第1159話、わたくし、『ちょい悪令嬢フライングクロスチョップ』ですの⁉

 ──私の名前は、あかつきよみ




 我が国を宗教的に影から支配している、由緒正しき神祇の一族の末裔だ。




 もちろん私自身もこの世に生を受けたその瞬間において、将来の『ホワンロンの巫女姫』としての役目を期待された、本家直系のサラブレッドであった。


ホワンロン』とは、すべての平行世界を夢見ながら眠り続けていると言われる神様のことで、(常に眠っているので)当然のごとくコミュニケーションがとれないホワンロンの代わりに、夢の内容──特に『未来の世界の状況』を、『予言』として託宣するのが、我々『明石月の巫女姫』の固有能力にして最大の使命であり、だからこそ代々朝廷を始めとする時の権力者に仕えて、この国の『宗教的指導者』としてあり続けてこられたのだ。


 もちろん十数年前に本家で生を受けた女児にも、絶大なる『予知能力』が備わっており、一族の希望の星として、蝶や花よと手厚く育てられていた。




 ──しかし残念ながら、それは私自身では無く、双子の姉の『うた』のほうであったが。




 ……そうなのである、同じく明石月の本家に生まれながらも、巫女姫の素質は姉にだけに現れて、妹の私のほうはからっきしで、一族の者たちからは出来損ないの『無能』として、これまでずっと蔑まされてきたのであった。


 まあ実を言うと、堅苦しいことの苦手な『現代っ子』である私からすれば、古風な家系のしきたりだけでもうんざりなのに、『予言の巫女姫』として一族の『神輿』に担ぎ上げられるなんて御免被りたいところであり、むしろ『みそっかす扱い』にされて完全に放置されるのは、望むところであったのだ。


 そのように、すべてを姉に押しつけて、自分は何の責任を負わず、名家の富や権力だけは有効に活用しながら、のんきに暮らしていた私であったが、




『好事魔多し』とはこのことか、ついに『天罰』が下る時が来たのだ。




 ある時、ほんの悪戯心で、私と姉が入れ替わったことがあったのだが、一族の『至宝』として常に本家の屋敷に閉じ込められていて滅多なことでは外出できなかった姉が、私のフリをして意気揚々と両親と街中にショッピングに出かけたところ、


 何と交通事故に巻き込まれて、親子三人一緒に身罷ってしまったのだ。


 もちろん本家は大騒ぎとなったが、不幸中の幸いとして、一族の大黒柱にして将来の我が国の宗教的指導者である、『ホワンロンの巫女姫』が存命であったことは、唯一残された希望であった。


 ──ただしそれは、『偽物の希望』であったのだが。


 そうなのである、


 堪ったものでは無かったのは、他ならぬ私自身であった。


 本当に生き残ったのは、巫女姫の姉では無く、無能の妹のほうであったのだから。


 とはいえ、事の次第を、一族の者たちに明かすわけにはいかなかった。


 他ならぬ私たち姉妹自身が思いついたいたずらによって、巫女姫を死なせてしまったのである。


 そんなことを白状しようものなら、生き残った私が、どのような『責め苦』を受けてしまうことか。


 とち狂った年寄り連中から、その場で殺されてしまったって、文句は言えないだろう。


 それだけ『ホワンロンの巫女姫』と言うものは、一族はおろか我が国そのものにとっても、重要なる存在だったのだ。


 これはもう私としては、このまま謡のフリをして生きていくしか無いだろう。


 幸い二人の外見は一卵性双生児だけあって、そっくりそのままであり、見分けることができるのは、私たち姉妹自身か、今回同時に亡くなった両親くらいなものであろう。


 ──ただし、最大のネックとしては言うまでも無く、私には予知能力がまったく無いことであった。


 もちろん、国家的宗教指導者である『ホワンロンの巫女姫』が、軽々しく予知能力を使うことなぞ無く、国の上層部から直々の依頼があった時のみ、その力を発揮することになっており、今のところ事無きを得ていた。


 ただしいつかは化けの皮がはげる時が来るのは必定で、今のうちに何らかの対策を講じる必要が有った。




 ──ところで、ほとんど本家に引きこもり状態であった謡が、どのようにして外界の情報を得ていたかと言うと、それは何を隠そう、私自身のアシストによるものであったのだ。




 何せ予知能力を行うには、世間の一般常識を知っている必要が有り、本人を守るためとはいえ屋敷の中に閉じ込めてばかりいてはまずいので、各界の専門家に家庭教師をさせるとともに、最も親しい関係にある双子の妹の私が、同年代の女の子が知っているべき常識を、直々に伝授していたのであった。


 それなのに、今回まさにその肝心の双子の妹どころか両親まで一気に亡くしてしまったために、本家の巫女姫に対する教育方針が大転換することになり、何と巫女姫に街中──具体的には東京都千代田区神田において、一人暮らしをさせることになったのであった!(※なぜか突然なる異常なまでに強引な展開)


 ……もちろん、それなりの『護衛』を、巫女姫本人には悟られないように、密かに配置してのことであったが。


 どうして、『神田』かと言うと、


 最新の知識や情報であれば、ネット上でも取得可能であるが、


 伝統ある巫女姫に必要な特殊な知識となると、その情報源は非常に希なる『稀覯本』等に限られるので、我が国きっての古書のメッカである、神田の街に白羽の矢が立ったのである。




 ──はい、もう皆さんおわかりですね、これから私、召喚の儀式を行います☆




 そうです! これまでグダグダとあれこれ書き連ねてきましたが、今回の『タイトル』をご覧になれば容易に予想がつくように、ネタ的には『アレ』なのです!




 何でいきなり純和風の巫女姫が、まるで『なろう系のWeb小説』そのままに、『召喚の儀式』なんぞを行うのかと申せば、それはひとえに実は私はモノホンの巫女姫なんかでは無く、むしろマジモンの『無能』だからであった。


 そのうち国のお偉いさんが未来予知の依頼をしてくるのは、火を見るより明らかであり、もちろんそれを断ることなぞできず、己の無能っぷりをみんなの前で晒すことになり、ついには本物の『ホワンロンの巫女姫』がすでに亡き者であることが判明し、今度こそ明石月家と私自身の大ピンチとなってしまうことであろう。


 ──しかし、捨てる神あれば拾う神あり。


 結局は、神田を選んで正解であった。


 何とふと立ち寄った何とも趣のある古本屋にて、『召喚術』の魔導書を手に入れたのでした!


 ……うん、ここまでは確かに『某オリジナル作品』通りの展開だけど、『なろう系』には召喚術は付き物なんだから、ギリギリセーフであろう。


 どうして『予知能力』の魔導書では無く、『召喚術』かと申せば、私自身は基本的には無能だから、いくら魔導書を手に入れて書かれている通りにやっても、未来予知なぞできっこないのだ。


 それなら『召喚術』も同じかと言えば、さに非ず。


『召喚術』なんかだと、術の効力そのものが魔導書に込められており、その『解除』の術式を行うことで、私自身に何ら力が無くても、自動的に召喚術を発動してくれるのだ。


 類似しているケースでは、魔導書自体に悪魔を閉じ込めていたり、一度だけ使える破壊力抜群の攻撃魔法が封印されていたりすると言えば、おわかりになるだろうか。


 それで、『何』を召喚するつもりかと言うと、もちろん『未来予知を使える超常の存在』に決まっていた。


 つまり、自分の代わりに『未来予知』を行わせて、それを自分の手柄にすると言うわけだ。


 まさしく、深謀遠慮そのもののグッドアイディアであり、


 私は意気揚々と、召喚術を実行したわけだが、


 そこに現れたのは、何と、




「──あなたがわたくしこと、魔法王国ホワンロンの宗教的指導者にして筆頭公爵家令嬢たる、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナを召喚した、『身の程知らず』ですの?」




 いきなり私に向かって毒舌を発揮した、


 いかにも高慢ちきで気の強そうな、年端もいかない美少女でありながら、


『なろう系』にふさわしい、『異世界人』であり、


 希代の『悪役令嬢』でもあると言う、




 別の世界パラレルワールドの『私自身』であったのだ。







(※次回に続きます)

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