第1079話、わたくし、『オキナワの少年』は何よりも『自由』であるべきだと思いますの!

「──一体どういうことなんだ、これは⁉」




『新生海軍最高会議室』にて響き渡る、次期海軍総司令候補にして、現海上自衛隊幕僚長の絶叫。


 それも無理は無かった。




 まさに『沖縄本土復帰50周年』記念の本日、突然侵攻してきた『大陸人民解放軍』を、極秘の実験兵器である『軍艦擬人化少女』によって撃退したかと思ったら、彼女たちの別働隊が侵略軍の本国の諸都市のみならず、日本の同盟国のアメリゴ合衆国の最前線基地のある、グァム・バルーン諸島までも焼け野原にしてしまったのだから。




 そして、その惨状をリアルタイムに映し出している、巨大なモニターには、更に──


「それに、『アレ』は何なのだ⁉


 ……どうして、どうして、




擬人化少女』が、『翼』なんかを生やして、空を飛んでいるのだ⁉」




 そうなのである。


 もはや瓦礫の山と化した、アメリゴ軍グァム・バルーン基地の上空には、あたかも天使そのままの神秘的な美貌を誇る幼い少女が、その矮躯にまとう水兵服の背中から純白の大きな翼を生やして、悠然と滞空していたのだ。




 ──あたかも、今にでも『世界終焉のラッパ』でも吹き始めそうな冷徹なる表情をして、劫火の燃え盛る地上を睥睨しながら。




「何で、日本の同盟国のアメリゴ合衆国の、それも沖縄から遠く離れたグァム・バルーン基地が、攻撃されているんだ⁉」


「軍艦擬人化少女の開発技術は、我々日本の国益のために与えてくれたんじゃ無かったのか⁉」


「──おいッ、『聖レーン転生教団』の責任者、説明しろ!」


 この場に雁首を並べている海上自衛隊の最高首脳のお歴々の視線が、一人の黒衣の聖衣をまとった青年のほうへと集中した。


 しかしその銀髪に青灰色ブルーグレイの瞳の美丈夫は、少しも動ずること無く、涼やかな表情のままで、


 とんでもないことを、言ってのける。




「──あ、すみません、実は今回の『実験』は、あなた方『日本国新生海軍』の旗揚げのためでは無く、別に目的が有ったのですよ」




「「「は?」」」




「お陰様で、『タイヴァーン島』の独立が守られたばかりか、旧エゲレス領の『香の港』まで開放でき、侵略側の中つ国の『北の京』や『上の海』等の主要都市を徹底的に焦土化することで、国力を大いに削ぐことを成し遂げるとともに、アメリゴ軍すらも沖縄本島から強制的に撤退させるどころか、最前進基地であるグァム・バルーン諸島すらも撃滅することができるなんて、いやあ、予想以上の大戦果でしたわ♫」




「──なっ⁉」


「貴様、まさか⁉」


「我々日本国海上自衛隊を、実験のダシに使ったとでも言うつもりか⁉」


「だったら、『真の目的』は、何なんだ⁉」


「わざわざ軍艦擬人化少女まで使って、中つ国のみならず、アメリゴ合衆国にまで喧嘩を売って、一体何がしたいのだ⁉」




「決まっております、すべては沖縄の『自由』を守るため、ですよ」




「「「…………へ?」」」




「沖縄の自由、って……」


「何だ、そりゃ?」


「どうして、中つ国やアメリゴを攻撃することが、沖縄の自由を守ることになるんだ?」




「そりゃあ当然でしょう、何せ沖縄の人々の最大の悲願は、沖縄からすべての米軍基地を撤廃することですしね。しかしそのためには、現在迫りつつある脅威──特に、中つ国による侵攻の可能性をすべて、未然に取り除いておく必要が有りましたので、首都『北の京』を始めとする主要都市を徹底的に破壊すると同時に、大陸経済の要である『香の港』を独立させたといった次第であります」




「──いやいや、そもそも異世界の宗教団体である君たち『聖レーン転生教団』が、どうしてそこまで沖縄の肩入れをするのかね⁉」




「実は現在、『大和』嬢を始めとする軍艦擬人化少女たちの『真の提督マスター』であられる、沖縄在住の少年イク氏には、彼の『勇者』としての異世界転生時代に、我が教団は大変お世話になっておりまして、今回はそのご恩返しを行ったまででして」




「勇者として、異世界に転生していただと⁉」


「そんな少年が、沖縄にいたのかね⁉」


「その彼が、『自由』を望んだと言うのか?」


「何でたかが『自由』なんかのために、わざわざ軍艦擬人化少女まで使って、中つ国やアメリゴなぞといった、超大国に喧嘩を売ったのだ⁉」




「おやおや、むしろ日本人として誇るべきなのでは? この国のように『少年や少女が自由である』ことこそ、この世で最も理想的で素晴らしいとは思いませんか?」




「「「──‼」」」




「ええ、ええ、承知しておりますとも。世界で唯一、日本の方だけが気がついていないのですよねえ。──なぜなら、日本こそそれを、すでに実現しているのだから。少年や少女が何よりも『自由』に暮らしていけるという、『真の理想郷』を!」




「……我が国が、真の理想郷だと?」


「しかも、ごく普通の少年少女が、真に『自由』を享受できているだって?」


「──待て待て待て待て、だったらどうして、今回『軍艦擬人化少女の実戦投入実験』なぞを行って、中つ国やアメリゴの軍隊のみならず、東京と沖縄の『本土復帰50周年記念式典会場』を瓦礫の山に変えたのだ⁉」




「そりゃあ、『オキナワの少年』の代表格である麻郁君としては、もはや我慢ならなかったからですよ、せっかくの50周年のおめでたい席だと言うのに、最も理想的な国家である日本に復帰して、真に『自由』を満喫できるようになったと言うのに、それに対して喜ぶことも感謝することも無く、口を開けば馬鹿の一つ覚えみたいに、『米軍基地ガー』とか『本土との格差ガー』とか、ばかり。──ふざけるな! 僕たち若者は、いつまでも戦争とか米軍基地とかの、『被害者』なんかじゃ無い! 沖縄県人でも琉球王国民でも無く、あくまでも『日本人』として、その世界最高レベルの『豊かさ』と、何よりも『自由さ』を享受して、自分自身の未来を自分の力で切り開いているんだ! どこかの『被害者ビジネス半島国家』でもあるまいし、いつまでも恥ずかしい真似はせずに、おまえら年寄りどもも、少しは前向きに生きろ! それがどうしてもできないと言うのなら、もう口を開くな! 僕たち前途ある若者に、ネガティブな精神を植えつけようとするな! 僕たちは『日本人』だ! 何よりも『自由』なんだ! 僕たちの『自由意識』を、てめえらの『ネガティブ被害者根性』で穢すのは、今回の50周年の節目で終わりにしろ!──と言いたいところを、どうせ『被害者根性至上主義者』どもは聞く耳持たないと思いますので、『実力行使』でわからせてあげた次第でありますw」




「「「──この作品の作者は、怖いもの知らずにもほどがあるだろう⁉ この瞬間、沖縄の一定年代以上の人たちを、すべて敵に回してしまったぞ!!!」」」




「別にいいんですよ、時代錯誤の『被害者気取り』どもなんて。ここは日本なのですよ? 世界のどこよりも『自由』が保証されているのですよ? そんなに沖縄が嫌なら、『移動の自由』に基づいて、他の都道府県に引っ越せばいいし、今の境遇や職業が気に入らないのなら、『職業選択の自由』に基づいて、別の仕事を始めればいいし、どうしても沖縄を離れられない事情が有るのなら、パソコン等を使ってインターネットを介して、世界中を相手にビジネスでもアート活動でもすればいいし、沖縄とか米軍基地とかには関係無く、自分の未来は自分の力で切り開けばいいだけではありませんか? ──おそらく、すでに『オキナワの少年』たちは行動を起こしておりますよ。何せ本土復帰以後に生まれた彼らは、最初から『自由』なのですからね。──それなのに、いつまでも『被害者気分』の老いぼれどもの心ない言動によって、未来有る若者たちの精神を汚染して、やる気を無くして、『被害者沖縄県民という名の牢獄』に捕らえ続けようとするなんて、断じて許すわけにはいかないのです!」

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