第837話、【祝一次突破】わたくし、もう死んでいる美少女探偵『ゾンビィ39号』ですの⁉(後編)
「ぶはははは! 『実は鬼の血を引いている村人だけの山奥の隠れ里』って、一体いつの時代の三流『伝奇系エロゲー』だよwww いやあ、前から思っていたんだよねえ、自分たちは『
「悪魔? 魔女? 魔法少女? ……それに、ゾンビって?」
「おや、『鬼の村長』様は、ご存じありませんか? 実は昨今の魔法少女って、ゾンビみたいなモノだそうですよ?」
「……ということは、あんた、まさか、まさか、まさか、まさか──あの娘は⁉」
「そうです、当節流に言えば、『ゾンビ型魔法少女』ですよ。だから皆さんのような鬼が相手であろうと、恐怖心を抱くことも、力負けすることも、痛みを感じることも、体力が尽きることも無いし、そして何よりも、ゾンビとしての当然の
「「「──なっ⁉」」」
『俺』の言葉に、一斉に『彼女』のほうへと向き直る、多数の『鬼』たち。
自分たちの同胞の屍肉を一心に貪り続けるその姿は、文字通りに『地獄の餓鬼』そのものであった。
「……ああ、間違いない、こいつは『ゾンビ』だ」
「俺たちよりもおぞましき、『屍肉喰らい』だ」
「──ということは、おまえは」
「おまえは」
「おまえは」
「おまえは」
「おまえは」
「おまえは」
「おまえは」
「「「そんな何食わぬ顔をしながら、こうして『女の屍体』なんかを、平気で連れ歩いていたわけなのか⁉」」」
まさしく、『本物の邪悪』を見るような、恐懼の
……失礼な、自分たちのほうこそ、紛い方なく鬼のくせして。
仕方ない、
──そろそろ、『種明かし』をするか。
「うちの部長が『多重人格』であることはすでにご存じのようですが、実はこの僕──いえ、『俺』も同様なのですよ。しかもこの『多重人格化』は言うに及ばず、あなた方の『鬼化』とかいったものさえも含めて、すべて同じ原理で実現されていて、うちの部長は『偶然』によって、あなた方は『血筋』によって、かのユング心理学において高名なる『集合的無意識』とのアクセスを果たして、別の『人格情報』や鬼の『形態情報』を取得して、己の精神や肉体を
「「「──うおっ⁉」」」
『俺』の手のひらの上に忽然と現れた『炎』に、皆一様に目を丸くする鬼たち。
そして──
「……あ、あれ、私、何をしていたのかしら?」
不意に聞こえてくる、この凄惨極まる状況にはあまりにも似つかわしくない、か細く涼やかなる声音。
鬼たちが一斉に振り向けば、そこには端整なる小顔を始めとして全身を血肉だらけにした少女が、きょとんとした表情をしていた。
「………何だ? 一体どうなっているんだ? あんたはゾンビでは無かったのか⁉」
「ゾンビ?………………………それって、何のことでしょうか?」
我を忘れて取り乱し始めた村長さんに対して、まったくの素の表情となって首を傾げるばかりの、我が部長殿。
「──おい、おまえ、これは一体どういうことだ⁉ その炎はどこから出したんだ⁉ 何でさっきまでゾンビそのままだったこの娘が、突然元に戻ったのだ⁉」
もはや矢も楯もたまらずに、今度は『俺』に向かって怒鳴り散らしてくる、村長さん。
「だから言ったじゃないですか? 『彼女』や『俺』のような『多重人格者』は、集合的無意識とアクセスすることで、別の人格を自分の脳みそに
「げ、原理的に可能って、いやいやいや、理屈上はそうかも知れないが、実際にそんなことができるはずは無いだろうが⁉ もしも万が一できるとしたら、それは文字通りに、『神か悪魔の所業』以外の何物でも無いじゃないか⁉」
「まあ、『他者を集合的無意識に強制的にアクセスさせる力』によって、死人すらも甦らせることができるとしたら、『神をも恐れぬ悪魔の所業』と言われても、仕方ないでしょうね。──それで皆さんは、そんな『悪魔』の目の前にいつまでもいて、平気なのですか?」
「……何だと?」
「──そ、村長、大変です!」
「我らはいつの間にか、『鬼としての力』を失っていますぞ⁉」
「皆、額の角も、無くなっているし⁉」
「──な、何い⁉」
ここに来てようやく自分たちの異変に気づいた村人たちに対して、哀れみの表情を隠すことなく、『俺』はとどめの言葉を突きつける。
「言ったでしょう、あなた方が『鬼』となることができるのも、御先祖様から受け継いできた『集合的無意識とのアクセス能力』の為せる業であるのだから、まさしく神や悪魔同然に、他者のアクセス能力を左右することのできるこの『俺』が、たった今あなた方の集合的無意識との
「「「……え、それじゃ、我らは、これから」」」
「鬼の超人的な運動能力を使って、この場から逃げ出すこともできずに、ただひたすらむごたらしく、『彼女』に喰い殺されるだけでしょうな」
「……ぐるるるるる」
「「「ひっ」」」
ようやく
同じく『俺』独自の『集合的無意識との強制的な遮断能力』によって、再び『生前の人格』を失った『彼女』が、よだれをたらしながら『獲物たち』のほうを見つめていた。
──さあ、お待ちかねの、『ディナーショウ』の始まりだ。
夜が明けるまでに、果たして何匹、喰らうことができるであろうか?
『最愛の女性』の、おぞましい『捕食シーン』をにこやかに眺めながら、その時『俺』は、今再び決意を固めていた。
たとえ『悪魔』にこの身も魂も売り渡すことになろうとも、たとえこの世の何を犠牲にしようとも、もう二度と『彼女』を失ったりするものか──と。
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