第1007話、わたくし、ロシア軍最終兵器『ヴェールヌイ』ですの⁉(前編)

 ──旧ソビエト連邦、欧州ヨーロッパロシア大陸、現ウクライナ第二の都市『ハリコフ』。


 突然のロシア連邦の侵攻で始まった『ウクライナ戦役』は、まさに今ここにきて、大転換期を迎えていた。


 ウクライナの『義勇兵募集』に応じて、欧州全土や北米諸国から集まってきた、優に一万五千名にものぼる義勇兵たち。




 実は彼らこそは、『NATO加盟国の正規兵』が、組織的に動員されていたのだ。




「──よし、これでハリコフ市街地の要衝はほとんど全部、我々義勇軍部隊が奪還したぞ!」


「実はNATO軍の正規部隊の武器弾薬が潤沢に供給されているゆえに、彼我の兵器の性能の差は、歴然としているしな」


「しかも予想通り、ロシア兵のほうは、いまいち士気が高まらないようだ」


「そりゃあ、こんな一方的な『侵略戦争』に駆り出されて、世界中から『悪者扱い』されたんじゃ、やってられないよ」


「しかもほとんどの兵士が、『これはあくまでも演習だからね★』と騙されて、動員されているんだからな」


「そもそも俺たち『プロの戦争屋』が投入される以前に、ウクライナ兵の頑強な抵抗に遭って、ほとんど戦果を挙げられなかったという体たらくだし」


「いっそ敗戦しても構わないから、早く戦争を終わらせて故郷に帰りたいってのが、偽らざる本音だろう」


「……あ〜あ、かつての超軍事大国ソビエトは、影も形も無くなってしまったんだなあ」


「それに比べて、俄然我々西側は、上層部からしてやる気になっているよな」


「結局ロシアなんて『前座』に過ぎず、本命は東アジアの『某大陸国家』だからな」


「政治体制が似ているので当然のようにして、軍隊の命令系統や部隊構成、そして何よりも使っているロシア製を中心とした兵器や、『人海戦術』を十八番とした戦い方が、ほとんどご同様なので、いい『予行演習』になるしね」


「そのため、NATO軍のほうも、『実験兵器』は言うまでも無く、まさしく俺たちのような『超特殊実験部隊』も、密かに投入されていたりして」


「特に追いつめられたロシア側が何をしでかすかわからない現状においては、『核戦争を前提とした実験部隊』さえも、いたりしてな」


「……おいおい、アメリカさんよお? あんたたちこそがまさにその、『終末戦争対応特殊実験部隊』じゃ無いだろうな?」


「いやいや、貴君らトルコ軍ご自慢のドローン部隊こそ、深刻な核汚染によって人間の兵士が行動不能となった場合に備えての、『新型自律兵器実験部隊』では無いのかね?」


「──まあ、確かに俺たち義勇兵は、名目上は『正規軍』では無いってことになっているから、『何でもアリ』だよなw」


「『実験相手』にされているロシア軍は自業自得だとしても、『実験場』にされてしまったウクライナの人たちには、いい迷惑だろうな」


「しかし我々としては、このような『実戦の舞台』は貴重だしね」




「──何せ、本来『実戦』なぞあり得ないはずの、日本国の国防隊が、これ幸いと『義勇兵』として、実験部隊を送り込んできているくらいだからな」




「……へえ?」


「やっぱり、そうなの?」


「あっちの隅っこに、たむろしている」


「屈強なる、アジア系男性たちに囲まれた」


「いかにもか弱き、水兵セーラー服を着た、幼い『少女』たちこそが」




「「「日本国が秘密裏に開発に成功したと言う、人と兵器との融合体ハイブリッド、最終殲滅装置『デストロイヤー・ガールズ』か⁉」」」




「……いや、あんた」


「最終殲滅装置、って」


「どこの三流SF小説のタイトルだよ」


「そもそも、もはや一方的な戦況になっている現段階で」


「そんなご大層な『秘密兵器』を投入する必要なんて、ありゃしないだろう?」


「それに、あんなちびっこくて愛らしい女の子たちが、新生日本シン・ニッポン国防軍海軍省の『秘密兵器』だなんて、一体何の冗談なんだ?」


「おいおい、ジャパニーズアニメのヒロインでもあるまいし」


「自衛隊時代から、日本の軍隊には『オタク』が多いというのは、本当だったのか?」


「こんな戦争は俺たちオジサンに任せて、お嬢ちゃんたちはさっさとお国に帰りなよ」


「ああ、それがいいぜ」


「「「あはははははははははははは!!!」」」




「──そういうわけにはいかないの、ここには私たちの『姉妹』を、迎えに来たのだから」




 その時突然凜と鳴り響く、あまりにもこの場にそぐわない幼い声音。


 思わず振り返れば、くだんの東洋人の少女たちが、NATO軍派遣の義勇兵たちの、すぐ側に立っていた。


「……こ、こいつら」


「音も立てずに、いつの間にこんな間近まで⁉」


「俺たちのような歴戦の兵士が、気配すらも感じられなかっただと⁉」




「──ああ、ごめんなさい。陸上では『スクリュー』を回す必要が無いから、完全に『静音モード』で行動できるの」


「しかも、この『非戦闘状態』では、総重量も軽微だしね」


「別に私たちのことに気づかなかったからって、自信を失う必要は無いわよ」




「……スクリュー?」


「それに、非戦闘状態だと?」


「一体何を言っているんだ?」


「しかも、『姉妹』を迎えに来たって」


「この戦場のど真ん中で、何をわけのわからないことばかり言っているんだよ⁉」




「「「──あ、ほら、おいでなすったわよ?」」」




「「「え?」」」




 まさにその瞬間、


 辺り一面は、まばゆい閃光と耳をつんざく爆音とに、包み込まれた。


 そして、奇跡的に命拾いした兵士が、ようやく視覚と聴覚を取り戻せば、


 ご自慢の最新兵器の残骸と、


 友軍の兵士たちの無数の肉片が、


 瓦礫の山のあちこちに、散らばっていたのである。




「……何だ、一体何が起こった⁉」


「敵の中長距離ミサイルの、一斉飽和攻撃か⁉」


「しかし、我が軍の警戒網にひっからずに、ミサイルを撃ち込むことなんてできるのか⁉」




「ミサイルなんかじゃ無いわ、大砲の砲弾よ。──しかも陸軍用では無く、やろうと思えば重量無制限で搭載できる軍艦用のやつを、至近距離で食らったわけ」




「「「…………はあ?」」」




 思わず石塊いしくれまみれの顔を上げれば、何と少女たちが先ほどと寸々違わぬ場所で、かすり傷一つ負わずにたたずんでいたのだ。


 その異様なる姿と更なる不可解なる言葉に、今や完全に面食らってしまう、生き残りの兵士たち。


「……この市街地のど真ん中で、軍艦の主砲による攻撃だと?」


「まさか敵さんは、『列車砲』でも持ち出してきたのか?」


「第二次大戦中の、ドイツ軍かよ⁉」


「──いいから、あなたたちは、そこで大人しく伏せていて」


「『彼女』のことは、私たちがどうにかするから」


「何せそのためにこそ、この地に来たのですからね」


「「「か、『彼女』、って…………」」」


 その疑問の言葉に対してゆっくりと、今や瓦礫と化した中央公園のほうを指さす、三人の少女。




 そこにはいつの間にか、一つの巨大な『白い塊』が存在していた。




 ちょっとした小山ほどもある、その鱗や触手だらけの醜悪なる身体のあちこちから突き出ている、数十本もの巨大な砲門と機関砲の銃身。


 あたかも『クトゥルフの怪物』を彷彿とさせるように、至る所にぽっかりと開いている、鋭い牙の生えた口唇。


 そしてその巨体の頂上から生え出ている、これまた真っ白な幼い少女の裸身。


『『『具きゅケケケ気ケケケケケケ──!!!』』』


 不気味なうなり声を上げる、無数の大口とは裏腹に、


 唯一深紅に彩られた鮮血の涙を流し続ける、端整なる小顔の中の蕾のような小ぶりな唇だけは、か細いささやき声をこぼし落とすのみであった。




『……シテ、コロシテ』




 それこそは、ロシアの究極の『秘密兵器』──俗称、『信頼の魔女ヴェールヌイ』であったのだ。

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