星の乙女は未だ眠りから覚めない
朝凪 凜
第1話
これはある女の子の物語。
「おかあさんはどこ?」
告別式が終わり、火葬場へと向かう車中で訊ねる。
「……」
「おとうさんはどこ?」
返事が無かったからか、もう一度訊ねる。
「おかあさんもおとうさんもちょっと遠いところに行っちゃったの。お坊さんも言ってたでしょ。遠いところに行っても私たちを見守ってくれてるから大丈夫」
「うん……」
分かったような分からないような返事で、それ以降口を利かなかった。
両親は仕事で海外出張からの帰り、飛行機が墜落してそのまま亡くなった。100人弱の人が亡くなったそうで、ニュースでも一時期話題に上がった。
そして、一人残された女の子は親類に引き取られ、生活を再開した。
欲しいものがあるとすぐに買ってきてくれた。
しかし、家では殆ど会話もなく、一日顔を合わせることも少なくなかった。
ある秋の夜。
女の子は目が覚め、トイレに立ち、戻ってくると縁側で立ち止まった。
満月なのか、あたりは煌々と照らされている。
「寂しい。わたしは一緒におしゃべりして遊んでほしかったのに」
女の子はただ、ただそれが欲しいと思っただけなのに。
それは頼んでも手に入らない。
家で会話をしないと学校に行っても会話をすることがなくなり、いつも一人でいるようになっていた。
「誰か、居ない……?」
縁側で横になりながらそう呟くと一瞬眩い光が辺りに包まれる。
女の子は咄嗟に目を強く瞑り……そのまま暫くすると
「こんばんわ。どうしたの?」
ハッと目を開くとそこには15,6歳の少女が膝に手を当てて女の子を覗き込んでいた。
「おはなしがしたい」
女の子は母親そっくりだと直感的に思った。しかし見た目は全然違う。それでも女の子はそう思った。以前一人で遊んでいた時にアルバムを見たからか、確かじゃない記憶からその
「よし、じゃあお話ししようか。今日は何してたの?」
少女が女の子の隣に座り、訊ねる。
「今日は一人だった。昨日もそうだった。ずっとそう。寂しい……――」
それから暫く少女は話に耳を傾けていた。
一通り話し終えると、今度は少女の番とばかりに
「こんな言葉を知ってる? 『月の乙女は未来を拓く』
あなたはこの月夜でわたしとお話をしている。それはとってもすごいこと。
私は昔に一度だけ同じようにお話をしたことがあるの。それはね、あなたのお母さん」
突然の話に女の子はキョトンとしたまま聞いている。
「あなたのお母さんは未来を切り開く力があった。魔法とかそういうのじゃないの。自分の力で自分のしたいことをする。その道がまだけもの道ですら無い、未開の地だったとしても。
そんなお母さんもやっぱり子供の頃にこうやって夜中に寂しいって泣いていたことがあったの。その時にお話ししたのが私」
「うん」
何も分かっていないけれど、少女が一呼吸置いたところでつい頷く。
「だからね。そんなお母さんの子供なんだから胸を張っていいの。今は寂しいかもしれないけれど、こうしてお話をして、寂しいって口に出して人に聞いてもらって。そうして少しずつ大きくなっていくの。」
「大きくなれる?」
不安そうな女の子に少女は力強く頷く。
「なれる! 私も見てる。お母さんもちゃんと見てる。寂しくなったらまた呼んでいい! だから大丈夫!」
傍から見れば、何の根拠も無いのにと口を挟まれそうだが、生憎傍から口を出す人はいない。
「うん。寂しかったらまたおはなししよう……」
少女はにっこりと笑って、そして女の子は眠ってしまった。
「『星の乙女は奇跡を起こす』きっとすごい子になる。その時まで休んで」
翌朝、女の子が目を覚ますと
「???」
なぜ縁側で寝ていたのか思い出せない様子。しかし不思議といつもの空虚な感覚はない。そのことについて深く考えずに、布団に戻ってペンダントを手にまた眠る。そのペンダントは月の形をした女の子との母親の形見。
ペンダントが月夜の少女を引き合わせてくれたのか、その少女がなんなのかを知るのは何年も先のこと。
今は何も憶えていない女の子の記憶に微かに刻まれただけ。
星の乙女は未だ眠りから覚めない 朝凪 凜 @rin7n
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます