第1077話、【完全新作】わたくし、異世界『最恐』の存在は『巡査』殿だと思いますの⁉

 ──最初俺は、いかにもとんでもない『外れスキル』を、掴まされたものだと思っていた。




 まるで昔の日本軍そのままの、制服と湾刀サーベル旧式の小型拳銃オールド・ナンブのみを与えられて、いきなり「おまえは『巡査』として、異世界に行くのだ」と言われたのだ。




 ……ホントなに言っているの、このクソ女神様は?




 よりによって、『巡査』って。


 警察組織において、最も下位の階級じゃ無いか?


 ……いやせめて、警察では無くて、『軍隊』にしろよ?


 最低でも一個大隊くらい用意して、もちろん俺には大隊長──すなわち、『少佐』の地位を与えて、吸血鬼とか航空魔導士とかからなる無敵の軍団を指揮させたりして。


 なんか『なろう系』においても一時期、『ドイツ軍召喚』とかが流行っていたからな。


 ──あ、いけね。これってむしろ『負けフラグ』だったっけ?


 まあそれでも、警察──それも、最下位の巡査よりはマシだろう。


 そもそもドラゴンなんかの巨大なモンスターがゴロゴロしている、剣と魔法のファンタジーワールドにおいて、拳銃一丁でどうせえっちゅうんじゃ。


「……やはり、『アハトアハト』くらいは必要なんじゃないか?」と、駄女神を問い詰めたところ、とんでもない『たわ言』が返ってきた。




「私はあくまでも、のだから、軍隊では駄目だ」、と。




 ……は?


 警察を、創設?


 それも、剣と魔法のファンタジーワールドである、異世界に?


 それは一体、何の冗談なんだ?


 異世界と言えば基本的に、警察どころか、権力者による独善的かつ専制的な『人民抑圧法規』以外には、文明的かつ近代的な法律そのものが存在しない、文字通りの『無法地帯』なのではないか。


 そんなところに、たった一人『巡査』ごときを投入したくらいで、何になると言うのだ。


 それとも、どのような強大なモンスターをも黙らせることのできる、とんでもない『チートスキル』でも与えてくれるわけなのか?


 そんな俺の至極当然なる疑問に対して、その女神は事もなげに言った。


「大丈夫です、『巡査』であること自体が、チートスキルですから」


 ……は?


 ホントあんた、何言ってくれちゃっているの?


 下手したら、現代日本のデンジャラスゾーンにおいても、巡査一人では命が保証されないって言うのに、剣と魔法の異世界で、巡査であることそのものがチートって?


 それって、体のいい『人身御供』だったりするんじゃないの?


 もしかして、これからどんどんと現代日本からの転生者を『巡査』として異世界に送り込んで、人海戦術で多数の犠牲を出しながらドラゴン退治でもやらせるとか?


 ──ああ、もういい!


 こんな馬鹿げた要求なんて、呑めるものか!


 異世界に転生したら、すぐさま向こうの『無法者』勢力にくみして、『巡査』とか言った馬鹿げたスキルだかジョブだかを、放り捨ててやる!


 一応希少な転生者なんだから、手下として誠心誠意仕えると誓えば、無下にはしないだろう。


 とにかく、どんな惨めな地位に甘んじろうが、精一杯生き抜いてやる!




 少なくとも、『巡査』なんて言う、異世界においては何の意味も無い、『警察ゴッコ』なんて、まっぴらだぜ!







 ──などと、そんなふうに思っていた時期が、俺にも有りました!







「──巡査様、申し訳ございません! 罪はすべて認めますし、この娘たちは全員解放いたしやすから、どうかこの場で銃殺なされることだけは、おやめください!」




 目の前で額を地面にこすりつけるようにして平伏している、リザードマンの巨体。


 何とそれは、俺に対してのものだったのだ。


「……あ、いや、俺はあんたや、その幼い獣人族の女の子たちが珍しかったものだから、つい見つめていただけで、あんたたちの関係が何なのか、全然知らなかったんだけど」


「それにしても、さすがは巡査様! 一目であっしのことを、『奴隷商』だと見抜くとは!」


 ──人の話を聞け!


「あれ? こういった多種多様な種族が混在しているファンタジーワールドでは、奴隷制度が公然と存在していてもおかしくは無いのでは?」


「それはそうなんですが、あっしは奴隷を親元から『誘拐』することによって仕入れている、不認可の違法業者でして」


 奴隷商人に、違法も適法も有るのかよ⁉


 いやまあ確かに、子供を人買いに売るのは、食うに困った親兄弟の類いと相場が決まっているから、誘拐ともなると、それ自体が犯罪行為であるのは、間違いないよな。


 ……親が子供を売るのも、『違法性』はともかくとして、『道徳的』にはどうかと思うが。


「え、ええと、確かに誘拐は悪いことだけど、どうして俺が『巡査』であることがわかったわけ?」


「ほんの先日、この世界を統べる女神様がお知らせくださったのでさあ。──『このたび異世界の現代日本から、この世界のすべての犯罪を取り締まる権限を持つ『巡査』なる者が転生してくるから、すべての種族は従うこと』、と」


 ……あのクソ女神、そんなことを言いふらしていやがったのかよ⁉


 しかもよりによって、こんな無法地帯のファンタジーワールドの、すべての犯罪を取り締まるだと?


 それ何て『無理ゲー』なんだよ⁉


「いやだからさあ、どうしてあんたらのような屈強なるリザードマンが四人もいて、魔法の類いはもちろん格闘術もろくに使えない俺なんかに、そんなに無条件に畏まるわけなの?」


「──何をおっしゃいます! それ程までの『神器』をお持ちのくせに!」


「神器、って?」


「そのお腰に下げておられます、『拳銃』のことですよ!」


「こんなちっぽけな拳銃が、どうしたって言うんだよ?」


 下手すると、あんたのそのいかにも分厚そうな鱗を貫通できるかどうかも、怪しいものだぜ?




「──おとぼけなさいますな! それこそはまさしく、あなた様同様にゲンダイニッポンからお越しになった勇者様が、見事にドラゴンを討ち果たされた、『銃火器』と呼ばれる超兵器でしょうが⁉」




 なっ⁉




 俺以外に日本から転生して来たやつがいて、この世界では『超兵器』である何らかの銃火器で、巨大かつ強大なるドラゴンを退治しただと⁉




 ……いや、ツッコミどころが多過ぎて、処理できないんですけど?




「うう〜ん、銃火器と言っても、いろんな種類が有るからなあ。少なくとも俺が持っている拳銃じゃ、ドラゴンどころか、その辺の大型モンスターを倒す威力も無いと思うぞ?」




 そのようにつぶやきながら、物は試しと空に向かって、一発撃ってみたところ、




『──GYAOOOOOOOOOOOOOONNNNN!!!』




 あたかもどこかの『似非フェミニスト』であるかのような絶叫が響き渡ったかと思えば、上空より巨大な物体が落下してきたのであった。




「……はあ? これってもしかして、『ワイバーン』とか言うやつか?」




 そうその時、盛大な衝突音と激しい地響きを轟かせながら地面に墜落したのは、ドラゴンの一種にして大空の支配者たる、ワイバーンの巨体であったのだ。




「──うわああああああ、巡査様はお怒りのご様子だぞ⁉」


「みんな、逃げるんだ!」


「問答無用で銃殺されてしまうぞ!」




 そのように口々に叫びながら、奴隷商どころか奴隷の少女たちを含む、別に何ら罪を犯したとも思えない老若男女のすべてが、このあたりから一斉に逃げ出してしまったのであった。




 ……どうして、こうなった。




 一体全体、異世界における『巡査』って、何者なんだ⁉







(※次回【解説編】に続きます)

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