第954話、わたくし、吸血鬼がいるのなら、極超音速ジェット機の操縦士として活用すべきと思いますの⁉
「──失礼いたします! クルピンスキー大尉、参りました!」
「ご苦労! 早速君には、異世界の『ゲンダイニッポン』に再転生して、自衛隊内に新設された『宇宙作戦隊』に入隊してもらう!」
………………………は?
──魔導大陸極東地区臨海部に設けられた、特設空軍ジェット戦闘機遊撃部隊、『JV44』の司令室にて。
突然、我らが
目を白黒させるばかりの私のほうを、いかにも面白そうに見つめている、豊満な肉体を誇る絶世の美人将官殿。
「──いやいやいや、一体何の冗談ですか⁉ いきなり異世界転生をしろと言うのもアレだけど、ジェット戦闘機乗りであるこの私に、ゲンダイニッポンの『宇宙作戦隊』に入隊しろなんて⁉ ………………ていうか、そもそもどうして、私なんです?」
「そりゃあ君が、我が中隊において唯一の、正真正銘本物の『吸血鬼』だからだよ」
──ッ。
「……どうして、それを」
前世から散々同じ釜の飯を食ってきた、同じ部隊の上官と部下とはいえ、我が一族が古くより欧州に巣くう『魔性の末裔』であることは、けして気がつかれないようにしてきたはずなのに。
「……いや、『一部の界隈』においては、『クルピンスキー』と言えば吸血鬼であることが、定説じゃ無いか?」
──はあ⁉
「いや、そんなこと初耳なんですが、一体『一部の界隈』って、どの界隈なのですか⁉」
「……貴君は、かの縞○理理先生の『モンスターズ・イン・パラ○イス』を、読んだことがないのか?」
そんなマニアックな少女小説を読んでいることを、さも一般的な嗜みであるかのように言われても……。
「しかし、私が吸血鬼だと知っていて、どうして気味悪がったり怖がったりしなかったのですか? たとえ同じドイツ軍人とはいえ、我ら『血の一族』の卓越した身体能力だったら、本気を出せば一夜にして部隊を全滅させることさえもできるし、そもそも常に血を吸われる危険性に見舞われていたと言うのに」
もちろん私には『戦友』を害するつもりなぞ、前世の第二次世界大戦時から有ろうはずも無く、そもそも吸血鬼といえども、絶対に『人血』を摂取する必要なんて無いんだけどね。
そんな私の躊躇いがちな問いかけに対して、最初はきょとんとした表情をしていた美人中将殿であったが、すぐに呵々大笑しながらこう言った。
「──あはははは、そもそも我々は、どこぞの『最後の大隊な吸血鬼軍団』のモデルともなったドイツ軍きっての精鋭部隊であり、しかも現在はこの剣と魔法のファンタジー異世界にTS転生しておるのだぞ? その上更に、部隊員の一人に『吸血鬼属性』の一つや二つ増えたところで、動揺したりするものか」
……ごもっともです。
「──して、結局のところどうして吸血鬼である私を、ゲンダイニッポンの『宇宙作戦隊』なぞに、派遣なされるのですか?」
「実はいよいよ日本国においても、『月面有人探査』に乗り出すことになったのだよ」
「ほう、そいつはめでたいですね」
──と言うと、すぐに「アメリカからは、50年以上遅れているがなw」とか、どこかの『半分成功ロケット団』関係の工作員あたりが茶々を入れてきそうだけど、実は我がドイツ並びに同盟国の大日本帝国は、すでに80年近く前の第二次世界大戦時において、『有人ロケット飛行』を体験しているのだ。
ドイツにおいては言うまでも無く、人類史上初の有人ロケット兵器『Me163コメート』によって、大日本帝国においてはその
……ただし、コメートのほうは実戦に投入され、少ないながらも『戦果』をあげたものの、秋水のほうは一回の試験飛行も満足にできず、結局虎の子の機体を大破させてしまい、そのまま終戦を迎えることになったが。
つまり、今回の『月面有人探査』への挑戦は、日本国にとっては、数十年ぶりの『リベンジ』でもあったのだ。
「……というかまさか中将、吸血鬼である私を『月面有人探査』に役立てようとしているのは、某『月とラ○カと吸血鬼』にあやかるつもりだったりするんじゃ無いでしょうね?」
「──ギクッ⁉」
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
『──こちら、
『──こちら本部、そのまま高度を保ち、周回飛行に移行されたし!』
『──了解、ミサイルの発射を待つ………………ッ、な、何だ、あれは⁉』
『──こちら本部、観測機、どうした?』
『──日本国領海のほうから、三角翼型の飛翔体が、高速接近!』
『──何だ、航空自衛隊のジェット邀撃機による、スクランブルか?』
『──いや、これまで見たことも無い機影であり、尾部の超高温の熱反応からして、新開発のロケット推進機のようだ!』
『──ロケット推進の小型飛行体だと⁉ そんなもの、ものの数分しか航続能力が無いはずだろうが⁉』
『──まさにたった今、熱反応の計測結果により、ロケットエンジンの停止を確認……………………なっ⁉ これは一体、どうしたことだ⁉』
『──観測機、今度は何が起こった⁉』
『エンジンは停止したはずなのに、飛行続行! しかも、どんどん速度を上げている!』
『──そんな馬鹿な⁉ ロケットエンジンが、そんなに長時間保つわけが』
『──今し方、公海上を通過、このままでは我が国の領空に侵入せり!』
『──まさか、我がほうのミサイル発射を察知し、ついに「敵基地攻撃」を実行するつもりか⁉』
『──観測機、これより戦闘モードに入り、未確認機を追尾!』
『──了解! 我が領空への侵入と同時に、撃墜を許可する!』
『──そ、そんな、まさか⁉』
『──どうした、観測機⁉』
『──現在速度マッハ2を超過したというのに、どんどんと引き離されていく!』
『──何だと、一体未確認機のほうは、どれだけ速度が出ているのだ⁉』
『──現在アフターバーナーを効かせて、瞬間的にマッハ3を計測したが、全然追いつけない! これ以上はエンジンが焼き付くので、減速する!』
『……仕方ない、こちらも実験ミサイルを緊急発射した後に、基地の防衛体制に入る!』
『──それではこちらも最初の任務通りに、観測行動へと再移行する!』
『──ではただ今より、試製極超音速巡航ミサイル「仮性砲K恥号」を発射する!』
『──了解!』
『──ミサイルの速度軌道共に順調! あと3秒ほどで、そちらの空域を通過……』
『──ああ⁉』
『──どうした、観測機⁉』
『──たった今上空より、先ほど見失った未確認機が急降下してきて、実験ミサイルの後方に位置するや、そのまま一定の距離を保ちながら空対空ミサイルを発射して、巡航ミサイルを空中で撃破!』
『──そんな馬鹿な! 極超音速巡航ミサイルは、マッハ5以上出していたんだぞ⁉ それを追尾しながら撃墜しただと⁉ たとえその未確認機にマッハ5が出せたところで、人間の操縦士が堪えきれるはずが無く、撃墜行動などできるわけが無いだろうが⁉』
『──しかし、観測機バイロットとしては、自分の目と搭乗機の電子機器でしっかりと確認した情報を、信じるほかは無いのだが……』
『──最初ロケットエンジンで飛んでいると思ったら、エンジンを切った後のほうがどんどんとスピードを増していき、マッハ5以上の極超音速において、手動かコンピュータによるものかは不明だが、敵機を確実に撃墜できる未確認兵器だと⁉ 日本国の自衛隊は、そんなモンスターマシンを開発していたのか⁉』
『……いや、違う』
『──違うって、何がだ?』
『──機体後方の尾翼に当たる垂直方向のデルタ翼には、日本国を表す「
『──ッ』
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
「……しかし、我が中隊長にして中将閣下は、うまいこと考えるものだな」
こちらの世界へとおよそ20年ぶりに再転生して、与えられた任務を無事終了した後、かの高名なる計画機『リピッシュP13a』そっくりのデルタ翼機のコクピットにて、私ことヴァルター=クルピンスキー大尉は、そのように独り言ちた。
飛行機自体が高速に飛ぶことによって、エンジンに高圧縮エネルギーを与えて、更にどんどんとスピードを稼ぐことのできる『ラムジェット機』に対して、最初の離陸から音速を超えるまでを『ロケットエンジン』によって補完するという、第二次世界大戦時においてすでにドイツ空軍によって考案されていた、アクロバッティングな運用方法。
これにより理論上、ジェット航空機としての限界速度──すなわち、ジェットエンジン駆動の極超音速巡航ミサイルと、同等以上の速度を出せるのだ。
──もちろん、そのような超高速で飛行する機体を、生身の人間で制御することなぞ不可能であり、本来なら無人のミサイルやドローン等にしか、活用できないであろう。
しかし、乗っているのが、人間なぞ遙かに凌駕する身体能力と頑強性を誇る、『吸血鬼』ならどうであろうか?
そうなのである。
私ことクルピンスキー旧ドイツ空軍大尉は、吸血鬼であるからこそ、マッハ5以上という極超音速における強烈なる重力加速度『G』にも耐え切れたし、文字通りに人間離れした動体視力により、同じく極超音速で飛行している巡航ミサイルを撃墜することさえもできたのだ。
……まさか我々吸血鬼に、このような『軍事的な活用方法』があったとは。
某『最後○大隊』の皆さんも、このことに気がついていたら、もっと別な戦い方もあったろうに……。
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