標準体型人間には戻れない。

てな訳で、内心拳を握り決意する俺(デブス)。

話を戻そう。自虐は忘れて、地の分に徹しようじゃあないか。


「待ってろよ〝7〟校目の学校。めいいっぱい楽しんでやるからな……!」


そう。〝6〟回転校したということは、今回の学校で〝7〟校目ということだ。

〝6〟という数字を気にしないみたいなことを言いつつ、〝7〟というラッキーナンバーに心躍らせる俺。

うーん、格好悪い。

俺が正門前で見上げる国立谷郷ヶ岳やごうがだけ学園は、古くからこの国に、東京の──都会ど真ん中に存在する由緒正しき名門校らしい。勉学に限らず一芸に秀でた少年少女を多く推薦で取っているのが特徴で、全校生徒数2000人を超えるマンモス校だ。

ちなみに、2000人を三学年で割ると、1学年辺り大体人。

……。

気にしないぞ。

推薦でこの学校に入学した生徒は一律学費無料、地方から入学する生徒には家賃光熱費タダの寮に住まわせたりと、素晴らしい待遇を受けられることになっている。

何故俺がこんなにもアツく語っているのかというと、何を隠そう俺も一芸推薦枠で入ったからだ。転校生という立場でもそんな枠があることに驚いたが、実際そんな枠があってしっかり受かったのだから仕方あるまい。

オマエも一芸推薦枠最高と叫びなさい!!

   \一芸推薦枠最高!!/

国立谷郷ヶ岳学園。俺はこの学舎まなびやで、素晴らしい学園生活を送ってみせる!

モテないけど!

今一度、心の中で拳を握って決意表明をしていたところで、後ろから歩いてきたであろう生徒と肩がぶつかる。俺の体型はこの有様なので、微動だにせず、ぶつかった相手がよろけた。


「……ってェな」


ぶつかった生徒と目が合う。俺は思わず怯んでしまった。

第一印象は、顔の良い美人な女ヤンキー。

この学園の制服(結構オシャレなブレザータイプ)をふんだんに着崩し、その上からスカジャンというファッション。あとくるぶしまである長すぎスカートにはスリットが入っていて、ことあるごとに太ももがチラ見えしてる。

俺と同じくらい、つまりは165cmくらいの女子にしては中々の身長。

こちらと目が合った瞬間に靡いた金髪は背中の辺りまで伸びていて、毛先から視線で辿っていくと根元は黒くなっていた(所謂プリン頭)。

根元にまで視線がいったところで、もう一度目を合わせる。

眉間に皺が寄りまくっていて、ガンというガンがこちらに飛ばされまくっている。今すぐにでも「アァ!?」という声が聞こえてきそうだ。


「おいテメェ舐めてんのかよ、アァ!?」


聞こえてきた。


「い、いや、舐めてない」

「あ?」

「舐めてない……です」


突き刺さる視線に臆し、目を逸らしながら語尾に敬語を付け足す。誰だってヤンキーは怖いのだ。


正門前ど真ん中こんな場所でボーッと突っ立ってたってことは、喧嘩売ってんだろ?ア?」

「う、売ってないです……」

「こっち見ろやッ!」

「はいぃ」


デカい声にビビって慌てて目を合わす。それから数秒ほど経って、目の前のヤンキーから覇気が消えた。眉間に寄っていた皺も消え、キョトンとした表情に変わった。


「……文明ふみあき?」

「え?」

「うわ、やっぱそうじゃん!文明じゃん!」

「え、えぇっと。失礼ですけど、お名前は」

「何だよ、忘れたのかよ!アタシだよ、|久道

美結くどうみゆだよ!」


そんな、『オレだよ!ワリオだよ!!』みたいに言われても。

だがしかし、その名前を聞いてようやく合点がいった。

そうだ、思い出したよ。

俺と彼女──美結は、既知の仲だったのだ。

以下。少し、回想。













『グスンッ……。なぁ、ふみあき。本当に転校しちゃうのかよ』

『うん。親父の仕事の都合で』

『いやだよ〜!行かないでよ〜!』

『俺だって転校したくないよ!……でも、親父の仕事の都合で、仕方ないんだ』

『もうふみあきと会えないのいやだよ』

『また会えるって』

『そんなこんきょ、どこにも無いだろ!』

『これ、やるよ』

『なに?これ』

『お揃いのキーホルダーだ。これがある限り、俺達はまたどこかで必ず会える!ってね。……まぁ、ただのおまじないだけど──』

『嬉しい!』

『ならよかった』

『じゃあ、このキーホルダー!一生大事にするから!ふみあきとまた会えるように、毎日このキーホルダーにお祈りするから!』

『うん、ありがとう──じゃあな!みゆ!』

『うん!ね!ふみあき』













みたいなことが、小学生の頃あったのだ。俺にとっても初めての転校先での別れだったので、ワンワン泣いたのをよく覚えている。ちなみに、一番最初の学校から転校する時は一滴も泣かなかったよ。

転校の意味がよく分からなかったからな。

しかし、まぁ。

そんな、泣き顔を知られている旧友に今こうして再会しているのは少し気恥ずかしい気がしないでもないが。今はそんなことを言っている場合ではない。こうして再会できた喜びを分かち合おうじゃないか。

というか、あの頃の俺は今よりも確実に痩せていたような気がするのだが。

よく俺だって気付いたな。


「美結!お前美結なのか!」

「だからそう言ってるだろ?こっちは文明の顔見てピンと来たってのによ!」

「わ、悪かったよ。だって美結、あの頃と全然違うから」


小学生の頃は、今みたいに金髪じゃなかったし──そりゃあまぁ確かにヤンチャではあったけれども──肩がぶつかった程度で喧嘩をふっかけるような奴じゃなかったし。気付くわけがない。

思わぬ再会に目を白黒させている俺を見てニマニマと笑う美結。

しかしまあ、美人になったもんだ。


「文明、全然変わってない」

「馬鹿言うな。このお腹を見ろ」

「んふふふ、タプタプ」

「揉むな揉むな」

「で」

「で?」

「あの時のキーホルダー、まだ持ってるだろ?ほらっ」


そう言って、ヨレヨレの学生鞄(雑に扱っているから傷むのが早いのだろう)の中から、〝あの時のキーホルダー〟を取り出す美結。多少汚れてはいるものの、大事にしてくれているのがよく分かる。


「こ、こんなに大事にしてくれてたのか。嬉しいよ。ありがとうな、美結」

「えへへっ」


可愛っ。

なんだその笑い方。


「で」

「で?」


勿論、無い。

鞄の中には、じゃない。

多分家にも無い。

無くしたのか傷んで捨てたのかは憶えてないが、無いのは確かだ。

あんな数百円で買えるキーホルダー、こんな長い期間保つ訳ないだろうが。

こちとら6回転校してんだぞ(言い訳)。

なんてことを、何やら両目が濁っている美結に対して言えるわけがなく(てか二人が結ばれるとかなんの話?)、俺は目を逸らしながら誤魔化すしかなかった。


「──しまった、転校初日だからうっかりしてたな。いつもだったら持ち歩いてるんだけどな。いやぁ、うっかりうっかり」

「……」


ジトッ。

そっぽを向いて頬をかく俺の姿を見つめる美結。先程までの威圧感こそないものの、それでも俺にデブ特有の滝のような汗(冷や汗)をかかせるには充分のプレッシャーだった。


「……」

「……」

「……なあんだ、忘れたのか!文明はおっちょこちょいだな!」

「そ、そうなんだよ。まさかたまたま忘れた日に美結と再会するなんてな!いやあ全く面白い話だぜ。はははははは」

「今度見せて」

「ははは、はは……」


俺の死刑が確定した。


「そ、それはそうと。本当に凄い偶然だよな。俺等の小学校からは数100kmも離れたこの学園で、こうして再会するなんてさ」

「それはこっちのセリフだから。なんでこの学校に転校してきたんだよ」


まるで、言外に嫌がっているような台詞。美結の態度からしてそうではないというのは頭では分かっているものの、デブス特有のネガティブ思考が一瞬邪魔をした。すぐに掻き消して、会話に戻る。


「それがさ、美結と別れた後も何回も転校して、今回ようやくそんな転校生活ともおさらばできたってわけ」

「じゃ、じゃあ、これからずっと一緒にいられるの?」

「ああ。卒業までこの学園にいるぞ」


問いに答えると、何やら嬉しそうにしている美結。俺と再会できたことがそんなに嬉しいのだろうか。だとしたら俺も嬉しいよ。

ほっこりとした二人の間に、チャイムが流れる。


「まずい、職員室に挨拶に行かなくちゃいけないんだった!悪い美結、じゃあまた後でな」

「う、うん。また後で」


別れる瞬間、美結が一瞬だけ悲しそうな表情を見せた。まさか、小学生の頃を思い出しでもしたのだろうか。

しかし、また後でという言葉で正気を取り戻したのか、すぐに取り繕った笑顔を見せたのを、俺は見逃さなかった。別に俺は何も悪いことはしていないのに、なんだか悪いことをした気持ちになった。なんだかすまんな、美結。


美結と別れた俺は職員用玄関で靴を上履きに履き替え、廊下を急ぎめに歩く。途中、身長190cmくらいはありそうなデカい女生徒とすれ違う。目が合った気がしたので一応「おはようございます……」と挨拶をしておく。威圧感があってこえぇからだ。

それから、デカい女生徒と無事すれ違って数歩ほど進んでから。


「……ふみ君?」

「──え?」


再会した。














『グスン……グスン……』

『ゆかりちゃん、また泣いてんの?』

『だって……またデカ女って言われたんだもん……』

『まあ確かにデカいし』

『うぇえええん!』

『ちょ、デカいもんはデカいんだからクヨクヨしてもしょうがないだろ!ほら見ろ、俺だって太ってるけどこんなに元気だしクラスのみんなとも仲良し!だから、ええっと──他の人には無いそのデカさを誇れよ!』

『びええええええん!』

『ああもうごめんって!これあげるから許してよ』

『……なに?』

『ちっちゃい埴輪』

『なんで?』

『夏休み前の美術の時間で作ったのが、今日返ってきたんだよ』

『ぷっ』

『へへっ、面白いだろ。だから元気出してよゆかりちゃん』

『……ありがとう、ふみ君。この埴輪大切にするね』

『おう。俺今度また転校するから、ソイツを俺だと思って可愛がってやってくれ』

『えっ』












「いやぁ、こんなところでふみ君に会えるなんて偶然だね。いやぁ、本当に」


回想から戻ってきたと思ったら中学の頃の知り合いから壁ドンされていた件について。ってタイトルのラノベどうすか。発売されたら買いますよ俺。

ゲフン。

今回は、名前を呼ばれて顔をキチンと見たら思い出せた。まぁ、中学生振りだから美結の時ほどの大幅な見た目の変化が無いというのもあるけど。俺も中学生の頃にはもうポッチャリ君だったし。

佐鎧さがいゆかり。

俺が中学生の頃に仲が良かった女子。

当時はその背の高さと目が隠れるくらい長い前髪とオドオドした後ろ向きな性格でよくイジられていたが、今の彼女を見るととてもじゃないがそんな過去は想像できなかった。

……いや、してたわ。大幅な──というか、劇的な変化。

あんなにも長かった前髪はオン眉どころかかき上げられていて。

寝癖が目立っていたショートヘアも、今やアイドルのようによくセットされている。

あの頃のような猫背ではなく、シャキッとした背筋とシャンと張られた胸。

こちらの内面にまで至らんとする妖しい瞳。

自信に満ち溢れた表情。

顔や背丈こそ中学生の頃から然程変わっていないものの、全体的な見た目や纏うオーラが段違いである。

顔のパーツや声こそ中学生の頃とあまり変わらないものの、それ以外の彼女を型作る全てが変化していた。

つまり。

……君、本当にゆかりちゃん?双子とかじゃないよな?


「勿論、ふみ君のよく知るゆかりちゃんだよ。それに僕は一人っ子」

「心を読むな。あと壁ドンもやめてくれ。俺デブだから。ゆかりちゃんの身体が当たってるから」


気分はホストにサービスされる姫である。やめてくれ。思わず貢いじゃうだろ。


やめないよ当ててるのさ

「なんで?」

をした君に対するお仕置きだからね。ほら、ちゃんとこっち見て?」

「い、いやまぁ、確かに急に転校するって言い出したのは悪かったよ。でもしょうがないだろ、そういうのって急に決まるもんなんだからさ」

「……じゃあなんで連絡を返さなかった」

「連絡?」

「何度も何度も何度も何度もメッセージを入れただろう。忘れたとは言わせないよ」

「……えーっと」

「なんだい」

「……俺携帯変えたの、言ってなかったっけ?」


つまり、8から11になったのだ。

俺のスマホ大躍進である。

空気が悪くなりそうだったので半笑いで冗談混じりに言ってみると、ゆかりの片手が俺の頬を上がった口角ごと掴んだ。


「言ってない」

「しゅいあしぇん」

「……まぁ良いよ。僕は赦すよ。なんて言ったって、またこうしてふみ君と再会できたんだからね」

「え、てか一人称〝僕〟で通していくの?中学の頃は〝私〟だったのにいててててて」


頬を掴まれたまま壁伝いに持ち上げられそうだったので、慌ててタップ。そうだ、ゆかりって背が高いからパワーもいかついんだよな。当時、恥ずかしがるゆかりに頼み込んで片手リンゴ潰しを見せてもらったのは、今でも鮮明に脳裏に焼き付いている良い思い出だ。

いや、にしても今の俺を片手で持ち上げることあるか?

ありそうだ。


で僕を揶揄からかっているのかな?」

痛い痛い痛い痛い痛い!からかってないです

「うん。ならよろしい」


俺の柔らかい頬から手が離れ、ついでに両者の距離も普通に戻った。助かった。


「それで、ふみ君はどうしてこの学校に?」

「ほら、俺って親の都合でポンポン転校してただろ?その転校生活がようやく終わって、しばらくはこの街に住むことになったんだよ」

「と、ということは、これからは一緒に居れるということかい!?」


嬉しそうに言葉を跳ねさせるゆかりを見て、何だかデジャヴ。少なくとも嫌われてはいないようで一安心だ。これで、嫌な顔とかされようものなら転入早々に不登校になってたかも知れない。


「ああ。そうなる。これからよろしくね、ゆかりちゃん」

「うん。末永く!」


意味分かって言ってんのかね、コイツ。俺は中学生の頃のガチ気弱イジられ陰キャのゆかりちゃんを知ってるから別に何も思わないものの、高校で知り合った人だったら即堕ちじゃないのってくらいの威力があるキラーフレーズと弾ける笑顔。プリンスっぽい立ち振る舞いとは真逆の、女の子らしい笑顔のギャップが良いね。


「そういえば、俺があげた埴輪ってどうした?もしかして、大事に肌身離さず持ち歩いてたりしないよな」


先程の美結の件を思い出したので、笑いながら先に牽制しておく。美結みたく思い出の品をきっかけに地雷を踏みたくないからな。


「ご期待に添えず申し訳ないけど、もう手元にはないんだ」

「まぁ確かに、美術の授業で作るようなやつだからな。痛みやすいし、すぐ割れちゃったか」

「確かに、痛むのは早かった。だから今は僕の胸の中にある」

「〝だから〟の意味が分からないけど……なんだよ、急におセンチなこと言うじゃん。高校デビュー?」

「高校デビューじゃないよ」

「はぁ?」

「文字通り、僕の胸の中に」

「女怪盗みたいに谷間に隠してるってことか?」

「違うよ」

「じゃあなんだよ」

「はぁ??」

「このままゴミになって捨ててしまうのはふみ君との思い出を捨てるのと同じことだからね。

「……キショ〜」


ドン引きである。まあ確かにゆかりちゃんは身体デカいしパワータイプだから腹は壊さなかったかも知れないけどさ(失礼)。だからって友達から貰った埴輪が壊れて捨てるのが嫌だからって、普通食べます!?友達だから臆せず言わせてもらうけど、君キショ過ぎ!ちょっと距離取らせてもらいます!あ、無理っぽい!


「だから、もう手元には無いってことなんだ。ごめんね、懐かしいからもう一度この目で見たかったってことだよね?」

「……ああ、うん、そう。その通り。でも大事にしてくれてたみたいで良かったよ。うんうん、これからもその胸の中で大事にしてやってくれよな」

「それは勿論。死ぬまで──いや死んでも一緒さ」

「嘘!コイツとの友情、重過ぎ……?」

「何を言ってるんだい?僕のこれは友情なんかじゃなく──」

「あ、こんなところに!湊くん、職員室はこっちですよ!どこほっつき歩いてるんですか!」


突然、声を掛けられる。その先を見ると禿げ頭の初老の男性が。恐らくは職員室で俺を待っていた担任の先生だろう。俺に駆け寄ると、上がった息を整え始めた。どうやら探し回ってくれていたらしい。とても申し訳ないことをしてしまった。

俺が旧友と2回も再会してしまったばっかりに。くっ……!


「おや、佐鎧さん」

「おはようございます、先生」


挨拶を交わす先生とゆかりちゃん。

先生は俺とゆかりちゃんを交互に見て首を傾げた。


「私は湊くんを探しに来たのですが……もしかして二人はお知り合いですか?」

「えぇ、

「へぇ!それがこんなところで再会ですか!ロマンチックですねぇ!」

「はい、


ドラマみたいですねぇ〜!

自分のことのように喜ぶ先生と、言葉に含みを持たせたような言い方をするゆかりちゃん。

それから手持ち無沙汰の、先程までゆかりちゃんにドン引きしてたデブ。


「おっと、いけないいけない。そろそろ朝のホームルームが始まってしまいます。時間が無いので、教室に向かうまでの廊下で色々説明します。着いてきてください、湊くん」

「わ、分かりました。じゃあね、ゆかりちゃん」

「うん。あとで迎えに行くよ」

「いや、それは別にいいかな」


なんかさっきので怖くなっちゃったよ、ゆかりちゃんのこと。


「……」

「あ、ごめん」

「……


埴輪喰い事件のキショさ故につい断ると、先程までの余裕そうな表情はどこへやら。ドス黒い視線とそれに似合わぬ微笑みを携えてこちらを睨むゆかりちゃん。プリンス的な雰囲気は消え去った。寧ろ蛮族(失礼)。

先生は先に歩いて行っているので、ゆかりちゃんの変化には気付いていない。

ゆかりちゃんをこのままにしておくのはのちの俺が可哀想な気もするが、時間が無いらしいので逃げるように先生の後を追った。少ししてから振り返ってみると、先程と全く同じ姿勢と表情で、ゆかりちゃんがこちらを見つめ続けていた。

こわすぎ。












「というわけで、転校生の湊 文明みなと ふみあきくんです」

「よ、よろしくお願いします」


ゆかりちゃんと別れたあと、更なる知り合いに出会うなんてことは流石に無く、何事も無く教室に辿り着いた。これで一安心だ。

流石にあんなイベントは2回が限度である。これ以上はもうスベってるまであるからな。

2年2組。

ここが、俺がこれから過ごし、学び、クラスメイト達と友情を育んでいく教室らしい。

緊張をほぐす暇も無いままに黒板の前に立たされた俺は、担任の先生(佐野先生というらしい)からの紹介と共に挨拶。この、教室中の視線が自分に向く感覚、7回目でも全然慣れねぇ〜〜〜〜。

佐野先生が黒板の方を向き、丁寧に俺の名前をチョークで書き起こそうとしたタイミングで、二人の生徒が「「あ〜〜〜〜〜〜〜〜!」」と大きな声を出しながら、同時に立ち上がって俺を指差した。その行動の突然さ故に椅子が後ろに倒れたが、俺を指差した二人を含めてクラス内の誰も、その椅子の方は見ていなかった。


「「文明さん!!」」


現実逃避気味な俺、たった一人を除いて。

まだかすかに揺れている椅子の行方を眺めながら、俺は心の中でこう呟いた。

……おい、スベってんぞ。

って。













『ねぇ、さやちゃんってヤクザなの?』

『は、はい。そうです。それが何か?(この人も同じ質問……)』

『…………』

『あの、湊さん?』

『──凄えぇぇぇぇ!』

『は?』

『ヤクザってアレだろ?ビトたけのアウトレ◯ジ的なアレだろ!?』

『映画監督としてなので、ビトたけではなく北野武では……いや何を言っているのですか私は』

『土竜の唄だったらどのキャラが好き?』

『日浦匡也です』

『やっぱパピヨンカッケェよな〜!え、じゃあ銃のことチャカって呼ぶ?』

『組の者達ならば呼ぶかもしれませんが、私は呼びません。というか、私が日常的に銃を目にしているような言い方はやめてください』

『薬のことヤクって呼ぶ?』

『組の者達ならば呼ぶかもしれませんが、私は呼びません。というか、私が日常的に違法薬物を目にしているような言い方はやめてください』

『家の冷凍庫に袋パンパンの小指とかあんの!?』

『あ、あるわけないでしょう!というかさっきから何ですかその意味の分からない質問は!さっさと怖いと言ったらどうですか!』

『え、なんで?』

『は?』

『ビトたけみたいなヤクザと対面したらそりゃ怖いし漏らしちゃうだろうけどさ。莢ちゃんは別にヤクザじゃないんでしょ?』

『え、えぇ。私は断じてヤクザでは御座いません』

『莢ちゃん家のヤクザさんも、別に近隣住民脅したりとかしてないんでしょ?』

『当たり前です!ヤクザがカタギに手を出す訳ないでしょう!黒糖会こくとうかいは小指も詰めさせませんしヤクでのシノギもありません!この町の抑止力としての──』

『す、ストップストップ!莢ちゃん、落ち着いて!』

『大体ですね、私は前からそう言っていますのに──』

『駄目だぜ〜んぜん止まんないや!おーいみんな聞いてた?!この通り莢ちゃん怖くないからさ、みんなで遊ぼうよ〜!』

『──へ?』

『実はさ、俺が莢ちゃんも遊びに混ぜようよって言ったらみんなやけに怖がっちゃってさ。聞いたら莢ちゃんの家がヤクザとかどうとか言ってるからさ、さっきみたいな質問しちゃったわけ。俺転校してきたばっかだから全然知らなかったよ!』

『わ、私をクラスの輪に入れる為に、わざと道化のような真似を?』

『え、ワニ?道化のバギー?」

『……何でもありません』

『じゃあいいや。みんなで遊ぼうぜ。これからドッジボールするんだって!』

『ほ、本当に私も混ざってよろしいのですか?』

『当たり前じゃん。もう誤解は解けたんだしさ。ドッジボールで莢ちゃんのスーパーヤクザキャッチ見せてよ』

『触れにくい家庭の事情をそんな笑顔でイジります?普通』

『え?莢ちゃん元外野派だった?元外野は人気ポジでジャンケン必須だから急いだ方がいいよ』

『…………なんでもありません。そうですね──では二人で元外野になって、スーパーヤクザ挟み撃ちで内野をコテンパンにしてやりましょう』

『おっ、ノリが良いね〜莢ちゃん!』

『ふふっ……。では元外野が取られてしまう前に、行くとしましょうか。













『……もう一度言っていただけます?』

『え、何?』

『ですから!先程の言葉をもう一度言っていただけますか!?』

『ああ、修学旅行の班行動はじゃんけんで勝った人が決めよう。ってやつ?』

『そう、それです!何故わたくしの案を通さずしてそのような結論に至るのですか!?京都と言えば伏見稲荷大社一択!皆異論は無かったですのに!』

『いやいや、桃ちゃんのやり方は半ば脅迫だよ。桃ちゃんの後ろのSP二人が、俺含めて他のみんなにガン飛ばしまくって牽制してるの知ってる?』

『わ、私のSPがそんなことするはずがありません!そうですわよね?』

『『…………』』

『そういう事なのよ。つまり、俺は心配なわけ。桃ちゃんがこのままSPの暴走に気付かずに大人になっていったら、きっとロクな大人にならないんじゃないかとかさ。ああ嘘です嘘です。俺の額に銃口を向けないでくださいSPさん』

『銃を下ろしなさい、二人共』

『『…………』』

『ありがとう桃ちゃん』

『いえ。……一つよろしいですか?』

『なに?』

『……文明さんは、私のことを心配しているのですか?父上や母上、それから使用人に至る全員から丁重に、過保護気味に扱われている私のことを』

『いやさっき言ったじゃん』

『もう一度言葉にしてください』

『……心配してるよ』

『それは何故?貴方にとって、私はただのクラスメイト。ただのクラスメイトのSPが恥ずべき行いをしていて、私がそれに気が付かぬ阿呆であったからと言って、貴方が心配する義理など微塵も無いのではなくって?』

『おいおい、忘れたのかよ桃ちゃん』

『はい?』

『俺達は、修学旅行期間中はチームなんだぜ?言わば一心同体、仲間なんだからさ。班員が間違ってることしてんだったら、違うよって言ってあげるのが仲間ってモンでしょ?』

『な、仲間……。私と貴方。それに皆さんも、仲間……?』

『ああ、そうだ桃ちゃん。俺達は仲間だ。だったら、言いたい事は分かるよね?』

『……ええ。皆さん、今まで申し訳御座いませんでした。私はこれから、前だけではなく周囲もキチンと見渡す立派な人間に成ることをここに約束致します。──つきましては、いかがでしょう。文明さんの言う通り、班行動での行き先は平等にじゃんけんで決めさせていただきませんか?』

『よく言ったぜ桃ちゃん!』

『……千歌ちか、と』

『なに?』

安土桃山あづちももやまという名字からなる渾名ではなく、千歌という名前で呼んでください。文明さんにはその権利があります』

『権利?よく分からんけど了解!よろしく千歌ちゃん!』

『はい……!』











ぐおおおおおおおおお!

うわああああああああ!

ぎぃええええええええ!

なああああんで高校に入るまでの俺ってこんなにテンション高いんだクソボケーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

いや理由ならあるよ!?転校先でクラスメイトと早く仲良くなれるように積極的で明るい陽キャを努めて振る舞ったらその通り友達沢山できたから、次の転校先でもその次の転校先でも陽キャプレイしたんだよな昔の俺!分かる分かる!

クッッッッッッソ恥ずかしぃぃぃぃぃぃ!!!!!!くたばりやがれ昔の俺えええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!

脳内で自分を大暴れさせながら、必死に頬の内側を噛み締める。そうでないと、黒板に額を思い切り打ち付けてその血で辞世の句を詠んでしまいそうだから。

俺の今までの転校生活がもし一本のアニメだった場合のタイトル『ふみあきっ!〜俺の転校ダイアリー〜』で、ワンクールアニメでいう4話と8話くらいで出会った旧友二人と再会してしまうというドスベりイベがあったものの、無事(無事なのか?)自己紹介は終了。二期制作予定はありません!

クラスの列の最後尾で参加した始業式では更なる旧友と再会するなんてことは無く、余裕であくびをかましてやりながら教室へと戻ってきてやった。

両隣に旧友二人を侍らせながら。

は?


「それにしてもお久しぶりですね文明さん。転校してしまった私の元から離れてしまった時はどうしたものかと思いましたが、またこうして再会出来るとは。運命って本当にあるものなんですね」


黒髪ロングだが、右サイドは揉み上げ辺りまで刈り込まれている、ツーブロックのイカつい髪型。

右耳にはゴチゴチにピアスが開けられている。

170cm(は??)という高身長ながらも、俺にもたれかかっているので見た目には俺とあまり変わらないように見える。

出会った時からそうだが、莢ちゃんはデフォが無表情ながらもジョークが言えるというナイスな女の子だ。しかし、俺に話しかける今の表情を見るに、無表情という言葉とは無縁に見える。

実家が黒糖会という名前でヤクザをやっているお嬢様──というかお嬢。黒糖 莢こくとうさや。俺の旧友だ。ちなみに、本人はヤクザ業とはまったく関係無いらしい。


「文明さん文明さん、見て下さい今の私を。SPに頼らず、一人でしっかりと立つこの私を。凄いでしょう立派でしょう?文明さんと私は一心同体、その誓いを胸に今日まで私は孤独を耐えて来たのです!」


ピンク色の、ルーズサイドテールと呼ばれる髪型(千歌ちゃんからしつこく覚えさせられた)。

150cm(素晴らしい)という俺より高くない身長を活かし、俺の肩に頭を押し付けながら現在進行形で腕にしがみついている。

表情豊かという言葉の語源になってそうなほどコロコロ変わる表情は見ていて飽きない。今は満開の笑みでいかに自分が成長したのかを俺に聞かせてくれている。

お手本のようなお嬢様言葉を使う、実家も〝安土桃山〟家という関東圏内なら知らない人はいないくらいの超有名財閥のスーパーお嬢様、安土桃山 千歌あづちももやまちか。俺の旧友だ。

ちなみに、今でこそ後ろにSPを控えさせてはいないものの、非常時には0.5秒以内にその身を呈することができるどこかで千歌ちゃんのことを見守っているらしい。

そんな、お嬢様二人を両隣に侍らせるのはイケメンでもなければスタイルが良いわけでもない、俺。

はあ?


「さ、莢ちゃんに千歌ちゃん。人の目ってものがあるからさ」

「見せつけてやれば良いのでは?」

「文明さんと私。これが本来収まるべき姿なのです。……何やら一人知らないお方がいらっしゃるようですが。文明さんお知り合いですか?」

「あ?」

「はい?」


俺を挟んでピキんないでくれ〜!

莢ちゃんと千歌ちゃんは、俺という旧友に再会できたことが相当嬉しかったらしく、自己紹介を終えてから今の今まで俺の腕にしがみついたまま離れようとせず、実のところ始業式もこのまま敢行した。本当にごめんなさい佐野先生。

そして、先程トイレに行った隙に同じクラスの男子(吉岡くん)から聞いた話なのだが、あの二人は本来水と油的な存在でガチの不仲らしく、俺という存在を機に同じ画角に収まっている二人はとんでもなく珍しいことのようだった。

莢ちゃん千歌ちゃん

じゃあ俺は界面活性剤ってこと?字数多くて格好良い。

馬鹿言うな。俺の心労を考えろ。

吉岡くんの言う、二人の不仲というのはどうやら本当らしいと身を持って知った。どうやって宥めたものかと頭を悩ませている最中でも二人はしきりに話しかけてくるので、集中出来ない。あと俺デブだからマスコットキャラ的な感じで接してるかもしれないけど、普通に胸当たってますよお二人とも。

けしからんっ。


「それで、文明さん。とはどういうご関係で?」

やっぱり文明さんに馴れ馴れし過ぎませんか?初対面のくせに」

「初対面じゃねぇよクソアマ。ぶち殺すぞ」

「はんっ。安土桃山家を前によくもそんな、威勢の良い。恥を知りなさいこの、社会の鼻摘まみ者が」

「上等じゃコラ。このヤッパ見てもその面崩すんじゃねぇぞ」

「まぁ!短刀だなんて野蛮な人!……レディだったらでしてよ」

「ふ、二人とも!」

「何でしょう」

「どうかなさいました?」

「こちら、安土桃山 千歌あづちももやま ちかさん。4回目の転校先で知り合った」

「……へぇ」

「こちら、黒糖 莢こくとう さやさん。2回目の転校先で知り合った」

「……ふぅん」


短刀と銃。互いに制服のどこかから獲物を持ち出し始めたので、慌てて静止。話を変える為にお互いを紹介する。それでも何やら険悪なムードだが、もうこれ以上は知ったこっちゃない。俺を間に挟まないのなら何でも良いよ。


「安土桃山、千歌さん?あなたそんな名前でしたっけ?」

「黒糖、莢さん。それ本名ですの?」

「二人とも煽り合うのやめてくれ!良い加減胃が痛いから!」


尚、現在進行形で帰りのHR中。あまりにも二人が俺から離れないから、なし崩し的に俺の席は仮として二人の間になったよ!ざけんな!

もう佐野先生もクラスのみんなも俺達については触れない方を吉としたのか、誰も俺達の方など見もせずに佐野先生の話に集中していた。


「時に文明さん。この後のご予定はいかがなさいましょう」

「予定?」

「ええ。折角こうして再会したのですから、食事でもどうでしょう。折角、今日はお昼で終わることですし」

「はぁ〜〜〜〜?何を勝手に決めていらっしゃいますの死ぬんですの?文明さんはこの後という予定がもう入っておりますの。部外者は一人惨めに事務所の隅で大人しくしていなさいな」

「……テメェ、程々にしとかねぇとマジでッチまうぞこの野郎」


スッ。


「あなたの方こそ、死にたいのでしたらもっと直接的に言って下さる?」


チャキ。


「ストップストーーーップ!スッ、チャキじゃねぇよ学園内で普通に傷害事件起こそうとすな!いや学園外でも駄目だけど!──兎に角、俺この後用事思い出したからどっちとも無理だわゴメン!また明日な!」


帰りのHRの途中だが、収拾がつけられそうにないので腕に絡み付く二人を強引に振り解き、一目散に教室から飛び出した。俺達の会話を聞いていたので、クラスメイトも佐野先生も何も言ってくることはなかった。

さらば、俺の華々しい学園生活よ。











「……おいテメェの所為で文明さんどっかいっちまっただろうがよ。どう落とし前つけるつもりだ?おォ?」

「その前にキレると口調がヤクザに癖をどうにかなさったら?昨日まではそちらが素でしょうに。あなたの媚び声、正直聞いてられませんわ」

「こんな口調の女、文明さんに嫌われちまうだろうが。つーかテメェもそんな貼って付けたような笑顔どっから取り出したんだよ。他人の口調に口出す前に自分テメェをどうにかしろやキモ過ぎんぞ。それで文明さんが逃げたんじゃねぇのか?」

「……ふふっ」

「……ふん」 

「──あなたの首を黒糖会までウー◯ーイーツでデリバリーして差し上げますわ!クーポンがあるのでしたら今のうちになさったらいかが!」

「──上等だゴラッ!テメェのタマ取って裏オークションメ◯カリに出品してやんよ!テメェみてぇなクソアマの命でも、あそこに入り浸ってる物好きの変態ならもしかしたら買ってくれっかもな!!」















お太りの身体に鞭打ち、走ること1分(短い)。振り返って二人が追ってきていないことを確認し、足を止める。結構全速力で走ったのに正門まで辿り着いていないのは、それだけ谷郷ヶ岳学園の敷地面積が広大だからなのだろうか。それともただ単に俺がクソデブで脚が遅過ぎるからなのか。前者だと信じたい。

それにしても、なんであの二人はあんなに俺に執着してるんだ?たかが数年一緒にいた友達だろ?喜ぶのは分かる。俺も再会できて何だかんだ嬉しかったし。ただ、クラスメイトや教師に迷惑かけるほどか?腕を絡めて離さないほどのことなのか?

なぁ〜んでああなっちまったんだろうな。

あっ。

もしかして、二人共お嬢様で友達が少ないからか?(失礼)。そしたら、これだけ俺に執着してしまうのも頷ける。だって友達少ないんだもんな。数少ない友達が何の因果か同じクラスに転入してきたのなら、確かにあの興奮度合いもまぁ理解出来る。なんだよそういうことだったのか。

てっきり惚れられてるのかと思ったぜ!(大バカ)

しかしまぁ、それでも他の人に迷惑をかけているのは確かだ。明日会ったら、そこのところしっかり注意してやらないとな。

そんなことを考えながら少し俯き気味に歩いていると、正面からきた何かにぶつかってしまう。ぶつかってきた何かは俺の腹の脂肪に一瞬沈み、すぐさま押し返された。like a トランポリン。


「だ、大丈夫ですか。すみません考え事をしてて」


尻餅をついて倒れた女生徒に、謝罪の言葉を述べながら慌てて手を差し伸べる。

ワカメみたいな毛先の髪型(もっと可愛い呼び名があるのだろうが俺は知らん)。

金色の瞳。

その瞳を隠すかのように、常時は決して開くことのないまぶた

女生徒は俺の手を掴まずに自力で立ち上がると、俺の顔をジッと見てきた。彼女の瞼は今開かれていないのに、その奥の瞳の色も、爛々としているのも手に取るように分かった。

何故かって?


「……潤ちゃん」

「……ふみふみ?」


そう、俺はまた再会したのだ。

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